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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
最後の一年
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にらみ合い

よろしくお願いします。

「勇気ちゃんは普段何してるの?」


 俺は相談に乗ってもらった後、そのまま公園で勇気ちゃんと一緒に雑談していた。


「普段は商売やってるよ。それこそなんでも、誰とでも取引してるよ。霧刃も欲しいのあるなら言ってね。僕が売ってあげる。」


「へー。すごいね。」


 なんでも取引できるなんて豪語するということは、品ぞろえによほど自信があるのだろう。


「勇気ちゃんのお店ってどこにあるの?」


「僕のお店は中央都市にあるんだよ。ほら、こんな感じ。」


 勇気ちゃんはリンクを操作して俺に店の写真を見せてくる。大きなガラス棚の中には様々な武器やアイテムが並んでいる。店内は暗い色の木材で内装を統一してあり、落ち着いた雰囲気を醸し出している。


「いいお店だね。でも、どれもすごい高そう…」


「これがそうでもないんだなー。僕のお店は一から十まで僕の価値観で商売してるんだ。だから、僕が持ってない珍しいものとかなら物々交換でもOKだよ!」


 なんか変わった店のようだ。だが、置いてある武器や素材はどれも高級なもののように見える。俺が持っている物でこれらに釣り合いそうなものは…


「竜の魔石とか?」


 俺がそうつぶやくと勇気ちゃんはすぐに食いついて来た。


「竜の魔石!?そのなの持ってるの!?いいなー欲しいなー!ねえ、霧刃はなんか欲しいもの無いの?僕が用意してあげるからさ!」


 目をキラキラさせて、ぶかぶかの服の袖をぶんぶん振り回しながら問い詰めてくる。


「竜の魔石ってそんなに貴重だっけ?」


「貴重だよ!だって各要塞都市と中央都市の近くで倒された竜の素材は、都市がぜーんぶ買い取っちゃうんだもん。他の都市だと防衛部隊以外の人が竜を討伐することなんて滅多にないからね。そりゃ貴重も貴重よ。」


 擬人之塔の倉庫に10個ぐらい置いてあったので感覚がバグっていたが、確かに竜の素材は貴重品だ。俺が高山都市に来てから討伐された竜が運び込まれたのは、俺たちが倒した一体だけだ。


「まあ、あれはだめだよ。友達が命がけで倒してくれたやつだから。」


「えー。じゃあ、他に竜の素材は無いの?」


 他の素材は何も考えずに全て売却してしまった。保管しておく場所もないし、竜の魔石だけでも直径1mくらいあるのだ。場所を取って仕方がない。


「全部売った。」


「もったいないな…今度倒したら僕に売ってくれよ?君にとっても価値があるものと交換してあげるからさ。」


「覚えてたらとっておくよ。」


 俺はそう言って立ち上がる。


「もう行くのかい?」


「うん。もう少し走っておかないといけないから。あ、そうだ。これ俺の連絡先。」


 俺は自分のリンクから連絡先を渡しておく。


「ん。確かに受け取ったよ。じゃあ、また会おうね。珍しいものが手に入ったらお互い連絡しようね。」


「わかった。じゃあね。」


 俺は公園で勇気ちゃんに手を振って走り出した。始めて話したが気のいい奴だった。少し変わっているところもあったが、悪い奴ではないように思えた。


(それにしてもコミュ力高かったな。)


 初対面の相手に話しかけるのは中々勇気がいることだと思うのだが、勇気ちゃんは平然と話しかけてきた。名は体を表すとは正にこのことだろう。


 新しい出会いを喜びながら俺はトレーニングを再開した。


─────────────────────────


 霧刃が走っていった後の公園を見渡す。母親たちはまだ声高らかに悪口を叩き続けている。それに僕は白い眼を向けなが、ベンチの背もたれに寄りかかる。


「誰かの足を引っ張る暇があるなら、少しは霧刃みたいに前に進めよ。」


 誰にも聞こえないくらいの小さいつぶやきは、子供たちの無邪気な笑い声にかき消される。


 最近はいい出会いがなくて各地の都市を転々としていたが、ようやく面白そうな人に出会えた。


 僕は自分のギフトの”天秤”を彼に使ってみたのだ。


 天秤の能力の一つに秤に載せた価値を比べることができるというものがある。それを使ってみたところ、彼は今まで見たことが無いような価値を持っていた。僕は彼が一体何を持っているのかとても興味を持った。


