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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
欠けた者達
9/66

せめて死体だけでも

よろしくお願いします。

「…一体どうゆうことだ。」


 そうつぶやき巣の中に落ちていた機械を調べる。


 彼らは戦闘服を着ており、一目で都市防衛隊員達だとわかる。


 時間は霧刃達が笑顔で鳥の肉にかぶりついていた今日の昼頃まで巻き戻る。


────────────────────────────────────


「あそこか。今日、俺達が調べに行くポイントは。」


 戦闘服を着こみ、髭を生やした中年の男が気だるげにそうつぶやく。


「そうです隊長。探査機によるとあの木の上に白銀鷲の特殊個体がいるはずです。」


 部下の背の低い若い男のそのセリフを聞き、更に男のだるさが増していく。


「探査機、ねぇ…」


「どうかしましたか?」


 背の低い若い男は不思議そうに聞き返す。


「いや、なんでもない。とっとと倒して帰るぞ。作戦は都市を出る時に伝えた通りだ。行くぞ。」


「「「「了解!」」」」


 元気がいい返事が4人分返ってくる。


 髭の男は4人の部下より先行して走り出す。


 その中で、都市を出る前に交わしたある老婆とのやり取りを思い出す。


────────────────────────────────────


 「海(カイ)くん、ちょっといいかしら。」


 そう言われて整備室で座って部隊の装備の確認をしていた俺は気だるげに返事をする。


 「はい、なんですかぁ?……って、神楽(カグラ)都市議長!?なんでこんなところに!?あ、いや、失礼いたしました。私に何かご用でしょうか?」


 振り返るとそこには都市の最高権力者が居た。俺は慌てて口調と服装を整えて立ち上がり、礼をする。


神楽 美幸(カグラ ミユキ)──この高山都市の都市議長であり、俺の親友の母親だ。昔から”あいつ”と仲良くしていたこともあって、俺はこの人に良くしてもらってきた。もうかなり高齢だが、この人はいつも独特の風格を持っており、何故か圧倒されてしまう。


「フフッ。公の場でもないし、そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。いつもうちの章斗(ショウト)を助けてくれてありがとうね。」


「いやぁ、いつも言ってますが、俺はあいつを助けられる程優秀じゃないですよ。むしろ俺が助けてもらっているくらいで…」


 あいつというのはこの人の息子で俺の親友である神楽 章斗(カグラ ショウト)の事だ。章斗は若くして少尉になり、凄まじい速さで出世して今では中佐にまで上り詰めた男だ。同じ都市防衛隊員からの信頼も厚く、その戦闘力も折り紙付きで非の打ち所の無い人間だ。


「それならあの子が優秀なあなたを信頼している、ということだからそれもいいわね。」


「ハハハ…それで今日は一体何のご用でここに?」


 俺は話題を強引に変えてここに来た理由を聞く。


「あなたが今日、キリハくんのところに行くって章斗から聞いてね。少し、お願いがしたくて来たの。」


「…その話でしたか。その、お孫さんは残念でした…」


 俺は昨日の章斗の事を思い出す。自分の息子が処分され、俺の部屋に来て普段は飲まない酒を浴びるように飲んでいた。そのまま一人にしておけば確実におかしくなっていたことだろう。そう感じるくらい泣いて、泣いて、泣き叫んでいた。


 息子の出産時に妻を失い、国の法律によって息子も失った。あいつに残ったのは長女ただ一人だった。


 高山都市を守る為にその人生を捧げてきた男に対してこの決定であった。この決定を下した中央都市の奴らのことをどれだけ憎く思っているのか、俺には想像もつかなかった。


 2年前、彼はこの決定を覆すために今日までずっと働いてきたのだ。家族に会う時間も減らし、寝る間も惜しんで働いていた。その結果彼の息子は5歳までこの高山都市で生きることができた。


 だが、そこまでだった。


 この日本の法律によって生まれながらに障害を持つものは、基本的に都市で生きることが許されていない。


 都市の為に役に立つギフトを持っていれば生かされる事もあるが、彼の息子は自力で動くことも喋べることもできず、どんなギフトを持っているか不明だったので、都市から不要と判断されたのだ。


 別にこれは珍しいことではない。どこの都市でも当たり前のように行われていることだ。


 今この国には無駄な国民を抱えるだけの余裕が無いのだ。


 都市の為に使えない者達は容赦なく切り捨てられていった。そうしなければ、とうの昔にこの国は破綻していただろう。国を維持するために必要な法律だった。


 年々各都市内の土地を拡大していってはいるが、それでも無駄な人口を生かす為に割ける資源はなかった。


今、章斗を支えているのは長女の存在だけだった。あの娘が居てくれたからあいつは今日も仕事をしている。長女はまだ7歳だが、献身的に父親を支えているとても良い子だ。きっとこれからも章斗の生きる意味になってくれるだろう。


