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10、最後の王

「ローズ。王命が来た」

「あら、早かったわね。夜会の失態がそうとう効いたようね」

「陛下も頭を抱えたそうだ」


『王命


 1、王太子エリック・エルクラドとユリーナ・ドリアドアの婚約を解消する。

 慰謝料などの費用については後日連絡する。


 2,王太子エリック・エルクラドとローズ・シュナイダーの婚約を命令する。

 費用については後日連絡する。


 デザール・エルクラド』


「よし!作戦開始!」



 その日、王国に激震が走った。

 この非常事態の時に、さらに非常事態が起こったのだ。


 特に激怒したのが、王派閥筆頭ドリアドア公爵だ。

 別にあの馬鹿王太子が惜しいとかではない。

 そもそも娘共々この婚約など興味がなかったのだ。


 無能な国王に無能な王太子。娘が幸せになるはずがない。

 娘が王太子妃教育で頑張っている時に、あの王太子は女性を侍らせて遊んでいたのだ。

 それでも国のためと我慢していた。


 その結果がこれか!


 ユリーナ公爵令嬢は現在18歳。

 高位貴族令嬢が、この年で婚約者がいない、という事はほとんどない。

 貴重な時間を奪われたのだ。あの馬鹿王太子に。


「バーグ公爵に連絡してくれ」



 どうやら、アクレシア帝国の前に、内戦が勃発しそうだ。



 ◆



「近衛第一軍、アルフレッド少佐です。近衛第一、第二軍は王家は守護に値しないと判断し、これを放棄し、各々領主軍で勤務致します」


 守る価値がないよ、アンタ達。ってことである。

 別に王太子の妃が誰でもいいが、この時期にどうこうするか?ということだ。

 イタズラに国内を刺激して、そんな王族を守るために、自国民と戦えるか!ということだ。 

 現在、王族にとって危険なのはアクレシア帝国ではなく、本来守るべき自国民なのである。 

 近衛兵全員が退官した。



 ◆



「陛下、シュナイダー侯爵です、参りました」

「うむ、ご苦労」

「陛下、失礼を承知で申し上げますが、これは何かの御冗談なのでしょうか?」

「どういう事かな?」

「いえ、先日娘が夜会から帰ってきたら酷く怒っていまして、何でも王太子殿下に馬鹿にされた、とか」

「あれは馬鹿息子の不徳の致すところだ。申し訳無い」

「いえいえ、そうではなくて、今回のアクレシア帝国がどこから侵攻してくるのか、娘が知らないとでも思ったのか、そういった事を聞こうとしたとか?いやいや子供でも知っている事を国際会議にまで出席した娘が知らないわけもないし、と少々混乱しまして」

「それを知らなかったのはエリックなのだ」

「え?」

「すまぬ」

「でも殿下が(いくさ)の指揮をするのですよね?」

「いや、此度(こたび)の戦にはエリックは出ない」

「え、あ、あの噂は本当だったのですか?」

「噂?」

「えっと、その...」

「構わん、申せ」

「実は、エリック王太子が無能すぎて使えない、と」

「そうだ、あやつは馬鹿だ」


 シュナイダー侯爵は、鬼の形相で立ち上がった。


「そんな馬鹿を娘に押し付けるのですか?王命で!」

「あ、いや」

「陛下、これは由々しき事態ですぞ。こんな馬鹿げた王命を出す陛下に、馬鹿王太子。内乱が起こりますぞ」

「いや、馬鹿だからこそ優秀なそなたの娘...」

「はぁ〜無能の代わりに仕事しろ!ですか。もうシュナイダー王国ですぞ、その考え方だと」

「分かっておる。ワシもどうする事もできんでの。本当に申し訳無い」


 シュナイダー侯爵は国王の前に2枚の書類を出した。


「えっと、これがですね、貴族院の書類でローズ・シュナイダーの貴族籍を抹消する、というもので、こちらが、内務省のローズ・シュナイダーはシュナイダー家の籍を抹消するというものです。

