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イリス、今度はあなたの味方  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第三章 宮廷遊戯

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決別

 貴族たちはざわついた。

 わたしはルカを見据え言った。


「ルカ・リオンテール、あなたは姉の不義を知り、その相手であるエヴァレット・ノーマンを殺した。そうしてセオドア帝の子供も殺した! 彼女の秘密を、消すために。オーランド様を、たった一人の皇帝とするために。だからサーリ様は病んだのでしょう!」


 クリステル家の反乱の名目は、くだらない言い掛かりなどではなかったのだ。


 ――子供を助けて。

 そう呟いた、サーリの哀れな声が蘇る。あれは、クリステル家の長子のことなどではない。過去に殺した、セオドアの子供のことだった。

 ルカは、憎々しげにわたしを睨んでいる。


「……何を言うかと思えば、とんでもない妄想だ。ミア・クリステルに唆されたか?」


 ルカに認める気などないようだ。こうなったら、全面対決だ。わたしは両手を握りしめ、更に言った。


「ルカ様、あなたはわたしがネルド=カスタ聖密卿に誘拐された時、彼の城を燃やしていたのではないのですか。

 ネルド=カスタは言っていました。聖女なんていくらでも作れるのだと。彼はその実験をあの城でして、そうして成功させたのではないのですか? ……クロード先生、ヘルを襲撃した魔法兵の先鋒は、その聖女のなり損ないだったんでしょう?」


 問いかけると、クロードは静かに頷いた。


「ローブの下は、確かに少女達だった」


 やっぱり、そうだったんだ、とわたしは思う。

 兵士として育てられ、聖女を作るという実験台にされた少女たちが、スタンダリアには存在していた。

 クロードは続ける。


「彼女らの魔力は聖女に迫るものがあったが、寿命は短い。体の内部に、激しい損傷が見受けられた。あれは使い捨ての兵器だった」

 

「その情報を、ルカ様はどこからか仕入れたのでしょう。きっとタイラー・ガン総督ではないかしら。それを知ったルカ様は、スタンダリアに聖女が現れないように、密かに大陸に渡り、ネルド=カスタ聖密卿の城を焼いた。

 実験の成果を全て奪い、自分でも試したのではないのですか? わたしがヘルで眠っていた際、この城にルカ様は不在だったと聞いています」


 ゆっくりと、アリアを見た。美しく整った顔が、歪んでいる。

 

「イリス様は、その成果が、わたしだと言いたいのですか?」

 

「はい、そう言っています。あなたがわたしの魔力を奪ったのだと思います」


 わたしの表情も、ひどく険しいものだっただろう。


「どうやって聖女を作るというのです?」


「さあ、方法は、見当も付きません」


 ふ、と、数人が馬鹿にしたように息を吐いた気配がした。うちの一人が、口を挟む。


「私には分からないので、イリス様。どうか教えていただけませんか? 仮に、聖女を新たに作ろうとする試みが成功していたとして、ローザリアには、既にあなたがいらっしゃる。

 リオンテール公があえて新たな聖女を作る理由はないのではないですか? だとすると、自ずとどちらが嘘を吐いているのか見えてきましょう」


 わたしだと言いたいようだ。


「それは――」


 言い澱んだのは、ディマがひた隠しにしてきた秘密だからだった。


「ディミトリオスがセオドア帝の、唯一残された子供であるためだ」


 壁際にいたルシオが、はっきりとそう言った。

 誰もが驚いて彼を見る。わたしも同じだ。彼はいつ知ったのだろうか。


「ルシオ! 余計なことを言うんじゃない!」ファブリシオの叱責にも、ルシオは止まらなかった。


「馬鹿馬鹿しい! この世にこれほどくだらないことはないぜ。リオンテール家出身の女が皇妃になり、画家と浮気してできた子供を皇帝にし続けるために、あんたらはテミス家を嵌めようとした。彼らが聖女を偽り国政に入り込んだと言いがかりをつけるために、アリア・ルトゥムを連れてきたんだ! 

