また、あした・・・
「また、あした」あなたはそう言う。
でも、もう明日は来ないからこれでお終いにしよう・・・
前世の記憶がある彼と、記憶の無い彼女が今世も幸せになるために歩み寄ります。
【注意】
この作品は作者が投稿している別作品とつながっていて、その作品の主人公たちの転生話です。
「今日もお疲れ様。また、あした・・・」
「えぇ。また、あしたね」
いつものように私を部屋まで送って、振り返ることなく彼は自分の部屋に帰って行く。
いつもと同じやりとり。
同じ言葉。
でも、いつからかそれでは物足りなくなって来てしまった欲張りな私がいる。
見送る彼の影が長く長く伸びていくのを、見えなくなるまでその場で立ち尽くすように見送った私は、知らずに大きなため息を吐いていた。
私の名前はアリア・ライジアーナ。
ミルクティー色の髪を腰まで伸ばし、子どもの頃から薄緑色のリボンで一つにまとめている。
瞳は琥珀色だけど、彼が言うには角度によって金色に見える時があるらしいが、特別可愛いわけでもないごくごく平均的な顔立ちだ。
王国内の城下町で食事なども提供する酒場を営んでいる両親と2歳上に兄がいる。
兄は騎士団に所属していて、今はルノアとグリータリアの国境近くの街、ムサナーラで国境警備にあたっている。
彼の名前はレントン・バーストン。
茶色の髪に翠色の瞳。
とても整った顔をしていて、私の周りで一番人気のある男の子だ。
彼の両親はうちの酒場の隣で宿屋を営んでいて、3歳下に妹と弟がいる。
双子でとっても可愛いのだ。
そんなご近所さんの両親たちは顔馴染みで仲が良く、私の方が4ヶ月早く生まれたが、私たち2人は記憶にはないお腹の中にいるときからのお付き合いになるのだという。
いわゆる幼なじみというやつだ。
幼いうちは私よりも体が小さなレントンを私が庇って、左手を握って引っ張って歩いていた。
私がいないとダメなレントンだったはずの彼が、私の背を追い抜き、私の前にたち、私を守り、私の右手をとってギュッと握りしめて引っ張って歩くようになったのはいつの頃からか・・・
私はレントンが好きだった。
気づいた時には当たり前のように大好きだった。
レントンのお嫁さんになる!と決めていた。
でも、レントンは違ったのかもしれない。
王国では10歳になると魔力の測定と魔法の特性を調べなければいけない義務が課せられている。
私たちも10歳になった時に、王城の魔法塔に集められて測定を受けた。
私の魔力は平均より少し多かったが、数少ない希少な癒しの魔法の特性と同時に土の魔法特性の二つ同じくらい微量測定された。
2つの特性を持つものは稀なため驚かれたが、その後に測定したレントンを前に私の特性など霞んでしまった。
レントンの魔力は測定器でギリギリ測れるほど多い量で、炎の魔法の特性がとても強く出ていた。
近年稀に見る魔力量と王族に匹敵するほどの魔法持ちのため、周りの大人が驚き慌てふためいている。
(あれ?)
その時、ふと前にもこんな風に魔力を測って慌てる人たちがいたような気がするが、私たちは初めて測定したのだから気のせいだよね?!
高い特性を持つレントンを魔法塔の人たちは、今から魔法学を学ばせ魔法使いにしようと言ったり、いやいや魔法武術を学ばせ魔法騎士にさせようと言ったり大騒ぎになったが、レントンが普通に学校を卒業してから考えるとだけ言って、自宅に帰ってしまったのだ。
そんなことを許さないのが、勝手な大人たちだが『自分で決める』というレントンの意思は固く、押し寄せていた魔法塔の人たちもだんだん来なくなり、今までと変わらない平穏が戻って来た。
「俺は今生は静かに普通に暮らしたいんだ」
と、よく分からないことを言って私に笑いかける。
私たちは近所の学校に通い、友達と遊び勉強をした。
でもレントンはクラスで1番頭が良くて何でも出来てしまうからどこにいても注目の的だった。
みんなの憧れで人気者のレントン。
そんな彼の幼なじみの私は、年頃になると女の子たちからいじめられるようになっていった。
無視されるのなんて普通。
陰口ややった方がない悪意ある噂は多数。
親友のナーミとリリアンと数少ない気心知れた友達がいなかったら、私は壊れていたかもしれない。
でもそんな私への誹謗中傷を良しとしない者がいた。
レントンだ。
レントンは私を無視する子とは話もせず無視をし、悪い噂を払拭しようとしてくれた。
「そんなことしなくていい」
と痩せ我慢をする私に、
「良いわけない!それに俺が嫌なんだ」
と、初めて怒鳴られるように怒られた。
怒鳴られたのと怒られたのと、レントンの優しさを嬉しく感じて涙が溢れて、人目を憚らず号泣してしまう。
「ごめん。ごめん、お願いだから泣かないで。俺はアリアの涙には昔から弱いんだ」
オロオロする彼は、私の涙を止めようと必死になっている。
いつもそうだ。
私が泣くと昔だって泣き止まそうと、大慌てだった。
そう昔も。
優しい彼と友達のおかげで私は無事に学校を卒業し、魔法塔の魔法薬学科に進学した。
私の癒しの魔法と土魔法の特性を活かそうと考えたのだ。
私は昔からなんでだか植物を育てるのが異様に上手でまず枯らすことはなかった。
魔法測定により土魔法が使えるということで納得する。
私は植物とウマがあうのだ。
そんな私が育てた薬草は他の薬草よりも効能が高い物ができやすいことが分かった。
勉強すれば、もっと良い調合や効能が発見されるかもしれない。
それに彼の怪我をすぐに癒すことが出来るかもしれないし・・・
