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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
欠けた者達
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失くしていたもの

(どうしよう。)


 霧刃は悩んでいた。

 彼の目の前には先ほど倒した巨大鳥があった。


(今更気づいたけど、この鳥って白銀鷲だよな。本当に俺達よく生き残れたな。)


 かつて病室で外に出ることを夢見て熟読した電子図鑑を思い出す。


 白銀鷲(しろがねわし)──最大13mの大きさまで成長する白く美しい羽根を持つ鳥。しかし気性は荒く、獲物とみなした動物に鋭い爪で襲い掛かる。最大個体は普通サイズの個体の倍以上の速さで飛行する姿が目撃されてる。大人一人くらいなら余裕で持ち上げる力を持つ。都市防衛部隊には雛から育てた個体を少数だが空中戦力として採用している。


 その綺麗な姿見た途端に俺は一瞬で白銀鷲のことが大好きになった。防衛隊員になり、一緒に戦う光景をよく想像していた。


 現実に起きたのは一緒に戦うのではなく、襲われて死にかける光景だったが。


 俺は白銀鷲の死体の一つに歩いて近づき、裸足の足で腹の部分に触れる。するとみるみる羽毛の中に足が入り込んでいく。


「ぅ…ぉぉ………」


(なんだこの感覚。いつも使っていた布団よりもふわふわだ。気持ちいい…)


 足だけでなく体も全て羽毛にもたれかかる。すごいふわふわだ。


 ずっとこうしていたかったが真白に服を引っ張られる。


(ハッ!そうだ。こんなことしてる暇無いんだった。)


 自分が置かれている状況を思い出し、これからどうすればいいかを考える。


(て、いうかなんで俺外に置いてかれたんだろ?それにおばあちゃんの最後の言葉も…)


 ここに来る直前のことを思い出す。おばあちゃんの声を聞いた後、箱に入れられて外に出され、さらに白銀鷲に捕まってここに来た。

 最初の時点で気を失っていたので最早どこに都市があるのかなんて完全にわからなくなっていた。


(確か都市って昔に異形種から逃れる為に地下に作られたんだよな。)


 自分がいた都市の事を思い出す。


 巨大な地下空間に作られた人間の街。食料生産、エネルギー生産、資源のリサイクルによる無駄の無いものづくり。都市内で全てを完結させ、万が一足りないものがある時は都市防衛部隊と共に中央都市に支援物資を受け取りに行く。


 異形種が攻めてきた時は都市防衛部隊によって撃退もしくは殲滅されるらしい。全て病室の電子モニターで見た、学校に行けない人用の学習用動画が知識の元だ。


 俺も実際に都市を見て回ったことはないので、外との出入り口がどんな形なのかわからない。


(あれ?それってもう俺本当に帰れないんじゃないの?)


 俺のギフトは魂喰、ましろのはさっきの戦闘で使った俺の体を操るやつ。


 どう考えても都市を見つけられる気がしなかった。


(ならここで暮らすのか?またいつ巨大な動物や異形種に襲われるかもわからないのに?無理無理無理無理。)


 頭を抱えたくなり下を向く。するとこちらを見上げて心配そうな顔をしている真白がいた。


(…違う。無理じゃない。もうやるしかないんだ。)


 友達にあんな顔させるなんて絶対にダメだ。


(俺がましろを引っ張っていかないと。)


 頭を一生懸命使い、今の俺達に必要なものが何かを考える。


 まずは食べ物と水。これが無いと襲われるとか以前に空腹で死んでしまう。


 次に住む場所だ。どこか襲われない安全な場所を見つけないと。


 この二つをなんとかするために必要なものは。


(やっぱり、両腕がいる。)


 食料の方は果物とかを探せばまだなんとかなる気がする。

 

