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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
都市の暮らし
60/66

出来損ない

よろしくお願いします。

 竜の咆哮が森の中を駆け巡る。


「ギャアアア!!」


 あまりのうるささに思わず耳を塞ぐ。全身が揺さぶられて倒れそうになるのを何とか耐える。


 俺はヴァンパイアを抜いて、テクノを踏みつぶそうとしてる右前足に斬りかかる。


 斬撃は命中し、竜は一時的にバランスを崩す。その間に全速力でテクノを後方まで下げる。まだ生きてはいるが戦力としては期待できないだろう。最早立つこともおぼつかなくなっている。


「そこで休んでろ。俺が何とかする。」


 俺はヴァンパイアを構えたままテクノから竜を引き離す。


 それにしても大きい。体長は50mを超えている。クイちゃんはこれを食べるのだからどれだけ強いのか想像もできない。


 さっき斬りつけた右前足を見ると斬れたのは表面だけで、大きなダメージにはなっていないようだ。


(ヴァンパイアでこれならスカールは役には立たないか。)


 俺は木の後ろにスカールを投げる。少しでも装備を軽くするためだ。


 空を飛んで追いかけてこれる竜相手に逃げ切ることはできないだろう。俺は覚悟を決めて手持ちのギフトと装備を構える。


「…絶対に勝つ。勝って帰る!」


 加速と跳躍を最初から全開で使用する。出し惜しみをしている余裕はない。一瞬で間合いを詰めた次の瞬間にはヴァンパイアの能力を起動する。刀身が伸びて、刀を振る腕にも加速を上乗せする。


 右前足の付け根を大きく切り裂いて、俺はすぐに次の攻撃に移る。全力で挑めばなんとか拮抗することはできる。だが、こっちは複数のギフトとヴァンパイアの能力の使用で、湯水のごとく魔力を消費する。早く決着を付けないと魔力切れで動けなくなってしまう。


 竜は攻撃を受けたことに怒ったのか激しく暴れ出す。鋭い爪で大地を抉り、大きな尻尾で辺り一帯を薙ぎ払う。一撃でももらえば致命傷だ。しかし、時間が無いため強引に攻めるしかない。


 業を煮やしたのか、龍は翼を動かして空中から攻撃を仕掛けてくる。


「上を取れば有利になると思っているのなら大きな勘違いだぞ。」


 俺は空中に結界を出して足場を確保する。防御の為に使うと魔力がいくらあっても足りない結界だが、足場にするくらいなら大した硬さは必要ない。これも都市で結界の使い方を試行錯誤して編み出した活用方法だ。


 結界の足場を利用しながら、加速と跳躍で相手を翻弄しながら攻撃をする。相手の間合いの中で、一度も攻撃を受けないように慎重に、全力で刀を振る。


 ギリギリの攻防を繰り返しながら着実にダメージを与えていく。


(魔力がかつかつだけど、このままいけば何とか削り倒せる!)


 俺はヴァンパイアの斬撃でついに龍の右側の翼を切り落とす。間違いなく大ダメージだ。何よりこれで飛行されることがなくなったのが大きい。


 竜が斬られた痛みからか大きな咆哮をあげる。


「ギャアアア!!」


 竜が暴れまわり、辺り一帯を無差別に攻撃する。不規則に飛んでくる攻撃に予測が難しくなり、とうとう尻尾の攻撃をくらってしまう。


「ぐはっ!」


 尻尾の横薙ぎ攻撃を受けて吹き飛ばされる。体が軋んで口から血が流れている。早く起き上がらなければならないのに、頭が揺れて上手く立ち上がれない。


 竜はこちらに向かって突き進んできている。


(このままじゃ、不味い…)


 俺は魔力を集中して、強固に作った結界を展開する。これで防ぎきれなかったら本当に死ぬ。


 竜と結界がぶつかり「ガアアン!!」という音が響き渡る。


 結界は最初の突進こそ受け止められたものの、牙や爪の追撃によってひびが入り始めている。


 俺は結界が壊されない内に急いで立ち上がる。平衡感覚が狂い、モタつく足取りで結界の端までなんとか引く。


(ヴァンパイアは…?)


 俺はいつの間にか武器を手放していたことに気づいて急いで周りを探す。


 ヴァンパイアは結界の外側に落ちていた。


 武器を回収するには結界を解除するしかない。でもそうすると解除した瞬間に竜が迫ってくる。今回作り出した結界は、強度を重視したせいで大きなものは作れなかった。


(どうする…!)