レントンはあっちこっちから声がかかったが、魔法騎士団を目指すことにしたようだ。
炎に特化した魔法剣を操り、レントンの振る剣の炎は赤金に輝きとても綺麗だった。
あまりの美しさに誰もが魅了され、ここでも彼は人気者だった。
そんな彼と距離を取るように隠れて暮らしたい思いと、そばにいたい思いの板挟みになりながらも、レントンが傍にいてくれることが嬉しくてたまらない浅ましい自分の欲に目を伏せ、注目を浴びる彼を幼馴染として鼻が高いと笑った。
でも、レントンは人気があることをあまり嬉しそうにしていない。
「俺には一人、たった一人の大切な人だけがいればいい。普通に一緒に暮らして『おかえり』って言ってくれる人に必要とされるだけでいいんだ」
誰かを思い浮かべるかのように優しく幸せな微笑みを浮かべる顔にショックを受ける。
あぁ・・・
大切に想う人がいるんだ。
それは私ではない。
お嫁さんになりたかったのは私だけだったんだと、唐突に突き付けられたようで心が悲しすぎて悲鳴を上げたような気がした。
その後の記憶は朧気で、何を話したのか自信が無い。
いつものように言葉を返せていたと思いたい。
私は彼の幼馴染。
そのポジションだけは守っていこうと、そばで見守ると心に誓った。
私たちは魔法塔に通うようになったことで、町の家から王宮内の寮に住むようになった。
朝は私がレントンを起こしに部屋のドアを叩き、一緒に魔法塔に登校する。
帰りはお互いの学科が終わるのを待ち一緒に帰り、私の部屋までレントンが送ってくれる。
その関係を冷やかされたこともあったが、特にそれ以上にもそれ以下にも変わることはなかった。
それは卒業まで続いたのだった。
この春私は無事に魔法薬学室に就職する。
私の効能などの論文は薬学者の皆様に認められ、魔法薬学士として働くことが決まった。
レントンも上級魔法騎士として王宮に務めることになった。
新人としては異例の抜擢だが、レントンの実力なら納得だ。
でも、これで私たちの接点はなくなってしまうだろう。
私は魔法塔に出勤し、レントンは王宮に出勤するため時間も合わなくなっていくだろう。
もう幼馴染としてもそばにいられなくなるし、レントンが大切な人と過ごす様子を見ることになっていくのかもしれない。
学生最後の日、一緒に帰る私をレントンはいつも通り部屋の前まで送ってくれた。
「また、あした」
「・・・ううん、レントン。もう『あした』はないよ。今日で最後。お終いにしよう」
涙を浮かべる私の右手をレントンが引っ張り、ぎゅっと胸の中に閉じ込めるように抱きしめられた。
逞しい胸に驚くと同時になぜだか懐かしい想いが溢れ、涙が頬を伝う。
「うん。俺も『またあした』はもう嫌だ。今日で最後にする」
言っていることは同じなのに、レントンの声は嬉しそうな響きを感じる。
でもその声とは裏腹に、胸の鼓動は早くてレントンの緊張が伝わってくる。
「レントン?」
「リア愛してる。一生大切にするから、ずっとずっと俺のそばにいて」
何を言われているのか頭が心がついてこない。
なんて言ったの?今?
私の願望が見せる幻聴?
それに『リア』って・・・
「なんだかレントンが私のこと好きなように聞こえるんだけど?これって夢?」
「そう言ってるんだけど。それに俺の一世一代の告白を夢オチにしないでくれる」
ぎゅーぎゅー抱きしめてくるレントンに段々実感が湧いてきて頬が熱くなってくる。
今までそんな素ぶりを見せなかったレントンの変わり身に驚くと共に、嬉しいと感じる自分がいた。
それと、私は急に彼のことを、
「レン、大好きよ」
と呼んでいたのだった。
驚いた表情のレンは、嬉しそうに笑うとそっとキスをしてくれた。
それが嬉しくて、心から望むことで、そしてなんでだかとてもとても懐かしくも感じ、魂が歓喜しているのを感じ、もっとして欲しいと思ってしまったのだった。
その後、私たちは付き合うのを飛び越えて、結婚して一緒に暮らすようになった。
それは当たり前のことで、何も不安など感じなかった。
魂の片割れ・・・
レンは私にとってそんな存在だったのだと今は思える。
「レン、愛しているわ」
「俺も愛しているよ」
微笑み抱きしめてくれるレンはたまに不思議なことを言う。
「ずっとずっと俺のそばにいてね。そして四度目の人生でも俺を選んでね」
『約束だよ』と言ってもう今では誰もしなくなった小指を絡める、約束のおまじないをする。
私を見ているようで私の中にいる誰かを見ているような表情をするときがあるが、私は不安を全く感じなかった。
だって彼はレンは、いつでもいつだって私だけを見ているのだから。
結婚した私たちは誰もがうらやむほど仲睦まじい夫婦だった。
「リア、ただいま」
「レンおかえりなさい」
玄関まで出迎える私にレンは飛び切りの笑顔とキスをくれる。
私たちはやっと普通の人生の幸せを手に入れたのだった。
他作品「転生モブ令嬢の幼なじみはヒロインをご所望中」のヒーロー、ヒロインの転生後のお話です。
本編完結の時に出てきたアリアとレントンに思い入れがありましたが、そちらには掲載したくなかったので、短編とさせていただきました。
今回は約束された転生ですが、蓮の執着は凄まじいので神をも味方にして次の転生先でも莉愛を手に入れるために頑張ることでしょう。
転生前の二人も見てみたいと思っていただいた方はぜひ、こちらも読んでいただけたら嬉しく思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。