「仕方のないことだったのよ。都市の住人は全員が法律に従って生きている。私たちだけがその例外となることはできないわ。例え父親が中佐の地位に居ても、ね。」


 なんて答えればいいか一瞬言葉に詰まる。


「…霧刃くんのことはさっき章斗から聞きてきました。せめてもの思いで観測機を持たせて外に出したと。遺骨だけでも持ってきてほしい、とも。」


 今日の任務は章斗からの直々の命令だった。あいつが俺にわざわざ任務を持ってくる時は大体が高難易度のものばかりだ。


 今回のもそうだ。観測機が最後に捉えた白銀鷲の特殊個体を倒して、残っているかもわからない遺骨を探さなければいけないのだ。


「いつもあの子の無理なお願いを聞いてくれてありがとうね。でも、今回は私からも重ねてお願いさせてもらうわ。孫をどうか連れてきてください。」


 そう言って神楽さんが頭を下げる。


「頭を上げてください!こんなところ誰かに見られたら、俺が神楽さんに何かしたんじゃないかって噂になっちゃいますから!」


 急いで神楽さんの頭を上げてもらう。こうゆうとこが恐ろしいのだ。いくら非公式の場といえ、都市のトップがこうして頭を下げてお願いしてくるのだ。しかも誰かに見られる可能性がある外でだ。


(やっぱこの人には逆らえねぇわ。)


 そう考え、神楽さんに向き直る。


「非力な身ではありますが、全力を尽くさせてもらいます。」


 その言葉を聞き、神楽さんの表情が緩む。


「ありがとうね。霧刃くんを頼むわ。」


「はい!」


 俺の返事を聞くと神楽さんは帰っていった。


「ふぅ。」


(任務前なのに疲れたな。だが、あんなに頼まれるとはな。)


 俺は霧刃が生まれたときに立ち会っている。あいつは喜び、そして悲しんだ。妻の死と新たな命の誕生だった。だが、あいつは生まれてきた息子を愛していた。霧刃という名前はあいつの妻が予め考えていた名前だった。


(俺だって霧刃が処分されたと聞いて悲しかったんだぜ…絶対に、絶対に連れて帰らないとな。)


 正直なところ今回の任務は俺の部隊以外には任せられない絶妙なラインのものだった。


 特殊個体を倒さなければいけない為、経験を積んだ隊長が必要だ。それでいて、空中戦で十分に戦える練度を持っているのは俺の部隊しかいない。


 今回は章斗が俺に任務を任せる為に色々と手を回したようだった。あいつの思いにこたえなければならない。


 そう思い、俺は装備の点検を再開した。


────────────────────────────────────


 だんだんと白銀鷲の巣に近づいて行く。


(おかしい。何故これほど近づいているのに鳴き声一つ聞こえない?)


 この時期の白銀鷲は巣には雌がいるか、雛がいるかの二択しかないはずだ。


 (何かイレギュラーなことが起きたのか?)


 しばし考え、戦闘用ゴーグルの通信を入れる。


「緊急事態だ。全員射撃位置から巣に何かいないか確認してくれ。」


「「「「了解。」」」」


 念のためだ。この巣がもう子育てを終えて、昨日のうちに放棄されたのかもしれない。


 外では警戒し過ぎるに越したことはない。それで勝機を逃してはいけないが、今は大きな戦いの中じゃ無いので関係ない。


「相良(サガラ)隊長、確認できました。どうやら巣の中に目標は居ないようです。しかし、白銀鷲以外の何かの死体が見えます。」


「白銀鷲の死体はあるか?」


「ここからは確認できません。どうしますか?」


 俺は再び考える。目標が居ないだけなら巣を調べてどこに行ったのか追跡すればいいだけだ。だが、別の死体があるというのが気になる。


(もしかしてその死体は霧刃なんじゃ?)


 その考えが頭の中をよぎる。


 俺は外に捨てられた子供が生きている可能性は0だと確信していた。下手な希望は現実を前にしたとき自分を更なる絶望に叩き落してくるだけだ。俺はそのことをよく知っていた。


「俺が直接巣に行って確認してくる。お前たちはそのまま周囲の警戒を続けてくれ。」


「了解。」


 木の枝の上をジャンプしていき、巣のある高さまで上がって行く。


 背負っていた魔力銃を手に持ち、いつでも戦闘に入れるように準備をする。


「今から巣に入る。異形種が現れる可能性もある。警戒を絶やすな。全員、戦闘準備。」


「「「「了解。」」」」


 部下たちの返事を聞き、巣の中に突入する。


(な、なんだこれは!?)


