閑話─約定─
よろしくお願いします。
「じゃあいいですよ。」
俺は透蜜の合図を確認して軽信傲撃を起動する。
今は擬人之塔に帰ってきている。透蜜にお願いして新しいギフトの実験中だった。
「…なにも起きませんね。」
俺は自分の変化が何もないことを不思議に思ってもう一度ギフトを使ってみる。だが、魔力を消費してる感覚すらない。
俺はあの時のテクノの状態を思い出す。最後のあの瞬間は超強力な一撃が放たれた。
「武器…いや、銃か?」
俺は適当な銃を持ってギフトを起動した状態で引き金を引いてみる。
すると、魔力が消費されて普段以上の火力が出る。放たれた魔力弾は的を木っ端みじんに破壊する。
「すごいですね。ってあれ?」
透蜜が俺の方を見て首をかしげている。俺は銃から出た威力に驚いていたが手元の銃に目を移す。
銃はバラバラになって砕け散った。
「やっぱりこれがデメリットみたい。」
このギフトは銃を持っているときに使えて、使った後は銃は壊れてしまうというギフトだ。
「なんというか、使いにくいギフトですね。」
透蜜は困ったような顔をしている。確かにこれは他のと違って使いどころを選ぶギフトだ。武器をなくしてしまう関係上気軽に使うことはできないだろう。
おまけにこれは威力の調整とかは出来なさそうだ。使えば最後、武器の自壊は免れない。
「そうだね。付き合ってくれてありがとう。」
俺たちは仮想戦闘を終了して訓練室を出る。
「それじゃあ、やることも終わりましたしお風呂行きましょうか。」
透蜜が伸びをしながらお風呂の方に歩いていく。俺もその後を追いかける。
「わかった。」
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俺は透蜜の背中を流して二人で温泉に浸かる。
「…はぁ。」
俺は最近の疲れからため息をついてしまう。それを見て透蜜が横に座ってくる。
「どうしたんですか?」
俺は透蜜に思っていることを素直に話す。
「前の竜との戦闘は本当に危なかった。あいつが居なかったら俺も死んでいたと思う。俺は間違えなく慢心してたんだ。こんな奴にチームのリーダーが務まるのかと思ってさ。針理には撃ち合いで負けて、真白には直接戦闘で負けて、セラには頭の良さで負けて、春夏も結局全然救えてない。」
一旦言葉を区切ってずっと内に秘めていたことを告白する。
「正直な話さ、このチームに俺要らなくない?って思っちゃったんだ。」
これは少し前から考えていたことだ。俺は自分が思っている以上に無能だということにようやく最近気が付いたのだ。
俺は今まで何回も仲間に命を救ってもらってきた。でも、俺が自分一人の力でできたことが何か一つでもあるだろうか。
そう考えを巡らせてみると俺の中には何もなかった。
「そんなことを考えてたんですね。難しい問題ですね。」
透蜜は少し考えた後に話し始めた。
「今の霧刃に必要な物は図々しさだと思います。」
透蜜が湯舟から右手を出して人差し指を立てる。
「図々しさ?」
俺は透蜜が言ってることがよくわからなくて聞き返す。
「もう少し図太くなってください。霧刃はこのチームを作りました。針理を解き放ちました。守護者の称号を勝ち取りました。訓練も勉強も毎日頑張っています。全く知らないギフトをいくつも使いこなしています。素材を売ってお金も稼いでいます。」
透蜜が左手の指で俺がやったことを数えていく。
「ほら、今思いついただけでこんなにもありました。人っていうのは自分のことになると鈍いんですよ。だから、何を失敗したかよりも、何を成し遂げたかを数えてください。失敗は教訓にするだけでいいんです。失敗を数えてもそれ以上の学びなんてもう無いんですから。だから、もう少し自分がやってきたことを誇っていいと思いますよ。」
(何を成し遂げた、か。)
考え方の問題なのだろう。白銀鷲を倒したのは真白がやったことだ。
(でも、あの時俺が真白の手を掴んでいなかったら?)