 つまり、陛下の王命2、のローズ・シュナイダーはこの国にも私の家族にも居ない、ということで、王命遂行不可能ですね」

「あ、えっ、騙したのか?貴様!」

「何をおしゃっる?宰相閣下から聞いてなかったのですか?もし王族との婚姻となった場合、我が家を離籍する、と契約書まで添付しましたが?」

「そ、そういえば。いや、でも」

「陛下、国際会議での娘をご覧になったでしょう?王族を手のひらで転がすくらい、あの子には造作もない事なのですよ。それに王命というなら、現在同盟3ヶ国の王の連名で、王命を陛下に下す事も出来るのですよ。同盟に参加している現在では」

「グッ」

「あのですね、陛下の馬鹿息子は知りませんが、私の娘は優秀なんです。馬鹿の手助けをするために頑張ってきたのではありません。馬鹿にしないで頂きたい!。あと、ユリーナ公爵令嬢も良かったと思いますよ、馬鹿を相手にしなくて済むのですからね。ではこれにて」


 シュナイダー侯爵は臣下の礼もせずに去って行った。もう主君と認めないとの意思表示なのである。




 ◆               




「ドリアドア公爵、バーグ公爵参りました」

「今度は何だ!」

「陛下、おかしな事を仰る。王命を出したのは陛下ですぞ」

「あ、ああそうだったな」

「いやぁ〜あの王命が来た時はですね、娘になんて言おうか悩んだんですがね、言ったらもう飛び上がって喜びましてね。

 何でも他に思う人が居たらしくてね、馬鹿から開放されたって泣いて喜んでましたよ。なんせ王太子妃教育で頑張っている時に、女侍らせて遊んでいるような王太子でしたからねぇ。

「王太子って暇なのね」なんて言ってたんですが、オルレア王国の王太子はそれは忙しいそうで、他の国の王太子は大変ですねって労ったら、いやいやエルクラド王国の王太子がおかしいだけって笑われました。

 はい!王命賜りました。慰謝料は王宮からそれ相当のものを頂きますね。あ、大丈夫です。きっちり査定しますので、安心して下さい」

「言いたい事はそれだけか?」

「あ、そうです!旧王派閥と貴族派が一緒になりまして反王派(仮)としました。それと中立派のヴァイス公爵も一緒です。でも肝心のシュナイダー侯爵家とエスクリダ侯爵家はもうこの国には居ませんから中立派と言えるか分からないのですけどね。

 それで、シュナイダー商会がエルクラド王国から撤退しましたのでね、我々も補給は必要なので、オルレア王国にお願いして同盟に参加させて頂きましてね。

 いやいやどこかの王族みたいに小娘に任せてふんぞり返って、なんてしませんよ。ちゃんとお願いして東の国境の辺境伯軍と合流して、オルレア王国軍との合同で、アクレシア帝国の侵攻に備えます。

 大丈夫です。どこかの王太子のように、会議中女のケツ見てて作戦が分からない、なんて恥ずかしいマネはしませんから。あ、それから王妃陛下はあの国際会議の時にオルレア王国の王妃陛下と一緒に国に帰ったそうです!馬鹿の相手は疲れるらしいですね。

 そういうわけで、ルシランド王国、マロン王国同盟軍とオルレア王国と我々の同盟軍で北進するであろうアクレシア帝国を攻撃します。ま、そういう事で」


 そう言ってドリアドア公爵とバーグ公爵は出ていった。もちろん臣下の礼はしなかった。


「ワシが最後の王...か...」


 その後、ドリアドア公爵とバーグ公爵は、オルレア王国国境付近にドリアドア公国を建国。

 もちろん国王や王族の腰巾着の家臣や軍の将官達は、任を解かれ、その公国からは排除されている。


 北進してきたアクレシア帝国軍をルシランド王国、マロン王国同盟軍とオルレア王国、ドリアドア公国の同盟軍で背後と横から挟撃して、ほぼ壊滅させた。そして遂にアクレシア帝国は全面降伏したのであった。

 国境線は元エルクラド王国と同じにして、アクレシア帝国とは不可侵条約と多額の賠償金を請求。

 その他制限事項や今後の外交について話し合う事となった。


 同盟軍の完全勝利である。


 元エルクラド王国崩壊の後、ドリアドア公国が新たに誕生した。


 元エルクラド国王とエリック王太子は、アクレシア帝国の侵攻後に戦場から王都へと逃げ帰った後、王家の愚行に激怒した民衆によって捉えられ、公開処刑される事となったのである。

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