偵察
よろしくお願いします。
学校が休みの土曜日、いつもと変わらない偽物の空を窓から見つめる。相変わらずの晴天だが、外は曇りらしい。この都市にも天気があればもう少し気にならなくなるんだが、常に晴天なのでやはり違和感がある。
「────ということがあってな。調査の依頼をしたいんだ。」
俺と真白と針理とセラはお父さんに呼び出されて防衛部隊のお父さんの部屋に来ていた。
「わかかりました。どこを調べればいいですか?」
「高山都市から南を調べてほしい。この方角が一番獣の数が多いんだ。中には特殊個体も発見されている。身軽で飛行して行ける霧刃たちにしか頼めないことだ。」
お父さんが空中に地図を出して、南の位置にマーカーを置く。
俺はその場所を思い出す。そこの近くにはテクノの墓がある。つまり、竜を倒した場所だ。
何か関係があるのかと考えていると、針理が手を挙げる。
「私は装備を取りに帰りたい。今回の調査、抜けてもいい?」
俺はそう言われて、針理の装備が擬人之塔にほったらかしになってるのを思い出す。針理は訓練の為に使っているらしいが、俺はここ最近見ていない。デスペラードをはじめとした針理の装備はどれもここではオーバーパワーの代物だったので、使う機会が全くなかった。元々持ってこない予定なのでいいのだが、ちょっと針理の超火力を見れないので寂しくもあった。
「わかった。今回は俺と真白だけでやるよ。セラ、オペレーター任せてもいいか?」
オペレーターとは都市の中から戦闘を支援する役目だ。ゴーグルの映像を通して、戦場全体に指示を飛ばすという役割だ。
「オッケー。」
セラが右手で丸を作って返事をする。大変な調査だが、やりがいのありそうな仕事だった。
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俺たちは防衛部隊からの依頼データを門番の人に見せ、都市の外に出る。
外はやはり空気が違う。流れる風が心地いいし、木々のざわめきに心が癒される。これで天気が良ければ最高だったのだが、そこは生憎の曇り空だった。
「いいなー私も早く外出たいなー。」
「明日の試験受かったら出られるから。それまで我慢してくれ。それじゃあ、行くか。」
俺はセラの通信に適当に返事をして、横にいる真白に話しかける。真白の背中から白い翼が生えてきて、俺を抱きしめて空を飛び始める。
空を飛ぶのは気持ちがいい。真白と二人きりで空を飛んでいると、昔に戻ったような感覚になる。あの頃は今とは違った大変さがあった。真白が居なければ俺はとっくの昔に死んでいただろう。彼女には感謝してもしきれない。
しばらく飛ぶと、目印の湖を通り過ぎる。
「そろそろ調査のポイントだ。」
俺がそう言うと、真白は頷いて高度を落としていく。次第に地面が近づいてくる。木の枝の上に止まってもらい、地上の様子を確認する。
「なんじゃこりゃ…」
俺たちの目の前にはたくさんの獣の死体が野ざらしになっていた。中にはまだ血が固まっていなものもある。
「セラ、周りに魔力の反応は?」
「ない。少なくとも超強い獣はいないみたい。」
俺はリュックから観測用の機械を取り出して、その場の様子を撮影する。獣の死体は少なくとも十体はあった。
(一体どんな化け物がいるんだ…)
俺たちはそのまま周辺の調査を進めることにした。真白は上空から、俺は地上に降りて徒歩で調べた。
獣の傷跡をよく見ると、えぐり取られたような跡があった。かじられた場所は、どれも魔石がある箇所だ。こいつらを襲った奴は、食べる為に襲ったんじゃない。意図的に魔石だけを狙って倒してる。
魔石を食べる獣というのはたまに発見される。石ばっかり食べるナメクジみたいな弱いやつと、超強い竜やそれに匹敵する獣かだ。当然ナメクジの方は死体にある魔石を食べるので、戦闘力が皆無だ。なので居たとしてもすぐに討伐される。だが、強い方だと話は変わってくる。都市が部隊を出して討伐しなければいけない程強いからだ。
