最強の可能性
よろしくお願いします。
(私としたことが火の管理を忘れてしまうなんて。)
真白はキリハと一緒に拾った薪に、再度ヒートナイフで火を付けてもらいながら、さっきの失敗を反省する。
計画したものと実際に外で暮らすのとでは難易度が全然違い、そのせいでいくつか作業が遅れていた。
肉を塩漬けにするのに岩塩を先に採ってきていなかったこと。解体した肉を外に放置してしまい、下手をしたら動物に持っていかれる可能性を忘れていたこと。キリハに火の番を頼んでおいて私のせいで火を消してしまったこと。
もう失敗だらけだ。彼が文句ひとつ言わずに、楽しそうに付いて来てくれることが唯一の救いだった。
(私が外に出るのが一番遅かったのに、なんでみんな来ないの。もしかしてもう…)
最悪の結末を想像してしまいそれを振り払う。そんなことは信じたくなかった。
だが、あれだけ時間を掛けてみんなと外で生きる計画を練ったのに、実際にはまだ私一人しかここに来れていない。
(みんなは無事だよね…)
自分で言うのもなんだが私は運が良かった方だと思う。
外に出てすぐに異形種の中の1つ”テクノ”の偵察型と戦闘をする羽目になり、倒したと思ったら次は白銀鷲に襲われた。
テクノ──人間の頭部と機械の体をもった異形種。自身の役割によって体を換装することができる。例えば、戦闘型には銃火器が大量に積まれており、圧倒的な火力を誇る。テクノは人間よりも工学が発展しており、小型のミサイルなど高火力な兵器を保有している。だが、生殖能力はとても低く、異形種の中では数が一番少ないとされている。頭部が入った”揺り籠”と言われる部分が弱点とされている。
白銀鷲に捕まった私は、魔力をほとんど使いきってしまっており、抵抗できずにいた。
もうここまでか、と思った。
だが、そこにキリハがいた。キリハの体に私のギフトの”融合”を使い、残り少ない魔力を使って体を借り、何とか窮地を脱することができた。
私のギフト”融合”は動物の死体を取り込むことができる。そして、1度に出せる数に上限はあるが、魔力を消費することで取り込んだ動物の部位を自分の体に作り出すことができる。また相手が拒まなければ生きている対象と、自分を融合することができる。だが、その間は魔力をずっと消費し続けることになるので長時間は使えない。
私はキリハの体と魔力を使わしてもらい、ここに来ることができた。
今はキリハとの融合時は彼の魔力と私の魔力を共有できるようになった。最初の吸血で彼の魔力を直接取り込んだので、こんなに早く馴染んだのだろう。
下手をすればあの時、彼に敵対されていたかもしれない。だが、彼と行動を共にするなら魔力を馴染ませるのはどうしても早くやっておきたかった。魔力が馴染むとお互いの体を融合しているときにお互いの魔力を使えるのと、融合中に消費する魔力量を少し軽減することができるからだ。
結果功を奏し、キリハと私は今ここにいる。
この場所は外で生きる為に必要なものが殆ど揃っている。
鍾乳洞の中のきれいな水は飲むことができる。異形種には入って来れない狭さの入り口で、奴らがこの水場を利用することはない。その点でも安心だ。
家にした洞窟の前には少し歩けば川が流れている。そこにいる魚を獲れば食料を安定して入手することができる。
岩場に沿って行けば岩塩が含まれている場所にたどり着くことができる。
この岩塩が取れるというのは一番重要だった。
海には異形種がいる為、海水から塩を取るのは危険すぎた。なので、この岩塩がある場所を起点にし、住みやすそうな場所を探したのだ。
塩の使い道はたくさんある。食料の保存には塩は欠かせない。それに調味料にもなる。何より人が生きていくには塩を摂取しなければいけない。
安全に、それでいて大量にある岩塩はそれほど重要だったのだ。
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今私たちの目の前には死体から回収した服や靴がある。水で洗えるだけ洗い、焚火と日光によって乾かしている。
「あったかい。」
そうつぶやくキリハの格好は裸だった。彼のボロボロの服も血がすごい付いていたので洗ったのだ。
「……………」
「なに?」
キリハのある部分を凝視していたら急に声をかけられた。
何でもないという意味を込めて首を振るがアレから視線を外すことができなかった。
(あれが男の人のやつ…初めて見た…)
下半身は無いが私だって女の子なのだ。ソレがどんな見た目をしているのかとても興味があった。
(私に普通の体があれば…)
もし、もしも人間の女性の死体を融合で取り込めたらと想像する。
朝に見つけた死体は女だったが腐敗が進み過ぎて取り込めなかった。あの死体が腐っていなかったら。
(キリハと私は…)
「ちんちん見たい?」
キリハの言葉で私はハッとは我に返る。そして急いで首を左右に振る。
(私は何を考えてるんだ!)
