6.初の大観衆配信
放課後、家に帰ると美桜さんからメッセージが届いていた。
『今日の夜、もしお時間があれば通話でお話しませんか?配信のことで相談があります』
僕は喜んで了承した。
夜8時、約束の時間にオンライン通話を開始する。
「こんばんは、隼人さん」
画面に映った美桜さんは、配信の時とは違って少し緊張しているように見えた。
「こんばんは。お疲れ様です」
「実は...お願いがあるんです」
美桜さんは少し恥ずかしそうに俯いた。
「今度、一緒に配信させていただけませんか?隼人さんの《モンスター視点モード》、本当にすごいと思うんです」
「《モンスター視点モード》?」
「あ、勝手に名前をつけてしまいました。隼人さんが持っている、モンスターの心の声が分かる能力です」
確かに、あの機能には名前がなかった。《モンスター視点モード》...わかりやすい名前だ。
「でも僕なんかが、美桜さんと一緒に配信していいんでしょうか?」
「そんなことありません!私の方こそ、隼人さんから学びたいことがたくさんあります」
美桜さんの真剣な表情に、僕は心を動かされた。
「分かりました。ぜひ、お願いします」
「ありがとうございます!それで...もう一つお願いが」
「はい」
「実は、黒崎竜也さんという配信者さんをご存知ですか?」
黒崎竜也。登録者80万人の人気配信者で、実力派として有名な人だ。
「名前は知ってます」
「その黒崎さんが...隼人さんに挑戦状を叩きつけてきたんです」
「え?」
美桜さんがスマホの画面を見せてくれた。そこには黒崎竜也の投稿が表示されている。
『昨日話題になった新人配信者について。モンスターとの茶番で注目を集めるのは配信者として邪道だと思う。真の実力を見せてもらいたい。公開配信での対決を提案する』
僕は困惑した。茶番って...
「黒崎さんは実力主義の人なんです。多分、隼人さんの配信スタイルが理解できないんだと思います」
「でも僕、戦闘は得意じゃないですし...」
「大丈夫です。私も一緒に参加します。三人でのダンジョン配信という形にすれば、隼人さんの負担も減るはずです」
美桜さんの提案に、僕は少し安心した。
「それなら...やってみましょうか」
「本当ですか?ありがとうございます!」
美桜さんは嬉しそうに微笑んだ。
「きっと、隼人さんの素晴らしさを多くの人に分かってもらえると思います」
通話を終えた後、僕は明日の配信について考えた。
28万人の登録者。その多くが、僕の《モンスター視点モード》を見たがっている。
でも僕自身、まだこの能力について完全に理解できていない。
なぜ僕にだけこの機能があるのか。
なぜモンスターの心の声が聞こえるのか。
分からないことだらけだった。
でも一つだけ確かなことがある。
昨日、スライムたちと過ごした時間は本当に楽しかった。
相手の気持ちが分かれば、きっと分かり合える。
それが人間でも、モンスターでも。
明日の配信では、その想いを視聴者のみんなに伝えたい。
そして、黒崎竜也さんにも、僕なりの「実力」を見せたい。
戦闘力ではない、別の形の強さを。
その夜、僕は《モンスター視点モード》について、母さんに話してみた。
「不思議な能力ね」
母さんは真剣に聞いてくれた。
「でも隼人らしいわ。昔から、動物や虫にも優しかったものね」
「そうかな?」
「覚えてない?小学生の頃、怪我した野良猫を拾ってきて、一生懸命看病してたじゃない」
そういえば、そんなことがあったかもしれない。
「きっと、その優しさがモンスターたちにも伝わるのよ」
母さんの言葉が胸に響いた。
もしかしたら、《モンスター視点モード》は僕の特別な能力なんかじゃないのかもしれない。
ただ、相手の気持ちを理解しようとする心。
それが形になって現れただけなのかも。
明日は大勢の人が見ている。
プレッシャーもあるけれど、きっと大丈夫。
僕には《モンスター視点モード》がある。
そして何より、応援してくれる視聴者のみんながいる。
新しい一歩を踏み出す準備は、整った。