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1.視聴者3人の日常

「えーっと、今日も『そらまめch』をご視聴いただき、ありがとうございます」


 僕、桜庭隼人は今日もカメラの向こうの3人に向かって頭を下げた。画面右上に表示される視聴者数は、いつものように「3」。コメント欄には馴染みのハンドルネームが並んでいる。


```

ポテチ:そらまめくんお疲れ様!

だんご:今日はどこのダンジョン?

ねこまる:無理しちゃダメよ〜

```


「今日は翠森の洞窟、F級ダンジョンを探索します。いつものように安全第一で行きますね」


 翠森の洞窟は東京都心から電車で1時間の、初心者向けダンジョンだ。2年前から日本各地に出現したダンジョンの中でも特に安全で、政府の「ダンジョン探索配信法」で認定された僕みたいな個人配信者でも気軽に挑戦できる。


危険度:★☆☆☆☆

推奨人数:1〜2人

主な出現モンスター:ゴブリン、スライム

推定収益:月3万円程度


 母さんの医療費を考えると全然足りないけれど、視聴者のみんなが喜んでくれるなら、それでいい。


「装備チェックしますね。回復ポーション3本、緊急脱出アイテム、それから...」


```

ポテチ:そらまめくんの慎重さ好き

だんご:他の配信者みたいに無茶しないでね

ねこまる:ゴブリンさんたちも生き物だから優しくしてあげて

```


 ねこまるさんはいつもそう言う。モンスターに優しくって、変わった人だけど、なんだか心が温かくなる。


「それじゃあ、入りますよ〜」


 ダンジョンゲートをくぐった瞬間、いつものように胸の奥がざわめいた。これが僕のスキル《危険察知》だ。地味で目立たないけれど、おかげで今まで一度も大怪我をしたことがない。


 洞窟内は薄暗く、天井から垂れ下がる鍾乳石が幻想的な影を落としている。配信カメラが周囲を映し出すと、コメント欄に反応が現れた。


```

ポテチ:今日も綺麗な洞窟

だんご:癒される〜

ねこまる:平和そうで良かった

```


「今のところ危険は感じませんね。ゆっくり進んでいきます」


 実際、《危険察知》は静かなままだった。翠森の洞窟のゴブリンたちは基本的に大人しく、こちらから手を出さなければ向こうも攻撃してこない。それが僕がここを選ぶ理由だった。


 20分ほど歩いたところで、奥の方からかすかな光が見えた。


「おや、あれは...」


 その時だった。


『配信システムエラーが発生しました。復旧まで配信を継続します』


 画面に警告メッセージが表示される。え?配信が切れない?


```

ポテチ:システムエラー?

だんご:大丈夫?

ねこまる:無理しないで戻った方が...

```


「あ、えーっと、システムエラーみたいですが、大丈夫です。すぐに戻りますね」


 でも配信終了ボタンを押しても反応しない。機材の故障だろうか。まあ、特に危険もないし、もう少し様子を見てみよう。


 そんな風に考えていた僕は、まだ知らなかった。


 この配信切り忘れが、僕の人生を180度変えることになるなんて。


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