雑な扱いしないでね?
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
こんな会話があって欲しいという作者の妄想。
「そう睨まないでよ。何も喧嘩をしに来た訳じゃないんだから。今日はお願いがあって来たんだ」
秋風のような軽薄さでそう仰ると、細めた目を僅かに開いた。
――明日から君は僕の元を離れて一人暮らしする事になる訳だけど、何も心配要らないからね。ちゃんと根回しはしといたから。
そう、育ての親から言われ、ただいまその大家さんに挨拶する為に玄関前に立っている。何でも此処の大家さんとは旧知の仲の様で、信頼に足るからと私の住居を決めた様だった。
どんな方だろうか。優しい方だと良い。なんなら私の育ての親の様に柔らかな方だと良い。そう思って、呼び鈴を鳴らした後の事、すっと足が竦む。逃げる事も、縮こまる事も出来ない程の強烈な威圧感。息が詰まる。私は訳が分からないなりに、棒立ちになった。
音もなく玄関の扉が開く。現れたのは偉丈夫。見上げなくては顔を拝む事さえ出来はしない程の高身長。そうして顔を合わせた先に待っていたのは、ひれ伏さんまでの強烈な眼光だった。
「あっ……あっ……あぁ……」
威圧感の正体に気が付く。この御前から発せられたものだ。離れていても逃げる事さえ許さない程の強烈な存在感。呂律さえろくに回らず、私は持っていた挨拶品をただ胸に抱え込む。そうして数秒間、見詰め合う。数分に有り得る長い間だった。
「話には聞いている。今日からお前は俺の管轄に置かれる。だからそう怯えるな」
そう仰ると、黙って私に缶ココアを下賜なさる。其れがこの方と交わした初めての会話だった。
か弱き娘が去った後、見計らったかのように一通の伝達が届いた。忌まわしき御前。青年期にひたすら殴り合った相手の上の者。今でも決して良い感情は抱いていない。
「どう? うちの子は。君のような御前が守りたくなるほど、か弱くて可愛いだろう?」
「えぇ。本当に」
あの飄々とした電話相手と似ても似つかぬ程に感情が表に出やすい娘だった。初めて相対した時、体全体を使って俺を恐れた。とって食われる小動物の反応だった。そんな反応をされて、雑な扱いなど出来るはずもなく。寧ろ庇護欲を掻き立てられたのは言うまでもない。
「君の強さは本当に良く理解しているつもりだよ。だから仇敵とはいえ、君にお願いしたんだ。あの子を預けるに相応しいと」
其れからまた、全てを見透かした様な飄々とした声音で唄う。
「僕の事は最高に嫌いだろうけど、あの子の事は宜しくね。間違っても雑な扱いをしないでね」
誰がするか。と喉元まで出かかった言葉を飲み飲む。か弱い者は須らく守るべき存在だ。其れに例外はない。例え、憎き仇敵の娘であっても。
育ての親との関係は好きなのを思い浮かべていただけると。
血は繋がってないからこその、生々しい関係だと嬉しいです。
ちなみに渡されたココアは育ての親が送ったもの。
大家さんは甘いもの苦手なんで、遠回しに『あの子に渡してね』という暗示です。
相手がどんなに嫌いでも、その娘に憎悪がある訳じゃない。
か弱き者は例外なく守るべき対象。
だから全身全霊を持って、庇護下に置こうとする話。
そこに漢を感じます。
それはそれとして、育てと親の名前が出たら睨みを効かせると思います。
元々眼力の凄い方々なので、本気で睨んだら相手が尻込みします。
定期的に書きたくなる方なんですけど、礼儀礼節に厳しい方なので、オマージュを重ねてます。