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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
最後の一年
63/66

行動

よろしくお願いします。

 俺は目覚ましの音で目を覚ます。眠い目を擦りながら起き上がる。


 今日は2265年4月1日。今日から俺は高等部の3年生になる。


 なんだかんだ学校生活もあっという間だった。反りの合わない奴が居たせいか思っていたより楽しい場所ではなかった。それに柊は学校を卒業しても外で絡んできてウザいことこの上なかった。


 俺はエプロンを着けて、三人分の朝食を用意しながらここ最近のことを思い出す。


 大したことではないが真白と一緒に居る機会が減った。具体的には一緒に寝なくなったし、自分の足で歩くようになった。


 まだ人間の姿には程遠いのだが、透蜜に特注の服を作ってもらっていた。それのおかげで、傍から見ても少し変わった服を着ているくらいにしか思われなくなった。明らかに奇異な物を見る目が減ったのだ。足を作ったことで外も自由に出歩けるようになった。


 そして、真白の身長が滅茶苦茶伸びた。前まで俺の半分も無かった身長は180cmに迫るほど伸びていた。それに伴って体の発育も良くなって、胸が大きくなった。ぶっちゃけ真白がここまで成長するとは思っていなかった。融合のせいで感覚がおかしくなっていたが、真白だって生きているのだ。そりゃ成長だってするはずだ。


 針理は学校を卒業してからは擬人之塔で訓練をよくするようになった。向こうに置いて来た武器を扱う感覚を取り戻したいと言っていた。機械の体なので身長が伸びることもなく、俺は針理の身長を追い越してしまった。


 セラは学校を卒業した後は防衛部隊の研究施設でミーシャさんの武器開発の手伝いをしていた。


「週末にどこ行ってるのか教えてよ!」


 最近そう言って擬人之塔について来ようとしてくるが、綾女から止められているので今年いっぱいまで待ってもらっている。なんか俺のチームとして登録するのに中央都市がごねてるらしい。年単位で交渉が必要ってどうゆうことだよと最初は思った。だが、元々7歳で中央都市から他の都市に派遣されるくらいには優秀だったのだ。最初はミーシャさんについて来ただけかと思ったけどセラも技術者の一人としてカウントされてたらしい。


(そりゃ中央都市も未来がある人材を手放したくないよなあ。)


 そんなことを考えていると二人がそれぞれの部屋から起きてくる。


「おはよう霧刃。」


 二人はパジャマ姿のまま挨拶をしてくる。真白は代わりに手を振っている。


 俺も手を振りかえしながら二人に挨拶する。


「二人ともおはよう。もうすぐご飯できるから先に顔洗って来て。」


「わかった。」


 真白も頷いて二人は洗面所に行く。俺はその間に朝食の用意を済ませる。トーストにバターを塗って、サラダを皿に載せて、お茶を急須で淹れる。


「よし。」


 俺はエプロンを外して先に席に着く。


 二人が来るまでの間につかの間の休息をとる。この一年が終われば擬人之塔に正式に所属することになる。


 俺は本当にこのままでいいのだろうか。なんだか流されるがままにここまで来た。自分で決めたことなんて殆どない。


 訓練は今も手を抜いていない。ギフトの負荷に耐えられるような体も成長した。おかげで戦闘に関しては間違いなく人並み以上になった。だが、相変わらず真白には全然勝てない。こんな体たらくでは真白を守るなんて夢のまた夢だ。


「いつになったら俺は真白を守れるんだ…」


 俺はテーブルに肘をついてそんなことをぼやく。


「何か言った?」


 横を見るとゼロ距離でこちらを見ている針理と真白がいた。


「ああ、いや、なんでもない。早く食べよう。」


 俺は誤魔化しながら二人に着席を促す。俺は何を迷っているんだ。こんなこと考えてる暇なんて俺にはない筈だ。


 俺は迷いと一緒に朝食をかき込んだ。


─────────────────────────


 今日は授業は無く、学校の始業式だけだった。校門の前で一真をはじめとしたクラスメイトたちと別れて俺と真白は家に帰る。この学校はクラスは卒業するまでずっと同じだ。仲がいい奴と一緒に居れるのはいいが、嫌いな奴ともずっと一緒なので一長一短だ。


 俺と真白は家に着くとリビングでゆっくりする。今日しなければいけないことはもうない。つまり暇だ。セラは防衛部隊の研究所だし、針理は多分外だし、春夏は柊に付き合わされているだろう。


「俺トレーニングがてらちょっと走ってくるけど、真白も来る?」


 横にいる真白は首を横に振る。付いて来ると思っていたのだが意外だ。


 俺はトレーニングウェアに着替えて、足首のところに重りを着ける。中には2kg鉛が入っている。手で持つだけなら余裕だが、これを足につけて動くと結構な負荷がかかる。


「古典的ですけど、実際悪くないトレーニングなんですよ。」


 透蜜がそう言いながらこれをくれたのだ。前々から体が成長したら渡すつもりだったらしい。


 最初はただ歩くだけでも息が切れて大変だった。今も軽いジョギング程度の速さでしか走れない。もっと強くなるためにはこれの重さを感じないくらい体を鍛えなければいけない。


 俺は家を出ていつものルートを走り出す。足にずっしりとした重さがあり、前に踏み出すことを阻害してくる。それに負けじと足を前に踏み出す。


「はっ!はっ!」


 俺は息を切らしながら走り続ける。この足腰を鍛えるのはとても重要だ。加速は元の速度に、消費した魔力に比例する倍率の速度が付与される。つまり、元の速度が早ければ早いほど魔力の消費量も抑えることができる。


