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イリス、今度はあなたの味方  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第二章 ローザリア戦記

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奇襲、混乱

ディミトリオス・テミス

 一人で頭を冷やしたかった。

 ルシオもクロードも、ディマを気遣ってか部屋には入ってこない。


 イリスと兄妹でないと、ルシオに気付かれた。クロードにも聞かれたことだろう。二人を信頼しているし、黙ってくれと頼めば漏らさないだろうが、隠し通すべきだった。

 血の繋がりがないと、誰にも知られてはならなかった。子供の頃にすらすらと話せた言い訳を、さっきも言えば良かったのだ。


 部屋の窓から、ディマは外を眺めた。

 ヘルは賑わう港町だ。海辺には海岸と船着き場が広がり、話される言語はローザリア語だった。赤茶色の屋根が並ぶ町並みはスタンダリアのものだが、並ぶ国旗は、赤地に黒い薔薇の描かれたローザリアのものだった。

 本土にはまだ遠い。だが懐かしさが胸に溢れた。


(もう少しで会えるんだ。いつかまた、故郷で暮らせる日がきっと来る)


 うんざりだった。家族と離れて暮らさなくてはならないことも、自分を偽って生きなくてはならないことも。

 イリスはかつて言っていた。小説の中でアレンは死に、いずれミランダもイリスも処刑されるのだと。だがアレンは生きているし、ミランダもイリスも、アリアが現れたらすぐに身を引けば、生き延びられる。だからまた、必ず家族一緒に暮らせるはずだ。

 この仮面劇はいつかは終わる。そんな希望がなくては、とても耐えられなかった。


 幸せ過ぎた領地での暮らしを思い出した。

 三年ぶりの帰郷だ。

 期待と不安に押しつぶされそうだった。


 夕日が水平線に沈み始めていた。

 実母と二人で暮らしていた頃、領地を檻のように感じていた。血のように赤い夕日が恐ろしかった。日が沈めば、また朝が来る。その事実に、ひたすら怯えて暮らしていた。

 だが今は、帰りたくて仕方がない。イリスと二人で見た故郷の夕日を、彼女ごと愛しているのだから。

 

 ぼんやりと、そう過ごしていた時だ。部屋が、唐突にズシンと揺れた。

 窓がビリビリと音を立て鳴る。


(何だ――!)


 異変を感じたディマは即座に部屋を出ると、階段を駆け下り、まだ一階の食堂にいたルシオとクロードを横目に、外へと出た。皆、唖然とした表情で、西の方角を見つめている。

 第一城壁の向こうで、黒煙が上がっていた。


「砦のある方だ……」


 ヘルが要塞として最強だと謳われているのは、街を囲む二つの城壁に加え、五つの砦があるからだ。だがそのうちの一つが、黒煙を上げている。


(事故か、それとも)


 状況を理解できないまま、再び地面が揺れる衝撃があった。目を向けると、別の砦がある方向からも煙と炎が上がっていた。


 空が赤いのは炎が燃え盛っているからで、決して夕日のせいではない。

 呆然と煙を見上げる人々の中で、ディマもまたそうしていた。だが第一城壁の上で、何かが起きていることに気がついた。城壁を守る兵士が、何者かに襲われている。


(さっき砦が襲われたばかりだ、早すぎる……!)


 空間転移か、瞬間移動か? それほど強い魔法を使える人間がイリス以外にいるとはにわかに信じ難いが、敵は確かにそこにいた。

 城壁に掛けられている防御の術式のせいで、中までは入り込めなかったのか。


 考えるより先に動いていた。宿屋に繋がれている馬に飛び乗ると、背後から声がした。


「ディミトリオス、行ってはだめだ!」

 

 クロードがディマを止めるために放った魔法を弾き返すと、一目散に馬を走らせる。


(ロゼ=グラスに勝利したから、スタンダリアのヘル侵攻は起こり得ないと思っていた。だけど……)


 職を失った傭兵たちが各地で問題を起こしているとクロードは言っていたし、実際にこの目で見た。傭兵問題を解決し、ついでにヘルを奪還しようとスタンダリアが攻め込むということは十分にあり得る。

 

 何が起こっているかはまだ分からない。だが非常事態であることは確かだった。

 第二城壁を抜け、第一城壁の内側に広がる街に出る。


 城壁の門は閉ざされ、今まさに閂がなされる。意味があるのかは分からない。城壁の上には敵らしき者たちが数人、兵士と交戦していた。敵はローブを纏い、どのような人物たちかは判断できない。


「老人と子供を優先させろ! 動けない者には肩を貸してやれ! 第二城壁の内側へ避難するんだ!」


 若い男が一人、大通りで馬を走らせ、人々にそう叫んでいた。敵がその男に目を向け、手をかざし、魔法を放ったのが見えた。


「危ない!」


 男に向かう魔法を防ぐため、防御の魔法陣を出現させた。だが重い攻撃だ、消滅させることはできない。


(押し負ける!)


 急ぎ男の側まで行くと、手を伸ばす。


「あなたが狙いみたいだ、乗り移れ!」

 

 体を掴むようにして自分の馬に乗せた瞬間、ディマの魔法陣は崩れ、攻撃魔法は直進し、建物を破壊した。

 強い殺意の込もった攻撃だった。


「助かった、ありがとう」


 男は言うが、ディマは言い返す。


「助かったかはまだ分からない」


 敵はこちらを認識した。城壁の上の兵士達を殺しながらも、連続して攻撃魔法を放ってくる。馬を左右に走らせ交わすが、徐々に追い詰められていく。街は否応なしに破壊されていった。


 反撃にディマも魔法を放った。人の命を奪うことに、迷いはさほどなかった。敵を殺さなければ、更に人が多く死ぬのだから。

 だがディマの攻撃は容易く弾かれる。

 相手は相当に力の強い者たちのようだった。


 しかしその時、意外なことが起こった。ディマの魔法が弾かれた隙に、ディマではない者が魔法を放ったのだ。魔法が敵に直撃し、外側へ一人、落ちていった。馬を止め、振り返るとクロードがいる。

 

「数人がかりで攻撃すれば倒せる! 街の内部に侵入させるな、追い払うぞ!」


 その間にも、逃げ惑う人々や建物めがけて攻撃魔法が繰り出される。射程距離も長い。

 魔術が使える者は防御魔法でそれを防ぐが、統制の取れない動きではこちらの方が不利だった。

 

 ディマの後ろに乗っている男が、周囲に叫ぶ。

 

「戦える者は武器を持て! 城壁を守れ! 魔法を使える者は魔法を、そうでない者は矢を放つんだ! ヘル内部に、一歩たりとも敵の侵入を許すな! 愛する街を守れ! 奮い立てローザリア人たちよ!」


 数人が耳を貸し、逃げる足を止めた。すでに城壁の上に、ヘルの兵士はいなかった。皆殺されたか、こちらの意図を汲んで退避したか、したようだ。

 男はなおも叫ぶ。


「攻撃のできる者と防御のできる者で固まれ! 避難者たちを守ることだけを考えろ!」


 敵の攻撃は続いていた。遥か右方向で、一際大きな音がする。見ると城壁の一部が壊されていた。


(瓦解する。ヘルが落ちる!)


 恐ろしい予感が頭をよぎる。

 同時攻撃の最終目的はヘルそのものだ。兵の詰める砦を壊し、城壁を内側から破れば、あとは軍隊をゆっくり招き入れればいいだけだ。ヘルが強固な護りだと信じられてきたのは、それほどまでの兵器や魔力を誰も想定していなかったからだった。

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