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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
都市の暮らし
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針理の過去

よろしくお願いします。

 帰って来た俺達は2号室のリビングに三人で集まっていた。


「じゃあ、私が知ってること、全部話す。」


 針理はそう切り出して昔のことを話し始めた。


─────────────────────────


 昔はこんな都市は無かった。赤い霧のせいで毎日たくさんの人が死んでいった。このままでは人類が絶滅してしまう。それを回避するために日本でいくつかの極秘プロジェクトが立ち上げられた。私のお父さんはその内の一つの最高責任者だった。


 プロジェクトの名前は「テクノノイド計画」。人の体では赤い霧の発生以降広がった謎の病気には耐えられなかった。このプロジェクトは人の体を機械化することで、そもそも病気にかからないようにしようというコンセプトだった。


 私の番が来るまでに何千、何万という人体実験を繰り返してきたらしい。そして、そのプロジェクトの完成形が私だった。生物と機械の完全な融合。この体を作るまでに科学者たちはどれだけ時間を掛けたのか私には想像もつかなかった。この体には様々な機能が付いていた。どれも生き残るために必要だったものだ。


 だが、そんな中で事件は起きた。


 どこからか研究内容を知った他国の兵士が研究所に攻撃を仕掛けてきたのだ。みんな私を守るために必死に戦った。私のお父さんもその戦いで重傷を負ってしまった。私は生き残った少ない職員と一緒に地下深くのシェルターに逃げ込んだ。外との連絡は繋がらず、日に日に一人、また一人と餓死していった。


「針理はここにいなさい。大丈夫だ。きっといつか君を解き放ってくれる人が現れる。その後は好きに生きなさい。もうテクノノイドを量産することは叶わないだろう。だからどうか、お前だけは自由に生きてくれ。」


 私はお父さんにそう言われた後、私は一人だけ研究所の生命維持タンクに入れられた。他のみんながどうなったのかは想像に難くなかった。


─────────────────────────


「これが、私が知ってる全部。」


「…………」


 俺はその話を聞いた後しばらく言葉が出なかった。あのよくわからない建物でそんな重大な研究が行われていたなんて。


「…針理は俺に付いて来てよかったの?」


「うん。私霧刃に付いてこなかったら、こんなとこ来れなかった。だから、後悔してない。これからも霧刃についてく。私を、いろんなところに、連れて行って。」


 俺には安請け合いはできなかった。だが、これは針理を開放してしまった俺の責任なんだろう。あの時名前を言ってしまったのは俺なんだ。ならその責任を取らなければいけない。


 俺は覚悟を決める。


「わかった。これからも俺に付いて来てくれ。絶対に後悔させない。」


 俺は右手を差し出す。針理と握手するのはこれで二回目だ。


「…霧刃はすごいね。うん。これからもよろしく。」


 針理は俺の手を握り返してくれる。


「真白も俺に付いて来てくれるか?もちろん後悔はさせない。」


 俺は左手を真白に差し出す。真白と握手するのもこれで2回目だ。だが、俺から握手するのはこれが初めてだった。


 真白は俺の目を見てしっかりと頷き、手を取ってくれた。


「じゃあ、私も。真白、これからもよろしく。」


 針理と真白が右手で握手をする。


 なんだかこの三人でいればどこでもやっていけそうな気がする。俺と真白は実際に外で暮らしていたし、そこに針理が加われば安定度も格段に増すだろう。だが、あくまでもこの二人を引っ張っていくのは俺なんだ。二人の人生を俺が大きく左右することになる。


 明日からは学校も始まる。お父さんたちの話のせいで行きたくなくなってきていたが、これは知識を蓄えるチャンスなんだ。俺がもっと賢ければ二人に負担をかけることも減るだろう。


 そんなことを考えているとインターホンが鳴る。


 俺がドアを開けると、そこにはお父さんが立っていた。


「どうしたの?」


「ああ、いや、大したことじゃないんだけどな。今日、お父さんと一緒に寝ないか?」


 お父さんと一緒に寝るなんて今まで考えたことも無かった。今までは一人か真白と二人かのどっちかだった。


「行ってきたら?」


 後ろから針理の声がかかる。


「家族は大切。すぐにお別れすることもある。」


 さっきの針理の話を聞いた後では聞き流すことは出来なかった。


「わかった。今日は向こうで寝るね。朝になったらこっちに戻ってくるよ。おやすみ。」


「うん。おやすみなさい。」


 俺はお父さんと一緒に1号室に入っていった。


─────────────────────────


「これで、二人きり。話したいことが、ある。」


 私は真白と机を挟んでリビングで向かい合う。真白はリンクから電子モニターのメモ帳を広げている。


 真白が文字を打ち込む。


『私も話したいことがあった。』


 私は単刀直入に聞いた。


「真白は、霧刃が好き?」


『世界で一番好き。そんなことを聞いてくるってことはそっちも?』


「うん。ごめんね。今まではそういう目で、見ないようにしてたんだけど。さっきので無理だった。」


 私はさっきの霧刃を思い出す。いつもと違って男の顔をしていた。とてもまだ5才の子供には見えなかった。これまでの経験が彼を変えたのだろう。


 私にはその顔が魅力的に映ってしまった。あの温泉の時は本当にからかっただけだった。だが、一度自覚してしまったらもう誤魔化すことはできない。


『さっきのは私もどきどきした。仕方ない。』


 どうやら真白も同じ感情を抱いていたようだ。


「ねぇ、真白ってさ。もしかして────。」


 私はずっと疑問に思っていたことをぶつける。真白は少し間を開けてから文字を打ち始めた。


『────そう。残ってるのは多分私だけ。』


(やっぱりそうだったんだ。)


 私はすごく納得できた。要するに真白と私はよく似ているのだ。それならば同じ人を好きになってしまったのもなんだかわかる気がした。


『提案がある。』


「なに?」


『私はずっと霧刃の側に居たい。それは針理も同じはず。協力してあげる。』


「具体的には?」


『キリハとの時間をあげる。』


 私は真白が何を言いたいのかすぐに理解する。それは私からすれば願っても無い提案だった。今まで霧刃は24時間ずっと真白と一緒にいた。それを私にも分けてくれるということだ。


「でもいいの?私に、惚れちゃうかもよ?」


『その時はその時。その代わり妨害は無しにして。私は霧刃の一番になる。二番以下はどうでもいい。』


 それは霧刃が私に浮気をしても許すということだろうか。だが、私からすればこれは宣戦布告のようなものだ。


 自分は一番になるから二番以下のやつには情けで時間をやるということだ。


 それのどこが協力だというのか。その自信はすごく憎たらしいが今はその言葉に甘えることにする。絶対に霧刃を振り向かせて見せる。


「わかった。その協力受ける。お互いの妨害は無しね。」


『ありがとう。これからは二人になりたい時は私のリンクにメッセージを送って。こっちも時間空ける。』


 私と真白はさっきとは違う意味を込めて改めて握手をした。




読んでいただきありがとうございました。

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