 この加速の仕組みも最近気づいたことだ。魔力量が成長に合わせて増えたことに加えて、各ギフトの精密な操作ができるようになったおかげだ。


 いつものルートを一周してゴールに設定している公園にたどり着く。


「はぁ…はぁ…やっぱキツい、な…はぁ…」


 公園内をゆっくり歩いて呼吸を落ち着かせる。急に止まって休むのは体によくない。火照った体を冷ますためにシャツをぱたぱたする。ポケットに入れておいたハンドタオルで汗を拭って、ベンチに腰掛ける。


 足にジーンとした重い痛みが流れ続けている。帰ったらしっかりストレッチをしないと筋肉痛になってしまうだろう。


 俺はその痛みを感じながらふと公園の遊具に目を向ける。


 公園で遊んでいる子供とそれを横目に談笑している母親たち。子供たちが危ない遊びをしないように見守りながらも、ストレス発散の悪口大会を繰り広げている。「最低!」とか「本当にキモイよねー?」とか聞き耳を立てなくても大声で聞こえてくるのだ。盛り上がっているのか時折「きゃははははは!!」という高笑いも聞こえてくる。


「怖…」


 俺は誰にも聞こえないような小声でそうつぶやいた。


「ね。怖いよね。」


 するとその声に反応して横から声をかけられる。声のした方を見ると、そこには黒髪の男?がいた。いや、よく見ると胸が僅かに膨らんでいるので女なのかもしれない。如何せん声は低いし、髪も男か女か微妙な長さで判断に困る。


「隣、いいかい?」


 その人は俺の前に移動してベンチの方に手を伸ばす。誰かは知らないが、別に断る理由もない。


「いいですよ。」


 俺は笑顔で横の席に座るよう促す。この人は一体誰なんだろうか?


「ありがとう。君、結構肝が据わってるね。知らない人に話しかけられて動じないなんて。」


 その黒髪の人は笑顔で話しかけてくる。


「そうでもないですよ。今日も自分の身の振り方がこのままでいのか悩んでたところです。」


「ふーん。僕でよければ相談に乗るよ。今は休暇中で暇だし。」


 休暇中ということはどこかに勤めているということだろうか。ということは少なくとも俺よりは社会経験が豊富なはずだ。相談してみるのもいいかもしれない。身内と違って変に身構えることないので話しやすそうだ。


「今までずっと流されてきたんです。死にたくなくて、一人になりたくなくて、言われるがままに生きてきました。そのせいでこのままでいのか漠然とした不安が常に付きまとっているんです。俺は他の人の人生も預かっているんです。それが尚更プレッシャーになっていて。自分が必要かどうかっていうのは前に結論出せたんですけどね。」


 その人は驚いた顔をしていた。


「君すごいこと考えてるね。大人でもそんなこと考えてるひとなんてそう居ないよ。だけど、ふむ。漠然とした不安か…」


 俺の悩みを聞いて、この人は真剣に考えてくれているようだった。もしかしたらいい人なのかもしれない。


「なら、行動してみたらいいんじゃないかい?」


「行動?」


「そう行動。漠然とした不安って言うけれど、不安には必ず原因がある。これは僕の意見だけど、君には行動力が足りないと思う。ここで僕にこの相談をするまでに周りの人に同じことを相談したかい?」


 俺は痛いところを突かれて押し黙る。


「やっぱり。君は臆病だね。自分で決めることを怖がっているんだ。でも、その殻を破るまでもう少しのところまで来てる。君は今まで何度か自発的に行動したことがあったんじゃないかい?そのアンクレットのように。」


 俺の足につけた重りを指さしながらそう聞いてくる。


「この重りはもらったから付けただけで…」


「でも、走り始めたのは君の意志だった。」


「!」


 俺はその言葉を聞いてこのトレーニングを始めたころのことを思い出す。高山都市に戻って来たばかりの頃、真白に全然勝ててなくてこのトレーニングを始めた。全ては真白を、仲間を守るため。


「君が手を伸ばしたのは走り始めたことだけかい?違うはずだ。思い出してみるんだ。自分が一歩をを踏み出したその瞬間を!」


「俺が踏み出した瞬間…」


 俺はあいつの魔力融合炉を直した。俺はセラを仲間に引き入れた。俺は春夏を現状から救い出すと約束した。俺は針理を目覚めさせた。


 俺は…


「あの時、あの手を掴んだんだ。」


 思い返して見れば真白と初めて会ったあの日から俺はちゃんと選択してきたんだ。確かに流されていた時も多々あっただろう。でも全てがそうではない。


「解決したかい?」


「うん。ありがとうございます。大事なことを思い出せた気がします。もう少し、自分がやりたいように動いてみようと思います。」


 俺は笑顔で自信をもって答える。


「そうかい。いい目になったね。よかった。」


 その人は優しい目つきで笑ってくれた。俺はこの人がどんな人なのか気になって名前を聞いてみる。


「そういえばまだ名乗ってませんでした。俺は神楽霧刃です。あなたは?」


 その人は驚いた顔をしてその後はっとした顔をする。


「ごめんごめん!僕も忘れてたよ。氷室 勇気(ヒムロ ユウキ)だよ。勇気ちゃんって呼んでほしいな。よろしくね。霧刃。」


 さすがに年上の人をちゃん付けで呼ぶのは気が引けた。


「よろしくお願いします。勇気さん。」


 すると、勇気さんに怒られた。


「勇気ちゃん!あと敬語もいらないから。友達でしょ?」


 どうやら引き下がる気はないようだった。本人がそう呼んでほしいと言っているのでそれを尊重した方が良いだろう。


「わかった。よろしくね、勇気ちゃん。」


 俺がそう返事すると勇気ちゃんはニコっと笑った。


読んでいただきありがとうございました。

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