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凍矢のカリア  作者: 真季 佑妃
彼女は、非力な小さな女の子だった
2/11

女の子は、森で生きている。

 物語は少しだけ動き、約二週間が経った。



 少女は、その森で何故か奇跡的に生きていた。

 たっ、たっと忙しく足を動かし、何かに追われているようで急いで駆けていく。


「はぁ、はぁ……」

 茂みを越え、木の根が密集しているこぶを飛び、森の奥深くに突き進んでいく。


―――はやく、はやく、逃げなきゃ!

 少女は、その一心で駆けていく。


 例え木の尖った枝先で、腕を掠って痛みが走っても、立ち止まることなく必死に小さな足を動かしていく。

 彼女の背後から、群れを成して駆ける足音を出している集団が一つ、それは狼たちであった。

 きっと腹を空かせているのだろう、少女を見つめる視線は血走る目。

 群れの数は五十くらいだろうかいやそれ以上の狼はいるだろう、駆ける地響きは聞こえる。

 しかし幼い少女よりも、狼の駆けるスピードが勝っているため、徐々に彼女との距離は縮まっていく。


「っ、この!」

 仕方なく彼女は、後ろを振り返る。手に力を込め、狼に向かって突き出した。


「『我にクルッセオのご加護を 敵に雷の一撃を与えよ サンダー』‼」

 手からあふれ出た何かの力は即座に命令通りに雷に変わり、狼のもとへ飛んでいく。


 ちょうど雷は、地面の水溜りのところに偶然当たったのが良かったのか、一瞬にしての雷の威力は倍へとなり大きく爆発して狼たちへ感電させる。

 狼の―――少なくとも前にいた半数は、雷や爆発の影響で倒れていく。しかし、それ以外の狼は健在で着実と距離を縮めながら追いかけてくる。


「っ、まだか」

 周りに木や地面があるため、駆けてくる狼の集団全体には感電が出来ない。


「えっと、足に強化……速度の強化……いや足を補強?」

 必死に走りながら、幼い少女は次に使うべき魔法を脳裏で探す。

 が、どうやっても脳に靄のようなものがかかっており、うまく答えが導けない。けれど……。


「こんなとこで死ねない!」

 次の瞬間、その思いに導かれたかのように、幼い少女の頭に一つの魔法呪文が弾けた。


「『我にクルッセオのご加護を かの者らに雷の光で制圧せよ ライジングシャイン』‼」

 くるっと後ろに向きなおすと両手を上げ、声を張り上げて魔法を唱えた。


 両手から魔法陣が形成されて、また先ほどと同じように大量の何かがあふれ出す。雷により形成された光が狼へ、そして空へ駆けあがり森の奥へとまき散らす。

魔法を唱えた少女は必死にその間は目を閉じ、光を遠ざける。


「ぐるるぅ……」

「ぐるぅう……」

狼らは、急に現れた閃光に目をやられて唸っている。そして、目がいけないのであれば、お得意の鼻で少女の匂いを辿って歩くだろう。


しかし、主に暗闇で行動する狼の目が闇になれるまで、大して時間はかからない。それでも、その少しの時間でさえも幼い少女が、狼から遠ざかるための時間稼ぎには十分だと思う。


少女は目をゆっくり開けると、闇の森の中を距離を稼ぐために走っていこうとした。

けれど、幼い少女の身体に異変がすぐに起こった。


「っく!?わッ」

足に力が出なくなり、彼女はその場にがくっと膝をつかせてしまった。

まだ知識がない幼いからこそ起こること、それは先ほどまでの〝何か〟の力である【ルーレン】の過剰な消費だ。


 【ルーレン】、それは魔法を使うのに必要なものであり、魔力とも言い換えることもある。そのルーレンが無いと、魔法が扱える全てのものは魔法が扱えない。

 幼い少女には、今は知る由ではないが長きに渡る研究の成果により、ルーレンが身体の機能を補助していることが分かっている。底に付きそうなくらいルーレンの量を消費した時、異常事態と脳の潜在意識である本能的な部分で警告を発信される。