 彼と話して分かったが、彼はとても良い人だった。こちらが何故話しかけてきたのか疑ったりせずに会話をしてくれた。ちょっと不用心過ぎて心配になったくらいだ。


 公園の広場で子供たちが遊んでいたボールが、僕の足元まで転がってくる。それを手に取って子供たちがいる方に投げ返す。


「おにーさんありがとー!」


「「ありがとー!」」


 笑顔で手を振りかえしながらベンチに再度腰かける。


 僕は前に進む人が大好きだ。だが、人は前に進めば進む程、その歩みが遅くなっていく。そして最後には居心地のいい場所にしがみつくようになる。それが権力だったり、地位だったりするのは人それぞれだが、最終的には碌なことにはならない。


 リンクに部下から連絡が入っていたことに気が付いて、通信を入れる。


「もしもし、僕だけど。何かあったかい?」


「何かあったかいじゃないですよ!店長今どこに居るんですか!?都市から招集がかかってるってメッセージ入れといたじゃないですか!早く帰ってきてください!!」


 怒鳴り声で部下の男から口早に用件を言われる。僕は彼からのメッセージを開くと確かに連絡が入っていた。


「あーごめん。通知切ってた。あと、招集は断っといて。どうせ今から帰っても間に合わないからさ。お土産に飛騨牛買っていってあげるから。ってことであといい感じによろしくー。」


「だから、どこに居るんですか!?さっきから防衛隊員の…」


 僕は一方的に通信を切って全ての着信を拒否に設定する。


(危機は去った、なんてね。)


「はぁ…」


 大きいため息をつきながら招集状のデータを開いて確認する。内容は『中央都市の物流についての協議』となっていた。もう絶対面倒くさい内容だというのは行かなくてもわかった。


 今までは自由に商売をできていたのに、業績が伸びてきた辺りで都市企業連合とかいう利権でがちがちに固められた奴らに目を付けられてしまった。おかげで中央都市の居心地がすこぶる悪くなってしまい、店は部下に任せて自分は都市を転々としていた。


「でも、霧刃に進めって言ったのに自分が逃げるのは格好悪いか…」


 自分の立場を見つめ直し、企業連合から逃げていたことに気付が付く。それに霧刃にいつか自分の店に来るように言ってしまった。自分で誘っといて店を空けておくのは失礼だろう。


 大企業の頭の連中と会うのは気が進まないが、昔に比べたら何か変化があるかもしれない。


 僕は首から下げているネックレスの内の一つの、緑色の宝石が入った銀色のペンのようなモノを取り出す。


「万物の存在を位置づける空間の神よ。空を超え、海を越え、陸を超えてその更に向こうへ。道しるべを、力の一端を私に貸し与えたまえ。テレポート。」


 気乗りはしないが、店の様子も確認するために中央都市に戻った。


─────────────────────────


「やはり今回も奴は来なかったか。」


 扉の隙間から見ると円形のテーブルを囲みながら、いつもの5人の老人たちがぶつぶつと何かを言っている。ちょうどいいから部屋に入る前に盗み聞きをしてみる。


「最近は中央都市でも姿を見ないと聞く。もう死んだのでは?」


「その可能性もありますね。このご時世、どこに死の危険があるかわからいものですからな。」


「私たちに従わずに商売をしようなんて、彼女は考えが甘すぎましたな。」


 部屋の中にはっはっはっという笑い声が響く。もう入りたくなくなって来たが、せっかく大量の魔力を使って転移してきたのだ。


 せっかく来たのだ。顔を見せておくべきだろう。


 僕は扉を勢いよく開け放って笑顔で入室する。


「やっほー!皆さんお久しぶり。今日はたまたま予定が空いたから来たよ。」


 中に居た老人たちは誰一人動じることはなく、無言でこちらを見てくる。流石にこれくらいじゃ驚いてはくれなかったか。


 入口に一番近い席に着くと照明が落とされる。それぞれの目の前に電子モニターが開いて、とある男が映し出される。


 この中央都市で議長を務めている男だ。


「よく集まってくれました。各都市間の物流を支えてくださっている皆さんには常日頃から感謝しております。さて、本日の議題ですが、最近各地での異形種の活動が活発になってきております。特に要塞都市周辺は物資の輸送隊の襲撃件数が急増しています。つきましては皆さんの商隊も警戒をしていただければと思います。」