獣の戦闘跡から見て、恐らくこいつらを襲ったのは強い方だった。
「不味いな。想像以上に不味い。こいつ一体どれだけの魔石を食べたんだ?」
魔石が抜き取られた死体。お父さんが見せてくれた資料にもあったものだ。その数は五十体以上。魔石は食べれば食べる程獣は強くなる。しかし、獣は知性が高くないので、普通はそれに気づかずに生を終える個体が殆どだ。
だが、稀にその事実に気付く奴が現れる。当然元になった個体が普通の個体ならギフトを手に入れることは決してない。魔石を食べた分だけ強化されるのは事実だが、まだ対応できるレベルだ。
問題になってくるのは特殊個体が魔石を食べるケースだ。魔石を食べるとその分魔力量も上がる。そうなるとギフトの強さも自然と上がっていくことになる。
もし、今回の敵がそれなら、急ぐ必要がある。
その血の跡は更に南西の方に続いていた。
「うちらじゃ手に負えないかもね。どうする帰ってくる?」
「ここで引き返すわけにはいかない。調査に来たんだ。徹底的に調べるぞ。」
俺は真白に連絡を入れて、下に降りてくるように頼む。そして、血の跡を辿って、この惨殺死体の犯人を捜すことにした。
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森の中を飛びながら進んで行くと、奥に柵で囲まれた場所にたどり着いた。見たところまだ使われているようだった。柵の横棒には紐で結んで修繕した跡があったのだ。
「なんだこの柵?」
「昔の牧場みたいな?でも、外で暮らしてる人がいる訳ないし。」
となれば答えは一つだろう。
「異形種か。」
俺がそうつぶやくと、後ろからいきなり口を塞がれて木の影に引きずり込まれる。なんだと思って振り返ると真白がいて、柵の奥を凝視していた。
「まひお?」
俺も真白が見ている方向を見てみる。
そこにはあり得ない光景があった。
柵の中で大量の獣がそこで共存していた。
(種類が全く違うのになんで争いが起きていないんだ?)
俺がその事実に驚いていると、真白がその中の一体を指さす。
その指の先には竜に乗った一体のサギルがいた。竜をサギルが支配しているのもあり得ないのだが、どうやってか手懐けているようだ。竜の背中に座りながら足で蹴飛ばして指示を出していた。
そして、そのサギルは周りにいる獣に魔石を与えていた。
「霧刃、そいつから魔力反応。高確率で特殊個体。」
俺はセラからの通信を聞いて、納得する。推測になるが、あのサギルは自分のギフトで獣たちを制御しているのだろう。
俺はその様子を観測機で撮影していく。
「よし、これだけ撮れれば十分だ。撤退しよう。これはミサイルが必要になる規模だ。」
獣たちは魔石に夢中で、まだこちらには気づいていないらしい。
俺が真白と一緒にその場を離れようとする。
一歩一歩静かに来た道を戻っていると、柵の向こうから獣の遠吠えが聞こえてくる。
なんだと思って振り返ると、柵の中の獣が全員こちらを見ていた。
そして、竜に乗っているサギルが何かをわめくと、獣たちが一斉にこちらに向かってくる。
俺は急いで真白と融合して、森の中を低空飛行で飛び続ける。高く飛んだらその時点で終わる。竜がいるんだ。制空権なんて敵が持ってるも同然だ。
俺は迫ってくる。獣を狙って、銃を連射する。高速で飛びながら撃っているので、殆ど弾が当たらない。だが、何発かは当たったようで、先頭の獣の足が止まる。それに巻き込まれるように後ろの獣たちがドミノ倒しみたいにこけていく。
(これだけ時間が稼げれば十分だ。あとは…)
地上の戦力は何とか出来たが、最後に空から追って来ている竜をどうにかしなければいけない。
(どうする!どうすればいい!?)
