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凍矢のカリア  作者: 真季 佑妃
彼女は、非力な小さな女の子だった
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女の子は、どうしている?

こんにちは。

少しばかり内容をリニューアルして、小説を書きました。

「こ、っの!離せッ!離してッ、離してッ」

 幼い少女が大声をあげて叫び、身体を自由にさせぬように押さえつけている男たちを振りほどこうと必死になっていた。


 そこは少女にとってどこか分からない、暗い森の隅にいた。森には危険があるというのが見て分かるように、人の手が全く加えられておらずに雑草で生い茂っている。獣道でさえも見当たらない。

 鬱蒼と茂る木のせいで、月の光は全くと言っていいほど来ることはない。薄暗い森特有のじめっとしている空気が、夜の暗闇で一層不気味さを醸している。


 押さえつけられている少女の容姿は長く伸ばされた黒髪。目の色は片方しか見えないが、その目は意志のはっきりとしたオレンジであった。


「離してっ!」

 少女は体に魔法の雷を走らせながら、押さえつける男たちに向かって威嚇する。


 しかし、少女が発生させる雷の威力が少ないのか、少女を押さえつけている男たちには影響が無いのか男たちの行動を停めることが出来ていない。


「ふん、無様だな」

 幼い少女の真上では貴族のように上品かつ煌びやかな服を着こなしているオレンジの髪の男女が立っていた。

 この鬱蒼とした森に居るというだけで、場違いなように見える。


 その男は幼い少女を見下しつつも、そう言い放つ。

 女は何故か悲しげな表情でその少女を見ないように、別の方向の空中を見つめていた。


「どうして!これは一体、なんで!?」

 幼い少女は、唸るように見下す男に言う。


「お前はもう要らないから、処分しに来ただけだ。すぐ自由になることが出来るだろう」

 男は見下した言い方の割にはどうやら幼い少女に対して興味がないようで、女と同じように周りを見回すように見ている。

 だが、そんなこと幼い少女には関係がないのだ。


「はっ、『代償殺し』め」


「……口を慎め、小娘」

 毒づいた幼い少女へ男が手を翳した一瞬、その大きな手より出現した電気が幼い少女の身体へ襲い掛かる。


「っ!?く……」

 どれだけ自分の身体に雷を走らせていても、別の所から強力な電気が来ると別になる。


 幼い少女の身体はあっという間に身体の表面や手足が麻痺をしてしまい、先ほどまで振りほどこうと必死になっていたのに脆くも崩れてしまう。

 そのまま幼い少女は、森の草むらに顔を突っ込んでしまう。


「よくも貴族の血でこのようなモノが出てきたものだ。なぁ、そう思わないか」

嘆かわしい、と男はため息を付きつつ少女に言う。


 だが、幼い少女は口の中まで痺れ、なにも答えずただ男の足をじっと見るだけである。

「闇を司る者は、家に闇をもたらす」

 呟くように、男は呟く。言葉だけは憎らしく言う男でさえも、その表情は苦しい。


「……闇をもたらえば、魔が来る。魔を呼えば、厄が襲いその貴族は破滅へと向あう、古い言い伝えうぉよきゅもずっと守り抜いてこらえたえ。そんなのまやかしだと知っているくしぇに」