 もう結界が持たない。ひびが限界に達し、「バキン!」という音とともに結界が破壊される。


 回避しようにも距離が近すぎる。竜が俺を丸のみにしようと口話大きく開ける。


(死ぬ…)


 死を覚悟したその瞬間、横から何か大きな衝撃が竜を吹き飛ばす。ぎりぎりで竜の口に収まることが無かった俺は、その攻撃の発生元を確認する。


 そこにはさっきのボロボロのテクノが居た。残った最後の主砲から煙が出ている。


 俺は急いで立ち上がってヴァンパイアを回収し、テクノの横に移動する。


「お前、戦えるのか?」


 テクノが頷いて主砲を構える。


「いい根性だ。そういえばまだ名乗ってなかったな。神楽霧刃だ。援護任せる!」


 俺は背中をテクノに任せて竜に突撃した。


─────────────────────────


「お前はもうこの部門には必要ない。早く帰れ。」


 武器管理部門の責任者にそう告げられ、倉庫から締め出される。思うように動かせない両腕を見つめながら自分の家に帰る。その足取りも遅く、角を曲がる度にいちいち足を止めなくてはいけない。


 俺は出来損ないだった。他の個体に比べて演算能力がとても低く、どこに行っても厄介者扱いされた。


 俺はみんなの中では珍しく、ギフトを持って生まれた。そのギフトが変わったものだったこともあって、みんなが俺に期待した。だが、俺のギフトはすごくても俺は落ちこぼれだった。俺が使い物にならないとわかると、みんなが俺を下に見るようになった。どれだけ頑張ってもこの演算能力の低さは改善されることはなかった。


 家に帰ると街の軍事部門の最高責任者である父に呼び出される。


「お前は我が一族の面汚しだ。だが、そのギフトにはまだ価値がある。最後はせめて戦いの役に立って死ね。」


 そう一方的に告げられて、徴兵の指令が下される。


 俺はそのまま戦闘体に換装させられ、人間との戦場まで運ばれた。全身に銃火器を装備させられて戦場にそのまま繰り出される。


 そこには地獄があった。


 肉が焼ける匂い。血と油で染まった大地。捨てられた仲間の残骸と人間の死体。


 初めて出た戦場の空気は重く、いつも以上に体が動かなかった。


(これから戦う…嫌だ死にたくない…)


 遠くを見ると人間が銃を向けてこちらを狙っていた。このまま突っ立ていれば間違いなく頭を撃ち抜かれる。


(死にたくない!)


 俺はギフトを使って右腕に接続された銃の一つを発砲する。「ドオオオン!」という銃身の大きさとは似つかわしくない轟音と威力をもって、こちらを狙っていた人間を撃ち抜いた。


 代償として発砲した銃は使い物にならなくなる。俺のギフトは”軽信傲撃(けいしんごうげき)”という変わったものだった。武器を持っている時のみ使うことができるギフトだ。武器の限界を超えた威力の攻撃を出せる代わりに、このギフトを適用した武器は自壊してしまう。


 戦闘体として装備した銃火器は両腕に六門。背中に大型のものが四門。武器が自壊する関係上ギフトを使える回数は限られている。


 素早く動かない足を必死に動かして戦場を駆け抜ける。前に進むたびに仲間の機体が一機、また一機と減っていく。戻ることは許されない。戻れば間違いなく敵前逃亡と見なされて処刑されてしまう。


 俺は体が動かなくなるまで戦い続けた。


─────────────────────────


(ここは、どこだ?)


 俺が次に目を開けるとそこは森の中だった。残り少ない魔力を使用して全身のスキャンと再起動を実行する。


 体のあちこちが壊れており、死ぬのは時間の問題だった。


(なんとかしないと…!)


 俺はボロボロの体を起こして立ち上がる。機体は大分土を被っており、どうやら埋まっていたようだった。


 前方を見ると一人の人間が居た。忘れていたがここは戦場だ。相手との距離が近いことを確認して、急いでその場を離れようとする。だが、戦闘で傷ついた体はいつも以上に思うように動かず、その場に倒れてしまった。


(もう限界、か…)


 倒れてその場に座り込んでいると、何かをぶつけられる。そこにいたのはさっきの人間の子供だった。


(そういえば子供?なんで兵士じゃなくて子供が戦場に?)


 その子供は刃物を持っているが、こちらに攻撃はしてこなかった。


 このままじっとしていてもいずれ死んでしまう。ならば少しでも可能性が高い方に賭けるしかない。


 俺は意を決して胸部装甲を開放した。スピーカーが壊れていたので、たどたどしい身振り手振りでのやり取りになった。でも、目の前にいた少年は俺のガクつく動きを馬鹿にしず、真面目に聞いてくれた。


 やり取りを何度か交わして、残っていた武器の一つを少年に渡した。自分の命と武器なんて天秤にかけるまでもなかった。


 彼は俺の命の恩人になった。



─────────────────────────


「お前も手伝え。」


 体のある程度の修復を待ってから、彼と一緒に核石の取り出しの作業をした。核石は使い道がたくさんある。俺たちの動力で使う小さいものもあれば、都市で動力として運用される大きいものまである。俺の動きはとても遅く、彼の5分の1も回収できなかった。それでも彼は文句を言うことはなかった。