 ……ディマ、このクソ共に証拠を見せてやれ!」


 ディマは、本当によい友達を持ったのだと思う。

 固い表情のまま、ディマは瞳にかけていた魔法を消した。その目は、セオドアと同じ、黄金色の光を放つ。


「……彼の言う通りです。僕は、セオドア・フォーマルハウトとカミラ・ネストの息子です。母の死後、テミス家に養子として引き取られました。そのことを、ルカ・リオンテール公はご存知のはずです。ミア・クリステル様から伝えてもらうように、少し前に頼みましたから」


「なんだと?」ルカが初めて驚愕の表情を見せる。

 

 彼はミアとわたしたちの繋がりを、知らなかったに違いない。ディマは血統をミアに伝え、協力を仰いだ。ミアはルカにそれを教え、その後アリアが現れた。

 

 この国には、動機があったのだ。

 イリスが死ななくてはならなかった、強烈な動機が。

 それはテミス家を排除して、ディミトリオスをも、永遠に闇に葬らなくてはならないという、動機だった。オーランドと、リオンテール家を守るために。

  

 息が、漏れた。


 イリスのせいではなかった。

 彼女は何一つ、悪くなかった。

 偽の聖女じゃなかった。

 彼女に罪は、一つもなかった。

 なのに彼女は、殺された。


 たった一人、むごい拷問に耐え、冷たい牢で余生を過ごし、石を投げられながら、嘲笑と軽蔑を浴びて、処刑台に向かっていった。


 自分こそが皇帝に相応しい人間だ――という小説のディミトリオスの主張は、正しいものだったんだ。彼は間違っていなかった。

 皇帝の息子は、今になっては、ディミトリオス・テミス、ただ一人なのだから。

 小説の中で、ルカ達の企ては失敗した。ディミトリオスは生き残った。小説の中のオーランドも、自分が画家の息子だなどと、少しも知らなかったに違いない。帝位争いは泥沼化し、炎の中でディミトリオスが焼け死ぬまで、延々と続いた。


 誰もが、ディマの瞳を覗き込んだ。皆が黄金に、吸い寄せられているようだった。

 

「僕はこの血を利用して、どこまでだってあなた方を追い込んで、地獄の底へ叩き落としてやることだってできる。セオドアの血を引く僕に従う人間は多い。今だって創造主派は隠れ住んでいるんだから。辻ごとで人が死ぬ。隣人が明日自分を殺すかもしれない。そんな世の中に、また戻りたいのですか」

 

 皆は静寂し、銘々の思考に、没頭している。

 

「だが、この話をこの場だけに留めたいというのなら、僕らだって従う。僕らを無事に、故郷の領地に返して、一生不干渉とするならだ。これは脅しじゃない。僕らの譲歩です」


「ヴァリ司祭はどう思うのかね。アリアとイリス、どちらが我々を騙している?」


 それを言ったのは、ファブリシオだった。クロードは淡々と答えた。


「聖女を認めるのは、私ではなく教皇です。今、この場で誰が真実を言っているかを決める権限は、私にはありません。ただし――」


 クロードは、わたし達三人の顔を順に見た。


「テミス家を、昔からよく知っています。彼らの友人として私個人の考えを述べるなら、人を欺き、嘘を吐くような方々ではないと、思っています。私が不思議なのは、先日までイリスに頼りきりだったあなた方が、信頼も友愛も簡単に捨てようとしている姿の方ですよ」


 それは救いの言葉に思えた。小説で、わたし達を救うことはなかったクロードだけど、今は、庇おうとしてくれていた。

 ファブリシオは腕を組んだ。


「では、イリスとアリア、どちらかが聖女である以上、どちらも断罪するわけにはいかない。陛下、裁きは後日としてはいかがでしょう? テミス家にも、アリア嬢にも見張りをつけ、解放するしかありません。我々には判断ができませんからな」


 彼はこの場を丸く収めようとする。

 けれどオーランドは、やはりわたしを凝視したまま、動かない。皆が、彼の言葉を待った。

 長い静寂の末、ようやく彼は口を開く。


「……貴公らの判断など、不要だ。ローザリア法典では、そもそも皇帝の決定が全てだと記されている。今まで貴公らに意見を聞いていたのは、諸貴族の顔を立てるという意味以外、ない」


 彼らしからぬ、強い言葉だった。


「アリア――テミス家をこの場で殺せ」


「仰せのままに」


 アリアが両手に魔法を帯びた。


「二人とも、お母様の後ろに!」


 お母様がわたしたちの前に立ち、防御の魔法陣を眼前に出した。けれどアリアの魔法に比べると、あまりにも弱い。


「くそ!」

 

 ディマは叫ぶと、背後に空間転移の魔法陣を出現させた。オレンジ色の火花に縁取られた円の向こうは暗い闇だ。


「逃すな!」


 ルカの声が聞こえた直後、アリアの魔法が鋭くわたしたち目掛けて飛び、同時にディマが、わたしとお母様の体を円の中へと引っ張った。

 大きな音が炸裂した時には、わたしは闇の中にいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 原作イリスの潔白 [一言] イリスとディマがもう少し真摯にオーランドと向き合っていれば耳飾りがなくなっていることにも気付けてここまでの窮地には至らなかったんじゃないだろうか… 原作ディマ…
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