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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
都市の暮らし
44/66

ヤバい奴

よろしくお願いします。

 俺達は今日も武器を装備してお姉ちゃんと一緒に家を出る。今日は登校二日目だ。一応昨日のことはお父さんにも話した。だが、お父さんも学校の方にはあまり口を出せないそうだ。


 おそらく今日もあの5人は来るだろう。昨日の内に策は考えておいた。昼休みに毎回クラスのみんなに迷惑をかけるのもよくないしな。


 教室に着くと一真とその隣の席の女子が挨拶してくる。


「おはよう霧刃。真白。」


「霧刃くん、真白ちゃんおはよう。」


「おはよう一真。と、えーっとすまん名前なんだっけ…」


 俺は女子の名前がわからずに言葉を濁す。


「愛理。石川 愛理よ。よろしくね。」


「愛理よろしく。それとおはよう。」


 二人に挨拶を済ませて昨日と同じように授業を受けていく。肥田からはずっと嫌な視線を感じるが無視した。


 そして、問題のお昼になる。俺は一番近い窓を開けて荷物を持って準備する。すると、案の定昨日のやれやれ隊がきた。やれやれ隊というのは俺が勝手に付けた名前だ。だが、昨日より女子の数が一人少ない。仲間割れでもしたんだろうか。


「今日も来た。どんだけ暇なんだよ。じゃあ一真、俺逃げるから。予定通り居なくなったらリンクで知らせてくれ。」


 一真は不安そうにしている。


「わかった。でも、どうやって逃げるの?」


 俺たちが話しているとやれやれ隊がやれやれ言いながら近づいてくる。


「おい、昨日はよくもやってくれたな。覚悟はできてんだろうなこのバケモン!」


「ぶっ殺してやるよ。」


「やれやれ、僕は正直どうでもいいけど都市に異形種がいるのは問題だからな。やれやれ仕方ない、僕が退治しなくてはな。」


「はじめくんかっこいいー。そんな奴らやっちゃえ!」


 よくもやってくれたなと言われても、勝手に来て帰っていった記憶しかないんだがそれは置いておこう。一日なら耐えれたが毎日こんな奴らと一緒にいると気分が悪い。


「そんなに暇なら相手してやるよ。付いてこれるのならついてこい。」


 俺はそう言って真白を背負って窓から飛び降りる。


「霧刃!!」


「真白ちゃん!!」


 一真と愛理が俺達を呼ぶ声が聞こえる。


「キャアアアアアアア!!」


 その後教室から悲鳴が聞こえてくる。だが、真白が地面に激突する前に翼を広げて飛び上がる。俺は校舎の屋上まで飛んでいく。屋上に人がいないのは確認済みだ。


「ありがとう真白。上手くいった。」


 俺と真白は屋上に降りると何か物音がしていることに気が付く。音から推測するとどうやら屋上の手すりに何かがぶつかってるようだ。


 俺は気になって音の発生元まで辿っていく。するとそこには手すりを蹴り飛ばしている一人の女子生徒がいた。なにかぶつぶつ言っている。


「クソが!なにがキモい、やれやれだよ!テメェの方が顔もその口から吐く言葉も全部キモいんだよ!はじめのクソ野郎!死ね!消えろ!性欲の塊が!このレイプ野郎!!」


 よく見るとこいつは昨日やれやれ隊の一番後ろにいた藍色の髪の女だ。だが、昨日とは雰囲気が全然違う。やはり仲間割れしたのだろうか。


 俺は声をかけてみる。


「ならなんでそんな奴と一緒にいるんだ?」


「あのクソおやじと!クソババアの!せいに決まって…る……」


 そう言いながら驚いた顔をしながらこちらに振り返ってくる。その顔には涙が溢れていた。


「あんたなんでここに…!どうやって来た!」


 俺はそいつの質問を無視して更に質問する。


「嫌な奴と一緒にいて楽しいのか?」


「っ!楽しいわけないだろ!あんな下半身でしか行動できない家畜以下の屑!一緒にいるだけで吐き気がしてくる!気持ち悪くてしょうがない!」


「なら離れればいいんじゃないか?」


 そいつは泣きながらその場に座り込んでしまう。


「私だって離れれるならそうしたいよ。でも、親には逆らえない…言うこと聞かないとまた殴られる…またご飯もらえなくなる…」


 よくわからないがこいつはこいつで大変なようだ。居たくもないやつと一緒に居なければいけないのはどれだけキツいんだろうか。よく見ると鎖骨のあたりや太ももの上の方にはあざがある。トレーニングとかで付いたやつじゃない。これは他人からの攻撃による傷だ。