 巣の中には衝撃的な光景があった。


「一体どうなっているんだ…」


 そこに白銀鷲の姿は無く、巣の中は血まみれになっていた。居ない白銀鷲の代わりに何故か一角うさぎが2羽いる。だが、それも死んでいた。どうやら部下が確認した死体はこれのようだった。


一角うさぎ──体長30cm程で灰色で素早く動き回るうさぎ。額に付いた角が特徴的。特殊個体は雷を放つ個体と、雷を纏う個体が確認されている。どちらも通常個体より大きく移動速度も早かったそうだ。


 俺は周囲を警戒させている部下の一人に通信を入れる。


「依田(ヨダ)、来てほしい。お前の意見が聞きたい。」


────────────────────────────────────


「こっちの血は白銀鷲のもので間違えありません。ですがどうやら複数羽いたようです。血の量と細かい成分から推測すると、2羽の生体、2から3羽の雛がいたみたいです。」


 背の低い部下の依田からの報告を聞き続ける。


「重要なのはここからです。量はかなり少ないですが一人、人間の血とよくわからないものの血が一つありました。」


 それを聞き相良はすぐに霧刃のことを思い浮かべる。


「人間と、わからないもの?お前のギフトでもわからないのか?」


「はい。私のは血液の成分を元に情報を集めていくので、初めて採取した血は何のものかはわかりません。」


 依田 次郎のギフトは”操血(そうけつ)”というものだ。自分の血と触れている他人の血を操ることができる。戦闘にも使えて、こんな感じで調査もできる強いギフトだ。


「そうか。ならそっちの一角うさぎはどうだった?」


 依田隊員が傷の部分を指さしながら答えていく。


「どちらも一撃で仕留められています。それも鋭く尖った槍のようなもので複数個所を貫通されています。」


 素早く捉えずらい一角うさぎを一撃、それも貫通させるほどの力を持つとは。


「テクノが新兵器でも試しに来たのか?」


「その可能性も0ではありません。しかし、そうなると白銀鷲は持ち帰り、一角うさぎを置いていったのがわかりません。体内の魔石も抜き取られてはいませんでした。ただ、その魔石なんですが…」


 魔石というのは魔力を持つ動物ならみんなが体内に持っている青い宝石のよなものだ。一説では魂の拠り所、魔力を作り出す生命力の源が宿っているとされている。


「何かあったのか?」


 俺は気になって続けるように促す。


「これを見てください。」


 その手には真っ黒になった魔石が握られていた。そこにはいつもある青の透き通るような美しさはなく、真っ黒に焼け焦げた炭のようだった。


「なんだこれは?レガシィに使った時でもこうはならないぞ。」


 レガシィの中には使用者の魔力と魔石を消費して力を使うものがある。それに魔石を使用した場合、輝きを失ったただの石になる。こんなに黒くなるのは見たことが無い。


「私も初めて見ました。隊長が知らないなら部隊のみんなも知らないでしょう。持ち帰って解析に回します。」


 依田が腰に付けた金属製の保管用のボトルの中に黒い魔石をしまう。


「相良隊長、どうしますか?おそらくですが出血量からして、目標の白銀鷲はもう討伐されていると思われます。誰にやられたのかはわかりませんが、そいつの手がかりの血も1度解析に戻らなければなりません。」


 俺は迷っていた。


 これがただの討伐ならこれで帰ってもよかっただろう。だが、この任務の本当の目標は霧刃の死体を見つけることだ。ここに霧刃が居たことは間違いない。それなのにそこからどうなったのかが一切わからない。巣の周りも最初に確認したが人が移動したような形跡はなかった。


「…ここで、戦闘があった。」


(そして、白銀鷲に霧刃が食べられ、その後に他の何かがその白銀鷲を倒して死体を持っていった。)


 現状これが最も有力な説だろう。


 「その正体不明のものと人間の血も採取してくれ。俺が直接調べたい。それと全員に命じる。1時間程この巣を遠距離から観察する。何もないならその後帰還する。ポイントはさっきの場所だ。」


「「「「了解。」」」」


「隊長、これが採取した2つの血です。」


 小型の強化ガラス管に入った。血を2つ受け取る。そして巣の中にあった壊れた観測機も一緒に回収する。帰ったら両方解析しなければ。


「助かる。俺達も移動しよう。」


 そう言って俺達はその場を離れた。


 そして、その後も何も見つけられず都市に帰還した。


────────────────────────────────────


 帰還した俺は依田からもらった血を調べたデータを研究班の人から受け取る。その後観測機内部に残っていたデータを可能な限り復元してもらった。


 そして、その足で任務の報告を兼ねてあいつのいる部屋に行く。


 服装を整え、ドアをノックする。


「どうぞ。」


 部屋の中から男の声が聞こえ、扉が開く。


「失礼します。神楽中佐。今朝の任務の報告に参りました。只今、お時間よろしいでしょうか。」


 かしこまった口調で俺は目の前に居る男に話しかける。


 黒い髪に黒い目。鍛えられた大きな肉体と傷だらけの手からは彼が今まで前線で戦ってきたことがわかる。短く整えた髪に優し気な目をした男だ。


 彼が神楽 章斗(カグラ ショウト)。この高山都市防衛部隊の最高指揮官にしてこの都市最強の戦士だった。


 「そうか。ゆっくり報告を聞こう。あと二人だけの時はその話し方はよせといっただろう。お前のことだ。時間はあるんだろう?今コーヒーを淹れる。」


 「ああ。わかったよ。」


 そう言ってソファに座る。


 コーヒーができるのを待ちながら俺は今日あったことをどう伝えるか頭の中で考えるのだった。




読んでいただきありがとうございました。

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