おそらく二人とも死んでいた。
俺ははっと気が付く。あの時はどちらが欠けていてもダメだったんだ。俺が弱いとか真白の方が強いとかじゃない。あそこを切り抜けるには二人とも必要だったんだ。
「そうか…そんな簡単な事だったんだ。」
俺は腑に落ちた感じがした。胸のつかえがとれたような気分だ。
「要らないんじゃない。」
俺はようやく納得することができた。
「自信が戻ってきたようでよかったです。それはそうとして、話は変わるのですが…」
透蜜が俺の耳を貸すように合図をしてくる。俺は何か重要な話が来るんだと思って耳を近づける。
「霧刃は好きな子は出来たんですか?」
すごくどうでもいい質問が飛んできた。
「居ないよ。というか俺にはやっぱりよく分からなかったよ。命を預ける仲間と何が違うのかさっぱりだった。」
好きな人というのは一緒に居ると幸せな気持ちになったり自然と笑顔になったりする人のことだという。普通に考えれば真白だが、なんか違うらしい。
「クラスの男子が女の体とかで盛り上がってる時も、いまいちよくわからくてさ。『やっぱ性欲じゃん』って言ったら『違う』って言われるし。」
「なら霧刃は性欲無いんですか?」
透蜜が嫌なところを聞いてくる。なんか話しずらいが、隠してもしょうがないだろう。
「あるよ。魅力的な人がたくさんいて困ってるよ。」
それを聞いて透蜜がにんまりと怖い笑顔を浮かべる。
「それなら大丈夫ですね。一番誰とシたいかを思い浮かべればいいんですよ。」
透蜜が俺に腕を絡ませてくる。相変わらず凄まじいパワーで逃げ出すことができない。
「放してほしいんだけど…」
「こんなに大きい胸が目の前にあるのに何もしないんですか?正直になったらどうですか?」
俺は顔を近づけてくる透蜜から何とか放れようと藻掻くが、抜け出すことができない。
「あーもうわかったよ!全部素直に話すよ!!そりゃみんなとエロいことしてみたいよ!けど、なんか…怖いの!その後の関係が壊れそうで!はいお終い!もう放してよ!」
俺が素直に全てをぶちまけると透蜜はゼロ距離まで顔を近づけてくる。火照った顔から水が滴り落ちる。夜の暗さの中に明かりに照らされた透蜜の体が浮かび上がり。魅力的に見える。
(意識しないようにしてたのに…これは、不味い…)
俺は普段から透蜜と綾女はそういう目では見ないようにしていた。二人は外にいた俺と真白を拾ってくれた恩人で、戦闘の師匠で、守護者としては先輩で、とにかくそういう目では見たくなかったのだ。
俺は二人を人として尊敬していた。
それなのに胸が押し当てられて、心臓の鼓動が伝わってくる。透蜜の柔らかい感触にどうしても体が反応してしまう。
急にどうしたというのか。
「透蜜、今日なんかおかしいよ?なんか…」
俺が言葉を続けようとしたら、口元に人差し指を当てて静かにするように指示される。俺は口を閉じて透蜜の顔を見る。
「…いい子ですね。別におかしくなんかないですよ。最近霧刃の視線にそうゆうのが入ってることに気付いちゃったんです。ここは退屈ですからね。楽しいことはいくらあってもいいんですよ?」
俺はだんだん自分の息が荒くなっていることを感じ取る。妙に体が熱い。温泉のせいではない何か内側から溢れ出る熱がある。
「つまり暇つぶしってこと?」
俺はなんとか冷静さを保つために口を動かす。意識を逸らさなければおかしくなってしまいそうだった。
「そんなことありません。霧刃は十分魅力的な男の人に成長してますよ。その成長をちょっと手伝ってあげるだけです。」
透蜜が耳元に口元を近づけて囁く。
「そんなに怖いなら私が手ほどきしてあげますね。」
「は…い…」
俺は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなり、そのまま意識を手放した。
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「あんた馬鹿じゃないの!何子供襲ってるのよ!」
私の腕の中にはのぼせた霧刃がぐったりとしている。あまりにもお風呂の時間が長いのでおかしいと思って見に行けばこれだ。
自分の相棒の節操のなさに呆れ果てる。
「だってここに来る男の人って霧刃だけなんですもん。毎日同じ仕事ばかりで刺激が欲しかったんです!」
刺激なら普段から浴びているだろうに。透蜜は元々こんなにレギンスやスパッツを履く方ではなかった。なのに霧刃がここに馴染み始めた途端にこれだ。
こいつは体のラインが出る服を着て霧刃の反応を楽しんでいたのだ。
確かに生きているのだから性欲だって溜まる。しかし、もっと他の方法はとれたはずだ。
「18まではこっちからは手を出さないって約束はどこに行ったのよ!」
「それは、まあなんというか。成り行きで?」
私は透蜜の態度に更にムカついて怒鳴る。
「いいから二人を起こしてきなさい!もうこんなことが無いように全員で約定作るから!」
「はーい。」
透蜜が部屋から出ていったのを確認して、ベッドに寝かせた霧刃の顔を見る。もう体温は大分下がっていた。
「あんたが女の子だったらこんな問題起こらなかったのにね。」
透蜜の暴走もわからなくはないのだ。自分だってそうゆうことをしたいという欲求は確かにある。だが、それを解消してもらうには霧刃はまだ子供だ。そんなことを迫れば霧刃の真っ当な成長の妨げになってしまう。
大人としてここは曲げる訳はいかなかった。
「あんた大人になったら覚悟しときなさいよ。ここでは寝れなくなるわよ。」
私はそう言って霧刃に布団をかけて食堂に戻った。
その後に4人で集まって霧刃にそういうことを迫るのは大人になるまで禁止にした。必要ないとは思うが都市に残っているチームメンバーには針理から伝えてもらった。
そして透蜜は罰として1週間蜂蜜禁止にした。
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俺はベッドの上で目を覚ます。
「俺の部屋…」
俺は昨日のことを思い出そうとするがよく思い出せなかった。
「確か夕飯食べて、訓練室で軽信傲撃を試して、透蜜とお風呂に入って…それからどうした?」
俺はその後どうしたかを思い出すことができなかった。だが、ベッドで寝ているということは変な事はなかったはずだ。
「ま、いっか。」
俺はベッドから立ち上がって布団をめくる。しかし、今日は真白はいなかった。
(先に行ったのかな?)
俺は少し不審に思いながらも身支度を整えて食堂に向かう。
食堂の席にはみんなもう着席していた。
「おはよう。遅れたみたいでごめん。」
俺も急いで席に着く。
「おはよう。いいのよ、あなたたちにとっては休日なんだから。」
「おはようございます。」
「おはよう。」
みんなから挨拶が返ってくる。俺はいつも通り真白の横に座る。
「真白もおはよう。」
真白の頭を撫でながら挨拶する。真白も右手を上げて応えてくれた。やっぱり俺が起きるのが遅かっただけのようだ。
俺たちはいつも通りに食事をして、高山都市に帰った。
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