「…そうか。なあ、ご飯はもう食べたか?」


「今日は無い。お父さんの機嫌が悪かったから。」


 こいつ中々ヤバい奴かもしれない。いや、違う。こいつじゃなくてこいつの親がヤバい。こんな状態まで追い込むなんて一日や二日でできることじゃない。こいつの目は外で見た獣の目に近い。生きる為になりふり構ってられないあの目だ。


「一緒に食うか?」


「…………」


 なにも言わなくなってしまった。とりあえず、昼休みの時間もあるので弁当を広げる。


「いただきます。」


 今日はおにぎりを作ってきた。具は昆布と高菜だ。高菜の方から食べる。シャキシャキとした食感がとてもおいしい。


 あの女がおそるおそる近づいてくる。


「…ほんとにくれるの?」


「うん。」


「食べる直前で叩き落としたりしない?」


 どんな経験をすればそんな発想が出てくるんだ。俺は昆布のおにぎりを差し出す。


「そんなもったいないことしないよ。はい。」


「ありがとう…」


 俺達は黙っておにぎりを食べる。この女子もおにぎりを気に入ってくれたようだ。さっきから黙々と食べている。それに泣き止んでくれてよかった。


 俺は水筒の蓋の部分を外してコップにしてお茶を注ぐ。


「はい。」


 女子がお茶を受け取って飲む。すぐに飲み干してしまい、俺は二敗目を注ぐ。


 一真からの連絡もなく、結局俺達は屋上でお昼を食べ終えた。


─────────────────────────


「…なあ。」


 ご飯を食べた後、真白を撫でていると女子が話しかけてくる。


「何?」


 目線があちこちに動いて落ち着かない様子だった。


「なんで私にご飯くれたんだ。」


 手持ち無沙汰な感じで聞いてくる。


「まだ食べてないって言ったから。」


「それだけ…?」


 女子が困惑した顔でこっちを見てくる。


「じゃあ、お腹空かせてるお前の前で旨そうにおにぎり食べろってか?俺はそんなことをする程、人でなしじゃないつもりだ。」


 実際、こっちが何か食べてるのに空腹の人が前に居たら誰だってこうするだろう。それにこいつ自身が俺に敵意を向けていないことももうわかっている。


「そっか。」


 少しは納得してくれたらしい。本当にそれ以上の意味は無い。ご飯はみんなで食べた方がおいしい。本当なら一真や愛理と一緒に教室で食べたかったのだが、仕方がない。


「…名前。」


「何?」


「名前!!な、なんていうの?」


 少し声を荒げながら聞いてくる。


「神楽霧刃だ。こっちは神楽真白。そっちの名前は?」


「永井春夏(ナガイ ハルカ)。昨日はごめんね。」


「真白は知らんけど俺は別に気にしてない。」


 真白は目を閉じたままで反応しなかった。許していないというとこだろうか。


「なあ、春夏は明日もここに来るのか?」


「いきなり名前呼び…まあいいけどさ。明日はわからない。お父さんの気分次第。と言いたいところだけど、明日はあの屑の側に居ないといけないからここには来れない。てか、そろそろ戻らないとあいつがウザくなるな。」


 来る日は不定期ということか。


「そうか。じゃあ、俺らもそろそろ戻る。真白起きて。」


 真白の体を揺すって起こす。真白がいないと教室まで帰れない。


(いや、待てよ。)