「あの、僕やっぱりここに居なくてもいいんじゃないですか?僕のお店って物流支えるくらい大きくないし。」


 議長の話の腰を折って手を挙げながらそう言う。


「いや、君にも関係のある話だ。私たちは重要物資の輸送に、君の持っているレガシィの力を借りたいと思っている。」


「嫌です。」


 僕は即答で断る。彼が言っているレガシィというのは、ここに来るときに使った『逆位置の並行機

』のことだ。


 これまでもこのレガシィの譲渡に関しては、もう何十回と打診されてきた。転移のギフトを持っている人もいるが、如何せん人数が少ない。


 大量の魔力を要求されるとはいえ、使えば誰でも転移ができるのは破格の性能だ。


 そして、極めつけはこれ以外に転移の能力を持っているレガシィは国内では二つしかないことだ。その二つの内一つは中央都市で、もう一つは大阪都市で使われている。


「前から何度も言ってるじゃないですか。これと同じくらい珍しいものをくれるのなら交換しますって。お金とか宝石とか本当に要らないからさ。もっと面白いもの持ってきてよ。」


 僕の言い草に議長は少し不機嫌な顔をしだす。


「…君はわかっているのか?これは都市存続の危機なんだ。君も都市の住人だ。その平穏を享受する者として、都市に協力する義務がある。」


「悪いけど。僕は都市が平穏だと思ったことなんて一度もないよ。そこのおじいさんたちに何回襲撃されたかもわからないしね。」


 僕が周りを見渡すと全員が目を逸らす。証拠を完璧に消されているので訴えることはできないが、店にも僕自身にも何度も殺されかけてる。高山都市に行っていたのはその逃亡の一環でもあった。


 僕は電子モニター越しに議長を睨みつける。


「僕がその気になれば海外にも逃亡できること忘れてない?自分たちの権力が万能だと勘違いしてない?あんまり僕を嘗めるなよ。」


「…今日の話は以上だ。これで解散とする。」


 議長がそう言うと電子モニターが消えて、部屋の照明が元に戻る。


 座っている全員が僕のことを睨みつけてくる。


 僕はここにいる連中みんな大嫌いだ。全員都市の権力者に取り入って、その権力のご相伴に預かろうする奴らばかりだ。その生き方のどこに価値がある。都市が滅ぼされれば消えてしまう価値なんて、僕からすれば脆過ぎる。


「じゃあ、僕帰るから。お疲れ様でしたー。」


 僕が笑顔に手を振りながら部屋を出ようとする。


「この屑が…」


 一番奥の席に座っている老人からそんなつぶやきが聞こえてくる。僕は扉を開けて振りむいて返事をする。


「お互い様だよ。」


 老人を笑顔で睨みつける。僕は扉が閉まるまでの間、目を逸らさなかった。


─────────────────────────


 自分の店を目指して歩きながらさっきの老人の言葉を思い出す。自分が屑であることは理解している。普通の人なら『逆位置の並行機』を都市に譲渡する、ないしは貸し出すくらいはするだろう。


 でも、僕は絶対しない。


 そのせいで多くの人が死のうが僕はこの判断を変えることはない。この世界を生きるには自分が強くなるしかないんだ。


 自分の店の扉を開けて中に入る。


「いらっしゃいま…あー店長!」


「ただいま。これお土産ね。店の番もありがとうね。あと会議には出てきたよ。」


 店に変わりないことを確認して、店の店員にお土産を渡す。店内の武器や素材もいくつか入れ替わっている。僕が居ない間もちゃんと店は回っていたようだ。


「それはお疲れ様です。あと、さっき都市に今月分の店の収支報告しときました。それと、店長当てに討伐依頼も来てましたよ。」


「嫌だよ。どうせ都市が全部買い取っちゃうんだから。やるだけ時間の無駄。」


 僕は部下に見せられた討伐依頼のデータをその場ですぐに閉じる。昔は強くなるのが楽しくて討伐屋として活動もしていた。今はもう依頼は受け付けていないと公言しているのに、こうして依頼が来ることもある。


「それにしても急に帰って来るなんて何かあったんですか?あのレガシィ使ってまで急いで帰って来たんですよね?」


「んー、新しい友達に感化されちゃってね。最近、僕も全然前に進んでないなーって。だから、久々にちょっと動こうかなって。」


 僕は霧刃のことを思い出す。見た目とは裏腹に自信がなさそうだった彼。そんな彼でも前に進もうとしているのだ。僕もそれに乗っかるとしよう。


「今回の逃避行は楽しかったですか?」


 僕は部下の言葉に笑顔で返事をした。


「面白い出会いがあったよ。」



読んでいただきありがとうございました。

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