必死に自分の煩悩を振り払う。私だってずっと裸なのに彼からはそうゆう視線を全然感じなかったんだ。そんな目で彼を見るのは、彼からの信頼を裏切る行為だ。
「えー。そんなに男の子に興味あるの?0250ちゃんそんなにお嫁さんに成りたいの?」
同じケージ内で0249番から言われたことを思い出す。
(やっぱり私って変のかな…まだキリハと知り合って二日目なのに今そんな目で見ちゃってるし…)
ケージ内には私と同じ女の子しかいなかったのだ。男の子に興味を持つのは仕方がないだろう。
(私、キリハの事好きなのかな?ま、まぁ?私の指示には従ってくれるし、果物くれたり、運んでくれたりして優しいし。)
キリハの方をチラッと見ると彼は座ったまま眠ってしまっていた。
(…そうだよね。疲れたよね。やっぱりこんなこと考えてちゃだめだ。)
キリハの事が好きかどうかは心の隅に置いておくことにした。
私はまだ5歳の子供で大人の恋愛なんてわからないのだ。それに今は生きる為にすることがたくさんある。
私は煩悩と共にこの気持ちに蓋をしてやるべきことを考えるのだった。
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目を開けると真白が何か作業をしているのが見える。
(あれ。もしかして寝ちゃってたのか。)
自分の服が乾いたかどうか確認する。
(よかった乾いてる。)
湿気は十分とれていたので着ることにした。
服が綺麗になって気分が良くなる。服の洗濯はこれからもやっていこう。
真白の方を見ると木の枝を組み合わせて網目の何かを作っていた。蔦で木の枝が重なっている場所を結んでいき、どんどん網を大きくしていく。
「てつだう。」
そう言うと真白は頷き、蔦と枝を渡してくる。
枝は木の皮が削られて綺麗になっている。蔦の方も皮が剥がされている。ヒートナイフを使い、真白が削ったのだろう。
真白の結び方を見よう見まねでやっていく。
(あれ、こうじゃないのか。こうか?いや、こうするのか。)
何回か失敗したがなんとか結べるようになった。
順調に作業は進んで皮が剥がされた木の枝と蔦で作られた網ができた。
真白がそこに粉を付けておいた肉を置いていく。それを真似して俺も肉を網の上に敷き詰めていく。
肉を全て置くと真白から網を渡されたので受け取る。
真白が背中に上ってきて家の方を指さす。
「わかった。」
そう言って家の中に網を運ぶ。次に家の中に石を4つ置いてある場所を指さされる。
その上に網を置く。
(この草と粉を付けた肉はどうするんだ?まあ、いっか。)
真白は俺よりも外で生きる為の知識を持っているようだった。
肉を解体した時も、さっきのピンクの岩を取りに行った時も行動に迷いが無かった。
だが、俺も生き物の知識やギフトに関するものの知識なら負けない自信があった。
特に生き物の電子図鑑は何回読んだのかわからない程だ。
時間だけが有り余るあのベッドの上で外の生き物を知るのは退屈しのぎにはもってこいだった。
(明日は真白と一緒にもう少し周りを歩いてみるか。)
今日見つけたみかんの木のように食べ物を見つけられるかもしれない。
今日はもう日が傾いていた。外の火を消し、余った薪を家の入り口のあたりに積んでおく。これで明日の薪を集める必要はないだろう。
戦闘ゴーグルを使えば夜でも視界の確保ができるが、怖いので夜は外に出たくなかった。
外が暗くなってきたので家の中に入り、入口にドアを立てかける。
だが、ここからが昨日と違う。今日の昼に焼いておいた肉があるのだ。葉っぱの中に包んでおいたそれを取り出す。
そして、2人で並んで食べる。
「いただきまう。」
肉は冷めていてもおいしかった。残っていた分をパクパク食べていく。
(そういえば、朝に比べれば腕も足も大分動くようになったな。たくさん動き回ったおかげなのかな。)
そんなことを考えながら肉を食べ終わる。
そしてとっておいたみかんを二人で食べる。
