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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
都市の暮らし
45/66

鬱陶しい

よろしくお願いします。

「今日は来たか。」


「…あんたもね。」


 俺は結界の階段を使って屋上に来ると春夏がいた。今日は10月30日。俺が高山都市に帰ってきてひと月が経った。


 学校での勉強はとても楽しい。訓練も続けているが、初めて外に出た時より少し早く動けるようになってきた。自分の成長が感じられるのはとても嬉しい。一真や愛理、クラスの他の子とも仲良くなった


 俺を攻撃するためにやれやれ隊はほぼ毎日来た。春夏から聞いた話だがあいつらのリーダーは柊はじめというらしい。親が都市の議員をやっているそうで、それを楯にして好き勝手やっているそうだ。


 俺はそれをおばあちゃんに言っておいた。


「面白い話が聞けたわ。霧刃くん、おばあちゃんに教えてくれてありがとう。」


 そう言って俺の頭を撫でてくれた。そんなに面白くは無いと思うのだが、おばあちゃんが気に入ってくれたみたいでよかった。


 春夏の現状については擬人之塔に帰った時に綾女たちに教えておいた。なんか中央都市に報告しておくらしい。


「権力に溺れる者とそれに虐げられる者がいるのはいつの時代も同じね。」


 そう言って綾女は悲しい目をしていた。これもよくわからないがとりあえず報告は続けている。


「はい。これ今日の分。」


「ありがとな。それより聞いてくれよ。今日もあの屑の視線がキモくてさ────。」


 春夏とこうしてご飯を食べるのももう5回以上になる。話すのはいつも春夏の愚痴だ。家で親に何回殴られたとか、柊にどれだけ嫌なことをされたとかだ。


 一番酷かったやつは柊に妊娠させられたという話だ。これが判明したとき、無理やり病院に連れていかれ、眠らされている間にお腹の赤ちゃんを殺されたらしい。


「あんな奴の子供とか生みたくなかったから別にいいけどな。」


 そう言ってはいたが表情はとても暗かった。俺には嫌いな奴の子を妊娠した時の気持ちなんてわからない。だから、その時はなんて声をかけたらいいかわからなかった。


 俺は今日も春夏の愚痴を聞く。


「────で、廊下ですれ違った男子が俺の尻を触ってきてさ。本当に最悪な気分だったよ。」


「それは大変だったな。通報したか?」


「してないよ。したら親にどやされる。本当にクソ野郎だよ。どいつもこいつも俺を性処理器としてしか見てない。俺はお前らの便器じゃないっつうの。」


「よくわからんがそうだな。」


「あーあ…どっか親の目が届かないところに行きたいな…」


「外とか?」


「…それもいいかもな。」


 最近わかったことだが、春夏は自分のことを”俺”という。他の人の前では”私”なので、こっちが素のようだ。


 俺はお茶を注ぎながら外に出る方法を考える。


「なら防衛隊員か討伐者になるしかないな。」


 俺はお茶をいれたコップを差し出す。真面目に考えるならこの二択だ。討伐者は防衛部隊に所属しずに獣や異形種を倒して生計を立ててる人たちのことだ。


「そうなれたら苦労しないんだよな。ありがとな。…あー、うまい。俺は防衛隊員になる前にまた子供を孕まされる。その後はあいつと結婚させられて終わりだ。」


「それは悲しい…いや、悔しいな。」


 俺は空が映し出されている都市の天井を見る。昼も夜もずっと晴れている偽物の空。外のように風が吹くこともなければ、雨が降ることもない。毎日同じ空。


 春夏も空を見上げる。


「そうだ。悔しい。」


 俺が持つ人脈を使えば春夏をこの状態から脱却させることはできる。だが、それをすれば春夏はいばらの道を辿ることになる。それを考えれば命の安全が保証されている都市に居た方がマシだろう。


(それが正しい筈だ…そうなんだ…)


 それに俺はもう二人分の人生を背負っている。これ以上俺に巻き込む人を増やすわけにはいかない。


「なあ。」


「なんだ?」


 春夏がこちらに視線を戻して聞いてくる。


「俺が外に出るのを協力してくれって言ったら、どうする?もちろんお礼はする。」


「断る。外は危険すぎる。」


 俺の答えを聞くと少し悲しそうな顔をする。


「そうか。」


 なんとなく嫌な沈黙が流れる。俺は空気を変えるために別の話を振る。


「それより、今度の武闘会出る?」


 武闘会とは12月の23日から30日にかけて行われる大会だ。年齢別にトーナメントが組まれて、各階級の優勝者を決めるというものだ。ルールは仮想戦闘を使って相手を戦闘不能状態にすればいいというシンプルなもので、武器もギフトも何を使ってもいい。ただし、賄賂や盤外戦術にあたるものはすべて禁止されている。昔に何を使ってもいいの意味をはき違えて出場者を大会前に闇討ちする事件が起きたらしい。