 だが、住む場所を整えるにはどうしても両腕が必要だ。そうでないとそっちは全て真白頼りになってしまう。


 それで解決できるならまだいいがましろはとても小さく、できることも限られているように思える。


 あの時、咄嗟に足と声と言ってしまったが、足が無ければ立つことすらできなかったので後悔はしていない。


 だが、ずっと使っていなかった足をいきなり動かせたのが筋肉マッサージのおかげだとすると、腕を使えるようにするのもかなり急ぐ必要がある。

 もうマッサージは受けられない。最悪の場合、腕が使えるようになってもそれが遅すぎれば、動かせないかもしれない。


 せっかくギフトを使うチャンスが来たのだ。絶対に両腕も使えるようになりたい。


 両腕を使えるようにするにはどうすればいいかはもうわかっている。魂を食べることだ。


(魂を…っっ!?)


 突如背中が氷付くような感覚がし、体が震えたかと思うと胃の中のものを吐き出してしまう。


「おぉぉぉ…ぇ…おえぇぇ……ぁぁぁ。はぁ、はぁ、おぇぇぇ。」


 真白が心配そうにすり寄ってくる。


「だ、だ、い、しょぉ、お、ふ。」


 そう言って無理に笑って真白に話しかける。


 (こんなことをしている時間はない…ああそうだ。意思はともかく俺の手で殺したんだ。でも、これから生きていくためには避けられないことだ。もうあの生活には戻れないんだ。)


 改めて外で生きる事に対し覚悟を決める。


 真白に向き直って話しかける。


「さぁ、いの、こと、ま、た、でぇ、き、ぅぅ?」


 そう言って白銀鷲に攻撃するふりをする。


 すると、少し考えた顔をした後に真白はこっちを指さす。


 (俺?一体俺の何を指さしてるんだ?)


 真白に近づくと首の付け根あたりを指さしていた。


(俺の首筋になにかがあるのか?)


 真白が触れれるようにしゃがんでみる。そして、自分を指さして再度首筋に指をさした。


(…だめだ。首筋をどうしたいんだ?今回はなにが言いたいのかよくわからんな。とりあえず頷いとくか。)


 俺が頷くと真白は口を少し変形させ蛇のような牙を出してきた。


「ぇ?」


 そしてそのまま俺の首筋に嚙みついてきた。


「いぃぃ……ぃ?」


 思ったほど痛くはなかった。白銀鷲に散々痛めつけられたせいで、感覚がおかしくなったのだろうか?


 真白の頭がすぐ横にある。両腕を俺の体に回しジッとしている。支えてあげたいが、腕が動かないので我慢するしかない。


────────────────────────


 それから数十秒後


 真白はゆっくりと牙を引き抜き俺の体から離れた。


 真白の口が元に戻り、口元を血が滴っている。それを右手で拭って手に付いた血も舐めている。


 その様子を見ていると不意に体の力が抜けそうになる。


「ぁ…れぇ…?」


 倒れそうになるのをなんとか耐える。この感覚は覚えがあった。6ヶ月に一度の血液検査の時のあの感覚とよく似ていた。


(そうか、さっきのは俺の血を飲んでいたのか。え?真白のごはんって血なの?肉とかは食べないの?)


 真白の様子を見ると、そこにはさっきよりも元気に動く真白が居た。明らかにさっきまでより生き生きとしていた。


「い、え、そぉ、う?」


 真白が笑顔でコクリと頷いた。そんな自信満々の顔をされると俺もやる気に満ちてくる。


「たぁ、のぉ、む!!」


 そう言うと真白は一番大きい白銀鷲の死体に触れる。すると一瞬で死体が消えた。


「……ぇ?」


 驚いている俺に構わず、すぐにこちらに触れてくる。


 すると先ほどの戦闘時と同じく体が勝手に動き始める。不思議な感じだ。足は動いている感覚がちゃんとあるが、腕は全く感覚が無いので違和感しかない。


 今回は倒す相手が目の前にいないが真白はどうするのだろうか?