 結界は込めた魔力の量に応じた大きさと強度の透明な立体を作り出せる。この結界は作り出した場所に固定され、動かすことはできない。


 俺が考え込んでいると春夏が声をかけてくる。


「どうかした?」


 俺は自分の目の前に俺が乗れる大きさの結界を一つ作る。そして、その上に乗ってみる。


「意外と壊れないな。」


 俺は結界の上でジャンプして強度を確認してみる。込める魔力の量はさっきのままでいけそうだ。


「なるほど、それを使ってここまで来たわけか。屋上は強固な鍵がかかってるから、謎が解けたわ。」


 俺は春夏の勘違いをスルーして結界の階段を作る。


「そんな感じ。じゃあ、また明日…?」


「そうだな。あのアホはまたあんたを正義(笑)の名の元で攻撃しに行くだろう。おにぎりは感謝しているが、お前の味方はできないからな。」


 仲間割れしたわけではなかったらしい。おいしい食事のついでに厄介者を一人排除できるかもしれないと思ったが、だめだった。


「そうしないと生きていけないんでしょ。別にいいよ。春夏が自分の意思じゃなくて、ただの同調だったってことが知れだけでも収穫だった。あ、ここのことは秘密にしてほしい。」


「それは言わないから大丈夫。てか、言ったら私も共犯者として叩かれるし。」


 味方にはならなかったが、共犯者という変な関係になった。


「助かる。じゃあ、これからもよろしく。共犯者。」


 そう言うと俺は真白を抱きかかえ、手すりを乗り越えて結界の階段を降りて行った。


─────────────────────────


 見た目だけでなく、中身も変な奴だった。


 普通昨日攻撃された相手と一緒にご飯を食べようなんて考えにはならないだろう。しかも自分の分を減らしてまで、だ。


 最初はあの屑と同じで私の体が目当てだと思った。だがあいつ、霧刃の視線は私の目以外には向かなかった。あいつは私の胸や尻に全く興味を示さなかった。こんなこと初めてだった。


 私の体は8歳という年齢に合わない肉付きをしている。同年代だけでなく、年下からも、年上からも、嫌な目で見られる。


 そして、あの屑に私の体は滅茶苦茶にされた。私は直ぐに警察に駆け込んだが、翌日には全てなかったことにされた。やつの親がこの都市で議員を務めているからだ。金と権力に物を言わせて全ての口を黙らせたのだろう。それどころか私の両親はもらった金に目を眩ませて、私に柊はじめ(ヒイラギ ハジメ)と結婚しろと言ってきた。


 自分をレイプした相手と結婚するなんて考えたくもなかった。どこまで行っても私の周りには屑しかいない。


 でも、親からは逃げる事はできない。私はあの二人の金を得る為の道具なのだろう。


 私のギフトだけが味方だった。別にギフトに意志なんて無いと知っている。だけど、このギフトが発現してくれたことを私は心の底から喜んでいた。このギフトさえあればどんなに辛くても生きていける。


 私はギフトを起動して目の前に黒い穴を作る。その穴に飛び込んでいつもの出口にしている場所を思い浮かべる。私の目の前には階段裏の人目につかない場所の景色が出現する。私は一歩踏み出して黒い空間から出る。


 教室からは「やれやれ、僕は興味ないんだけどなぁあはっはっはっは!!」というキモい声が聞こえてくる。


 何の苦労も知らずに親の力だけで生きている男。仮にこの男と結婚してその後はどうなるのだろうか。その先に私の幸せなんてあるのだろうか、いやない。


(あのおにぎり、おいしかったなぁ…)


 私は自分の体を売り込むために頭を空っぽにして自分の教室に戻っていった。


─────────────────────────


 私は今自宅のリビングで真白と向かい合っている。霧刃はすでに寝た。今日あったことを真白から聞いていた。昨日の出来事もヤバかったが今日のことは別のベクトルでヤバかった。


「それは不味い。これ以上ライバルは、要らない。」


『そう決めつけるのはまだ早い。まだ霧刃はただの知り合いとしか見なしていない。』


 知り合いというが霧刃は味方だと決めたら絶対に見捨てないだろう。私にはそうなるのが時間の問題に思えた。


 だが、もしそうなったとしてもその女を霧刃は仲間だと認めるところまでは行かないだろう。


 つまり、直近の障害にはならないということだ。


「ならまだ、大丈夫か。でも、警戒はいる。」


『わかってる。あいつには同情するけど霧刃は渡さない。』


 私と真白は真剣な顔つきで頷きあった。



読んでいただきありがとうございました。

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