「やっと終わった…」


 作業を終えると彼は疲れた顔をしていた。倒した魔物の死骸はたくさんあり、核石も大量だった。いつも余った最後の一つをおこぼれでもらえるだけだったので、掌いっぱいに載った核石はとてもきれいだった。


「それじゃあ、俺は行くから。」


 そう言って彼は腰に付けた袋に核石を仕舞って、ここを去ろうとする。俺はそれに驚いて掌に載せた核石を彼に差し出す。


「ああ、ありがとうな。」


 どうやら忘れていたようで、彼は申し訳ないような顔で核石を受け取る。ちょっと抜けているところはまだまだ彼が子供だということを実感した。


 それを微笑ましく思っていると、彼の後ろから何かが近づいて来るのが見えた。


 空を飛びながら巨大な魔物が襲い掛かってくるのが目に入る。


(不味いっ!)


 俺は咄嗟に彼に体当たりして無理やり魔物からの攻撃を回避させる。


 彼は助けることができたがこっちは魔物からの攻撃を受けて、がたが来ていた体が更にボロボロになる。


 一歩も動くことができなくなり、魔物の前でしゃがみこんでいると、彼が助けてくれた。


 その場でうずくまっている俺に攻撃が当たらないよう誘導し、逆にダメージを与えている。彼はただの子供ではなかった。それこそかつて戦った人間の兵士と同等以上の強さを持っていた。


 何故、そんなにも強いのか。何故、俺をここまで助けてくれるのか。


 俺は彼に興味を持った。


 彼に理由を聞いてみたい。もしかしたら友達にもなれるかもしれない。


 残った最後の一門に魔力を集中して魔物の頭部に狙いを定める。


(だから、絶対に死なせない!)


 俺は初めて自分以外の存在に惹かれていた。


 俺は初めて自分の為じゃなく他人の為に武器をふるった。


─────────────────────────


 テクノと二人がかりになったことで火力が一気に増した。


 竜はテクノからの銃撃と俺の斬撃を受けて大分疲弊している。


 竜からの攻撃がテクノに行かないように注意する必要はある。しかし、この竜は遠距離攻撃を持っていないのかこちらにばかり攻撃してくる。


 テクノの砲撃によって竜の左前脚が吹き飛ばされる。


「ギャアアア!!」


 竜が攻撃を受けて大きな咆哮を放つ。竜はどこか遠くを見て姿勢を低くする。


(なんだ?)


 龍が見ている方角を確認する。そこには足回りの修理を終えて、立ち上がろうとするテクノがいた。


「不味い!避けろ!!」


「ギャアアア!!」


 竜の突進と同時に俺はテクノに警告する。だが、それはあまりにも遅すぎた。


 テクノは竜の突進を前にしてその場から動けなかった。今までとは比べ物にならない程の速さで竜は動いていたのだ。


「テクノ!!」


 俺は叫びながら結界を出そうと魔力を集中する。残った魔力の殆どを込めた結界だったが、無念にも竜を止めることができない。


(だめだ…もう、助けられない…)


 竜と俺の距離は開き、残った魔力ではどのギフトも使うことができない。


 テクノの死を確信したその時、今まで見たことが無いような威力の攻撃が竜の長い喉を吹き飛ばした。


「は…?」


 残ったテクノは最後の主砲がバラバラになって砕けちり、その場に座り込む。


「テクノ!」


 疑問に思うことはたくさんあるが俺は急いでテクノの元に駆け寄る。


「おい、しっかりしろ。今魔石を交換してやる。早く開けろ!」


 俺は自分の持っている中で一番大きい魔石を手に取る。しかし、テクノは胸部装甲を開けようとはしなかった。


「早く開け!死ぬぞ!」


 テクノは左腕をゆっくり動かしてヴァンパイアを自分に向ける。俺はそれが何を意味しているのか悟り、全身から急に力が抜けていく。


「お前…」


 俺は言葉をうまく紡ぐことができずに黙り込んでしまう。それを見てテクノは揺り籠の装甲をパージする。


 そこには悲しい笑顔で首を横に振る男の顔があった。


「わかった。苦しませはしない。俺の中で安らかに眠ってくれ。」


 俺は目を閉じた男の顔をヴァンパイアで切り裂いた。


 死んだテクノに魂喰を使って、テクノの魂を喰らい尽くす。


(ありがとう。友達。)


 気のせいかもしれない。悲しい現実に耐えきれず自分が作り出した幻聴かもしれない。しかし、その瞬間俺は確かにその声を聞いた。


「礼を言うのは俺の方だ…ありがとう…」


 ただの鉄くずになったものに涙が零れ落ちる。


 俺は彼の名前すら知らない。それどころか今日知り合ったばかりの相手だ。


 それなのにどうして──── 


「どうしてこんなにも悲しいっ!!どうして!ああっ!ああああああああああ!!」


 俺は森の中で仲間を失った痛みに泣き続けた。


読んでいただきありがとうございました。

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