 幼い少女は、男が発した言葉のそれに応えるように無音であるが小さく呟いた。まだ口の中は痺れており、自由が利かず、ところどころ変な言葉になる。


 男から与えられた雷のせいで、彼女の体の自由は皆無に等しい。少女は、まだ草むらの地面に頬を付けたままいる。

 幼い少女の抵抗が終わったために押さえつけていた男らは少女より離れ、男と女の傍で控えている。男らは少し困惑をしているようであるが、何も言ってこない。

 ただ少女を心配そうに、見つめているだけである。


「ふん、知識は無駄に揃っているのは褒めよう。だが、本当に忌々しい子だ。闇を纏って生まれてこなければ、さぞかし……。聡明な娘として鼻が高かっただろうに、な」

 男は何かが悔しかったのか、少しだけ言葉を濁しつつ言う。


「……鼻が高いなんて、絶対になかったね。だけど、知識をくれたのは、現当主、あなたの父よ。忌まわしいなどと思うなら、そっちを思ってちょうだい。

まぁ、私としては殺すのを失敗した現当主は、『禁術』を犯してまで、代償にしようとするとは思ってはいなかったけどね」

 幼い少女が痺れが取れてきた口で、そう忌々しく言うとその言葉に何を思ったか、男は顔をさらに苦痛に歪めながら黙った。

 彼女の言った『禁術』という言葉が何か引っかかるのだろうか。


 幼い少女は、力を振り絞って草の上へと座る。けれど、男へ襲い掛ろうとも、魔術で対抗してとか逃げようとすることはしなかった。

 ゆっくりと息を出すと、少女は男から目を離した。視線の先には、オレンジの髪をした女。


「母様」


「……」

オレンジ色の髪の女は、この少女の母であるようだ。


しかし、母は目を合わさない。近くにいるので、少女の声は聞こえているはずなのに。


「母様」

もう一度、顔を見せて欲しくて少女は言う。


「……」

女は絶対に下の方を向かない。その様子に、少女の顔は少しだけ曇らせた。


「もういいか?さらばだ、小娘」

 男の大きな掌が近づいてきて、すっと少女の頭に添えた。

けれど、少女にはまだ言うことがあったのか首を振ってそれに対抗する。一瞬だけ男の手から頭が離れた。

 一瞬の隙、それだけで構わなかった。その少女にとっては、充分な時間であった。


「母様、どうか幸せになってください」

 幼い少女なりに女、つまり母に告別の言葉を送る。

 それでも見てくれない女に向かって、幼い少女は泣きそうになりつつも、涙をこらえて無理をしながらも微笑んだ。

 それは、母に対する純粋な思いから出たものであった。


「さよなら、大好きです。母様」

 ぱっと、母である女が驚いたように、目を丸くしてこちらを見た。


―――あれ、母様の目がうっすら光って?


 その瞬間……、男の手から出た雷撃が少女の頭を直撃した。


「っ、あ、ああ、あぁあああああああ?い、いたい……⁉

あああああぁぁぁぁぁあ、アアアァアアアアああああああああぁあああ

ああああああああぁああアアアああああああっ、ああああ」

 いくら魔法の力で人工的に作られた雷の痛みでも、自然の雷と同等の威力である。


 少女の身体が、意思に反して上下左右に暴れまわる。身体の感覚が全て無くなり、訳も分からず少女は喉が潰れても仕方ないくらいに大声で叫ぶ。

 強力な雷の力が頭を、身体を駆け巡る。頭の中や身体の隅々までショートさせ、何処かしこで爆発をしているような気がする。

 手足の先が、チクチクと針が刺されるように痺れる。大きく開いた目が、閉じていないのに暗転を繰り返し点滅する。心臓がどこまでも大きく脈動する。内臓が、身体から飛び出る勢いで動く。

 何も考えられない、ただ『痛い』という感覚が、皮膚の痛覚が研ぎ澄まされていく。


「ぃ、い!か、か、あ様!い、痛い!」

 少女は助けを請うように、母である女の方へ視線を彷徨わせる。

 しかし、少女の視覚は全く役には立っておらず、痛みから出てきた涙のせいなのか五人に見えてくる。それにその五人になっているのは母だけではない。


 何故かあの見下した男まで、人数が増えている。

 おぼろげながらも分かったのは、二人ともが悲しんで見ているみたいだ。


―――これは、幻だろう。そうだ、幻だ。

    男が、彼が、いや……。

    父が悲しむはずなんてあるわけがない。


「か、あさ……ま。と……さ、ま」

 涙を零しながら、そして言葉を踊の奥から出すように絞って出す。少女の手は、母や男へと伸

ばそうとしたが、手の平は彼らの元に届かず地に落ちて行く。


―――だって、こんな私を恨んでいる父様はあんなに悲しげに思わないから、きっと幻だ。

    けれど、幻でも。こんな私がいなくなるということに悲しんでくれていたなら。

    もう……、いいや。ごめんね、『   さま』。


 諦め始めると同じくらいに、少女の記憶がどんどんと奥のほうへと消えていく感覚が起きていた。自分のことでさえも、大好きだった人でさえも何もかもが消えていっている。


―――これが、死ぬってことなんかな。

    ふふ、なんかあっけない死に方だな。けれど、代償殺し、だ、もんね



 幼い少女の意識まで消えていく中、かすかに聞こえてくる言葉があった。死ぬときに最後に残るのは聴力だと本に書かれていたが、本当のようだったみたいだ。


 それは男の悔しそうな涙声と、女の許しを請うような泣き声だった。


「……ごめんな、……ごめんな。」

 そう男は言う、なぜか分からないが聞いていると落ち着いていく。


「ごめんなさい、……ごめんなさい。本当に、無力な私たちを許して。私たちを一生恨んでもいいから、だから幸せになって。私たちの愛しい娘。……会えなくても、ずっと。ずっと愛しているわ」

女の声が聞こえる。


―――誰か分からない、けれど悲しまないで欲しい。

そう少女は思いながら、沈む。


 この想いを応えたい思いと裏腹に、少女の意識は奥底へとゆっくりと沈んでいく。


 やがて、沈んでいく意識は闇底に消えていった。意識を失い地に伏せられた少女の横顔や手にいくつもの誰かの涙のしずくが落ちる。


 緩く()()()()()()()()その手には、紋様の付いた赤い石飾りがそっと持たされていた。


随時、小説を書いていきます。

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