 まずルーレンが過剰消費されて起こる第一段階では、身体の動きを停止させる。

 次に起こる第二段階では睡眠体制に切り替わり、次に昏睡状態になるようだ。

 さらにひどいと、命に係わる事態となる。


「……に、げなきゃ」

だが、身体の自由が利かない状態であっても、幼い少女には立ち止まることを許さなかった。


 走るのを諦めず、少女は脱力した足を奮い立たせ、走ろうと一歩踏み出した。

 いきなり力を失い膝から倒れてしまったため、肌が擦れ切れてしまったのだろう。彼女の両膝や手から、至る所から小さく血が流れ始めていた。

 ヒリヒリした肌の痛みを我慢しつつ、けれどゆっくりと一歩進もうとして踏み出す。


 しかし、少女はそこで立ち止まってしまった。

 走ろうとした先に、今にも狼が彼女に襲い掛かろうと待ち構えていたからである。

 まさかと思い、少女が周囲を見回すが後ろも横も狼。

 闇の中に爛々と輝く、いくつもの瞳が少女を見ていた。彼女を中心に一定の距離を置き、狼は息を荒くして今か、今かと待ってる。


「ぐるるるるる」

「ぐるらぁあ」

 少女はこの状況での不利さを感じながら戦うために、ポケットに手を入れる。すぐに目的の物である、それを取り出した。


―――シャキンっ

 現れたのは黒光る鋭いナイフ、鞘から出すと刃が擦れる音が空気を鳴らす。

 少女は、手慣れた様子で狼に刃先を向けて見回す。


「ぐるるっ」

「ぐらぁ!」

 刃物が出た瞬間に、息を荒くしていた狼は威嚇し始める。ナイフが危険なものと本能で理解し、狼の集団は警戒を露わにして唸る。


 けれど、周りに充満し始めた少女の血の匂いが狼まで届いたのか。徐々に血の気を上げてきた狼が、ジリジリと前に出始める。


「来るな!」

 少女は前にじりじりと出てくる狼を睨みつつ、神経を尖らせていく。いつ、狼が背後から来ても応戦できるように。


「「……」」

 少しだけの静まった時でも、少女の神経は少しずつすり減っていく。

 カサ、っと地面の草が鳴る。

 それが、彼らの襲い掛かる合図だった。


「ガゥア!」

少女の背後から前足の爪を大きく出して、狼が勢いよく空中に飛ぶ。


「っ」

 少女は背後の狼に対応する様に、ナイフを力強く握り立てて爪を弾かせようとした。

 が、少女はルーレンを大量に消費し、身体の機能が停止している状況だ。

 そのために、ナイフを持つ幼い手の力は狼の勢いに負けてしまう。

 鈍い金属音を盛大に出したナイフは狼の爪を抉ったのち、勢いをそのまま狼に乗っとられ木の幹に突き刺さる。


「?ぁ……、あ!」

 少女の顔が疑問から驚き、そして顔が真っ青へとなっていき恐怖に染まった。


「ガウァ!」

「グルァアア‼」

 我先に獲物を、と狼が四方より飛んでいき、少女へ襲い掛かる。


「くっ。こ、これしかもう方法が!『我に雷の刃を ライジングナイフ』ッ!」

 少女は死の覚悟でルーレンを振り絞り、魔法陣を四方八方に形成させた。そして、その魔法陣を中心とし、雷の刃を出現させて飛び散らそうとする。


 幼い少女のルーレンは底を尽きそうになっていた。少女の目の前は、黒いものに覆われる。

死んだ、狼に食べられて死ぬんだ、少女は重くなる意識で考える。


「『凍暗炎エアンホムラ』」

 けれど少女に貫かれるはずの、狼の爪や牙による痛みは訪れることなかった。それと同時に、幼い少女の耳にどこからか男の魔術を唱える声が聞こえてきた。


 その直度、彼女の周りから狼の死に行く叫び断末魔が森中に響き渡る。

 驚きはしたが、その狼の様子を確認できるわけがなく、そこで少女の意識は消えて行った。


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