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シンガーソンガーレイジー  作者: いい雨透き透
2/3

2 壊れる日常、雨の日。

日曜日の雨の日だった。


ボトボトと屋根越しに雨の音が聞こえる、とても大きな雨粒だ。

僕はいつも通り朝の7時には体を起こし活動を始める、休日でもだ。

ちなみに平日は30分早い6時30分には起きて活動を始める、そして顔を洗い部屋を掃除し、食事を済ませ出勤する、そう、至って普通な

しかし、その日は駄目だった、顔を洗っているときだった、玄関先から僕を呼ぶ声がした、はじめは無視をしたのだが(寝起きで機嫌が悪かった)

その声はしつこく僕の名前を繰り返した。


5分くらい続いただろうか、そこで僕は玄関先の覗ける小窓から様子をうかがう、


誰もいない。


いるはずがないのだ、なぜなら、その僕を呼ぶ声は遥か昔に失われた声たちだったからだ。二度と聞こえるはずのない声。

現実に生きていて絶対会うことのない者、もう、死んでしまった者。


そして始まる、頭痛、吐き気、立っていられないほどの倦怠感、憂鬱な1日、僕は食事もとらずふらふらと家の中を彷徨い、ベッドに倒れこんだ。

何もできなかった、やるべきことはあったのに、ただ疲れているだけで聞こえたその時だけの幻聴だったならどれだけよかっただろう。

しかし、それは現実で、確かに聞こえたのだ。



1時間ほどは天井を眺めたり閉じた窓を眺めたりした。

何かをしていたいのに何もできないというのはなぜか心身ともに疲弊した。

寝ているのだから身体は休まるだろうと思うだろう、僕は違った。

寝ていても身体の内側がえぐられているような、かき混ぜられているような、

とても落ち着かない時間がずっと続いた。

なんだかすべてがどうでもよくなり「はぁー」と大きなため息をついた時だった。


ドンドンドン!


と、奥の部屋の窓が叩かれた、それを合図に僕の家の窓は叩かれ始める、不規則にすべての窓が、

僕が落ち着きを取り戻すころを狙って、彼らは暴れだしたのだ。


ドンドン、ドンドンドン、5分、10分、間隔はまばらに、軽く叩いたり強く叩いたりした。


「いるんだろう?隠れても無駄だぜ、俺たちはお前の事ならなんだってわかるんだ、知っているんだ、いるんだろう?」

そんな事を彼らが話している気がした。


僕の恐怖心が最高潮に達したとき、部屋の扉の隙間から影が入ってくる、蠢く。何万匹も群れたゴキブリのように。

その影が人の形となり目がギョロっと辺りを見回す、心の奥底を見透かすような目だった、僕の大好きな、ユメザメのような。

そいつはゆっくりと部屋を徘徊し僕の隣にやってくる、目が合う、その瞬間僕はまともに息ができなくなる。

体が硬直し、逃げることもできない。服しか着ていない、無防備。

声も出せない、ただ絶望的な恐怖と息苦しさだけが僕を支配する。


「いやだ、まだ死にたくない、もっと生きたい、まだやりたいことはたくさんある!死にたくない、、、死にたくない!!!!」と心で叫ぶ。

その間もその影は僕の隣でじっと僕を見つめていた。

はっきりとはわからないが、その影は僕の首を絞めているように感じた。

ただ、恐怖心が僕を襲った。


もうだめだ。


限界の瞬間に僕は解放された、そしてはっきりとした声でこう言われた。


「お前なんか死んじゃえ。」

泣きじゃくる男の声だった。恥ずかしさも無く、ただ泣きじゃくっている声だ。


声のほうを見ると男がたっていた、とてもかなしそうな顔で激しく怒っていた。確実に。


僕の思考は完全に停止した。



その男は少し老けた僕に見えたからだ。




「死んじゃえ。死んじゃえ。お前みたいなどうしようもないやつは、、、」


その男はずっとそんな言葉を繰り返していた、世界中の悲劇を、すべて見てきたかのような、どうしようもない表情だった。

なんで僕が僕に死を求めるのか、僕の事を蔑むのか、僕にはわからなかった。



そして意識はプツンと途切れた。

眠ったのだ、深い眠りだった、なんの夢も見ない、純粋な眠り。


目を覚ました時、時刻は午後の3時だった、ひどい頭痛も、恐怖感も、不安も消えていた、きれいさっぱりだった。

少しだけ汗をかいていたので、シャワーを浴びた。


目を覚ましてからシャワーをあびるまで、僕の頭は空っぽで、聡明だった、手に触れるものを細部まで観察し理解する、余裕があった。


「完璧だ」


しかし、シャワーを浴びだした瞬間だった、僕の心は悲しみに包まれた、悲しみだけに包まれた、体を伝う水がすべて僕の涙なんじゃないかと思うくらい悲しかった。


「僕」は「僕」自身に嫌われている。


僕はその日から他人を拒絶するようになった、意識的に、そして無意識に。


それから年に1度それが起こり、30歳を過ぎた頃には月に1度、多い時で2度、3度、その現象に見舞われることになる。

僕の日常は少しずつ壊れていくのだった。



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