「出ないけど行くよ。てか強制的に連れていかれる。あのクソ野郎も出るからな。それのヨイショ係だよ。」


 階級は初等部、中等部、高等部、あとは十代、二十代と年齢が上がっていく。そして最終日は無差別級になっている。


「お祭りまであいつの付き添いかよ。マジで大変だな…」


 腕に自信がある者なら都市の住人は全員参加することができる。俺は参加しないがお父さんは参加する筈だ。


「霧刃は行くのか?」


「まあ、行くだけなら無料だし。だけどなんか嫌な感じがするんだよな。」


 春夏の経験したことを信じるなら柊は平気で不正をしてきそうな気がする。


 そんな雑談をしながら俺たちはご飯を食べ終わった。


─────────────────────────


「霧刃おかえり。今日もあいつら来てたよ。」


 俺は教室に戻って一真と話をする。


「今日もか。飽きないのか?」


 一真が困った顔で答える。


「僕に聞かれても知らないよ。毎日よくやるなーとは思うけど。それより今日、放課後訓練室行かない?また手合わせして欲しいんだ。」


 最近は数人で訓練室に行くようになった。全力戦闘はできないが、おかげで結界の使い方は大分覚えてきた。込める魔力の微調整や出現させる位置の設定。ここまで早く使えるようになったのは加速と跳躍で得た経験のおかげだろう。


「いいよ。」


 一真との手合わせもとても参考になっている。俺は今まで強すぎる相手ばかり相手にしてきた。俺一人でまともに勝てた相手は獣とサギルくらいだ。


 自分の実力に近い相手との戦闘経験は貴重なんだと知ることができた。


 俺は放課後を楽しみにしながら午後の授業を受けた。


「今日も針理さん来るかな?」


 前から何か聞こえたが無視した。


─────────────────────────


 放課後の学校の訓練室で俺たちは集まっていた。メンバーは俺、真白、針理、一真、愛理の5人だ。


 針理の武装だが中距離、長距離に対応できる”ガンロック”という銃を持ってきている。変形させることでアサルトライフルにもスナイパーライフルにもなる武器だ。


 射程距離と一撃の威力はデスペラードに負け、殲滅能力ではガスパレードに負ける。要するにどっちつかずの中途半端なのだ。だが、今回は最悪失っても大丈夫な装備として持ってきた。突き抜けた強みはないが対応力に優れた武器になっている。


 それにあの超デカい銃たちは都市では目立ちすぎる。


「し、針理さん、こんにちは!き、今日もよろしくお願いします!」

 

 一真が針理に挨拶している。


「よろしく。」


 針理が素っ気ない返事をする。それを聞いて一真が落ち込んでいる。


(何やってんだあいつ。)


 俺は準備を終えて立ち上がる。


 するとちょうど誰かが訓練室に入って来る。


「おい見つけたぞバケモン。」


「ちょこまか逃げやがって!」


「やれやれ、この俺がいくら強いからって逃げるのも程々にしてほしいね。」


「あんな奴はじめくんの敵じゃないよ。」


 金髪の方の女が抱き着く。


「はじめくんすごーい。」


 春夏が一番後ろで貼り付けた笑顔と共に心にもないことを言っている。俺は思わず同情の視線を送ってしまう。


「おい。なんだその目つきは!」


「やれやれ、この俺が羨ましいのはわかるがそんな視線をくれても俺にはなれないよ?」


 ごちゃごちゃ何かを言っているが頭に入って来なかった。


 俺がどうやって逃げようかと考えていると柊が針理の方を見ながらニヤニヤし始める。


「そこの君。そんな異形種と一緒にいる必要はないよ。こっちにおいで。俺が守ってあげるよ。」


「必要ない。消えろ。」


 光を消した冷たい目で針理がそう答える。本当に心の底から嫌がっているようだった。


 針理の返事に一瞬固まる柊だったが、すぐにまたニヤ付き始める。


「やはりあの異形種の側にいると思考を歪められてしまうようだ。やれやれ、この俺が救ってやらないとな。」


 その言葉に取り巻きの男子が反応する。


「周りの人間もそうやって操ったのか!このバケモンが!」


「絶対殺す!」


 柊が拳銃型の魔力銃をこちらに向けてくる。


 これまでで一番だるい戦闘が起こることは想像に難くなかった。

読んでいただきありがとうございました。

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