真白はみかんの食べ方を知らなかったようで、そのままかぶりつこうとしたので慌てて止めた。
真白の分まで皮をむいてあげて2人で一緒に食べる。
(甘酸っぱくておいしい。疲れた体に染みわたるなぁ。)
真白もみかんを気に入ってくれたようでどんどん食べていた。
自分の好きなものを他人が気に入ってくれるのはとても嬉しかった。
俺は自分の分のみかんを少しおすそ分けすることにした。こうして嬉しさは真白と俺のとで2倍になった。
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「ごちそうさまでした。」
ご飯を食べ終わり外を見る。もう日が沈み、星の輝きがちらほら見え始めていた。
俺はおでこに着けていた戦闘用ゴーグルを装着する。
時間を確認すると18時を回っていた。そして魔力量のところを見ると何故か90%まで減っていた。
(そういえば真白と合体した時に魔力が減っている感覚があったな。)
今日も真白に体を操縦されたが、どうやらあれは俺の魔力を使っているようだった。
いや、真白のギフトなのでおそらく真白の魔力も消費しているのだろう。
そう考えるとあの合体はかなり魔力の消費が激しい能力だ。
「力持ちだからいつも合体しておけばいいのに。」なんて考えていた自分が恥ずかしくなってくる。
魔力が少なくなればそれだけ体の動きも悪くなる。できるだけ魔力を使わないようにするのは当然だった。
(真白のギフトを当てにし過ぎることはできないってことか。俺一人でも敵と戦えるようにならないと。)
俺は魂喰によって手に入れた加速のことを思い出す。
(あの時魂喰は「運が良かったな」と言っていたか。)
倒した白銀鷲は5羽だったのに手に入れたギフトは1つだった。これが意味する可能性は2つある。
1つは同じ種類の生物からは1種類しかギフトを手に入れることができないという可能性だ。白銀鷲は加速のギフトが発現することがあり、それを重複して手に入れることはできないということだ。だがこの可能性は低い気がする。
ギフトとは生まれながらに持っているものだ。そしてその内容は千差万別だ。
つまり「俺が加速を手に入れたのは”白銀鷲だから加速のギフトを持っていた”」なのではなく「”たまたま加速のギフトを持っている白銀鷲”を喰ったから加速を手に入れた」のではないかということだ。
もしそうなら、加速以外のギフトを持つ白銀鷲の魂を食えばそのギフトを手に入れられることになる。
(魂喰を使い続ければ俺の使える能力はどんどん増えていくってことか?それって最強なんじゃ?)
一瞬だけそんなことを考えたがすぐに頭の中で否定する。おそらくだが、加速のギフトを持っていたのは真白が取り込んだ一番大きかった個体だ。
つまりギフトを持っている個体は通常よりも大きいということになる。それに加えてギフトを使ってくるのだ。弱い訳が無い。
(あの「運が良かったな」にはそんないろんな意味が含まれていたのか。)
自分のギフトが最強なんじゃないかという考えは誰しも1度は考えることだろう。
だが、現実はそう甘くない。俺の魂喰は確かに最強のギフトになれる可能性があるが、普通に考えて最初が1番弱いのだ。最強になる前にギフト持ちの個体に殺される可能性の方が高いだろう。
(実際に、せかっく手に入れた加速も全然使いこなせてないしな。能力を持っていることとそれを実際に扱えるかは別問題ってことか。ギフトをたくさん持っていても使えなければ無いのと同じだしな。)
魂喰について熟考していると真白が服を引っ張て来た。
そっちを見ると布団を広げて寝る準備を整えた真白がいた。
俺も布団に入り眠りにつく。
(まずは加速がどうゆう能力なのかを確かめて、しっかりと使えるようにならないと。)
そんなことを考えていると段々と意識が虚ろになっていき、俺は深い眠りについた。
読んでいただきありがとうございました。