このまま都市に戻れば、獣の群れを連れて帰ってしまう。それは絶対にダメだ。
俺は獣の惨殺死体の現場を飛び越え、そのまま湖の方に飛んでいく。そして、湖が見えてきた時、俺は一つの策を思いつく。
真白に指示を出して、体の造りを少し変更してもらう。そして、観測機を湖のほとりに置いて、そのまま湖の中に突っ込んでいく。
俺は水中から上空を竜が通過していくのを待つ。竜は俺たちを探しているようで、湖の近くをしばらくウロウロしていた。
俺が出した指示は、体にエラをくれというものだ。
真白のおかげで、俺たちは水中でも難なく呼吸することができたのだ。水中で呼吸をするというのは変な感覚だったが、苦しくはなかった。
あのサギルもさすがに水中には来れないようだった。
水中で待っていると、竜は元来た方向に戻っていった。
水面か少し顔を出して、外の様子を確認する。もう追ってきてはいないようだった。
俺は湖から出て、自分の服を絞る。べったべたになってしまったが、都市に迷惑をかける訳にはいかないので、仕方がないが、ちょっと寒い。それに肌にべったりと服が張り付いて、嫌な感じだった。
湖に入る前に置いてきた観測機を回収して、しばらくしてまた飛び立った。
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帰って来た俺たちは、先ずは風呂に入って体を温めた。濡れた状態で空を飛ぶと、寒いとかいうレベルではなく、凍死するかと思った。幸い距離が短かったので風邪は引かなかった。今度水に入ることがあったら、ちゃんと乾かしてから飛ぼうと思った。
風呂から出て、俺たちは三人でお父さんの部屋まで行く。針理はまだ帰ってきていなかった。
「失礼します。」
「どうぞ。」
俺はお父さんから声が掛かるのを待って、部屋の中に入る。
中に入ると、お父さんが海おじさんと一緒にコーヒーを飲んでいた。
「よう霧刃。調査行って来たんだってな。収穫はあったか?」
「こんにちは。死ぬかと思ったよ。」
俺は観測機をテーブルの端についているコードを伸ばして繋げる。そして、俺は撮って来た写真を空中に映し出す。最初に表示されたのは獣の死体だった。
「なんじゃこりゃ?」
「これは全部死体か?」
「これが俺が最初に見つけた痕跡でした。ここはまあ、異常ではありますけど、まだ理解できる範囲です。俺も魔石を目的の獣に襲われたくらいにしか思っていませんでした。問題は次です。」
俺はそこで、次の写真に切り替える。そこには俺が驚いた光景が映し出される。あの獣がたくさんいた牧場みたいな場所の写真だ。
「なんだこれは…」
「小動物…?いや、それだと背景とのサイズが合わんし…」
「これが問題の写真です。」
そこからは俺が見聞きしたことをすべて話す。サギルがワンマンであそこを回していたこと、湖を使って何とか追っ手をまいたこと。
「────俺が体験したことはこんな感じです。マジで死ぬかと思いました。」
俺が話し終えてしばらくの間、二人は無言のままだった。そして、少しの間を空けて、お父さんが口を開く。
「これは冗談抜きで本当にミサイルが要るな…」
「ああ。獣を支配するギフトなんてヤバすぎるぞ…」
「さすがに魂喰を使う余裕はなかったです。あれは早く殺した方が良いと思います。異常で報告を終わります。」
俺は最後に礼をして、報告を終わる。そして、頭を上げようとすると、海おじさんに頭をぐりぐりされる。
「お疲れさん。これはヤバいな。」
「ああ、早く名古屋都市に連絡して、ミサイルを回してもらおう。」
お父さんと海おじさんがこれからのことについて相談をしていた。やはりあれだけの獣は都市からしても危険のようだ。
パッと見ただけで五メートルくらいのやつが二十体はいた。あの柵の広さから考えて、もっといると考えた方が良い。中には特殊個体や竜もいるかもしれない。
だが、ミサイルで撃滅してくれるのなら安心できる。今回は俺は戦わなくても良さそうなので、安心した。
読んでいただきありがとうございました。