 そんなことを考えていると背中から急に翼が生えて空に向かって飛び立つ。


「………ぇ?」


 再び驚きで言葉を失う。


(なに!?何が起きてるの!?お、俺飛んでる!?俺の、体が、飛んでる!?なんでぇぇぇ!?っていうか早あああい!!)


 白銀鷲に捕まっていた時より遅いが、それでも飛んでいること自体が衝撃的過ぎてまだ驚いている。


 (だ、だめだ。冷静にならないと。ちゃんと倒せそうな敵を探さないと。)


 頭の中が混乱しながらもなんとか、索敵を始める。


 そうすると左前方に何かの動物のようなものを2匹発見する。


(今のはもしかして一角うさぎか?あそこに行きたい。ど、どうすれば真白に伝えられるんだ?)


 どうすればいいか考えてると何か肯定のような意思が伝わって来て左に旋回し始める。


(すごい。考えたことが直接真白に伝わるのか。この状況下なら意思疎通は完璧だな。)


 そんなことを考えていると獲物を見定め、俺がやられたような急降下攻撃を始める。

 素早く獲物との距離を詰め攻撃を仕掛ける。


 (よし。殺すぞ。俺が殺すんだ。俺が…ひっ!?は、早い、怖い!ぶつかる!!)


 怖いが真白に体の自由を奪われてるため、目を閉じることはできない。


 黒い足が6本とも鋭くなり広がっていく。そして2匹の獲物が真下に来たタイミングで足を突き刺し、串刺しにする。そしてその瞬間、ビビりながらもなんとか魂喰を使い、黒い霧が魂を喰らって戻ってくる。


(はあ、はあ、怖かった…はあ、はあ、俺の姿、なんか…すごいことになってない?)


 髪の毛はところどころ白髪が入っているのがわかる。体には黒色の部分が所々ある。腕は俺の腕と真白の腕の4本ある。骨盤周りから6本の黒い真白の脚が生えている。現在は左右の3本が1匹づつ獲物を串刺しにしている。俺の両足は普通に付いている。そして背中には白銀鷲のような真っ白な翼が生えている。


 そしてその状態でとりあえず、さっきまでいた白銀鷲の巣に戻ってもらう。


(すごい。やっぱり真白は強い。俺は獲物を見つける事しかできなかった。)


 何もできなかったことを悔いる。


(もっと、もっと強くならないと。真白と一緒に戦えるくらい。)


 さっきと違い、心は酷く消耗していたが、胃の中のものを吐きはしなかった。


 そして、俺は更に強くなることを決意した。


────────────────────────


 巣に降り立つと体から黒い塵が落ち始め、元の体に戻る。


「ぉぉ…ぉ?」


 いきなり体の主導権が戻って来たので、バランスが取れず倒れてしまう。


 (戻って来れたんだな。)


 ここが安全という訳ではないが、知っている場所に戻って来たことに何故か安心した。


 そして魂喰を発動して食った魂を取り出す。黒い霧に絡めとられた白いボールのようなものが二つ出てくる。さっきの動物の魂だ。


(あの時魂喰が渡してきたのは魂だったのか。)


 そのまま両腕に魂が取り込まれていく。


 両腕の感覚があるのを感じる。


 右手からは木の枝に触っている感覚がある。左腕からは風を受けている感覚がある。


 右手に目を落とす。そして手を握ってみる。すると指同士が動き、手が何かを握りしめるような形になる。


(ああ、俺本当に全部、手に入れたんだな。)


 足が動いたときと同じように感動で涙が溢れる。


 ずっとベッドの上だった。ギフトについて質問されたことがあったが俺は上手く伝えることができなかった。それに食べた魂で体の感覚が回復することもついさっき知ったのだ。あの病室では変わらない毎日を送るしかなかった。


 俺一人では絶対に魂喰を発動することはできなかっただろう。魂喰を発動させるには俺が他の生き物を直接殺す必要がある。四肢が動かない俺には未来永劫使う機会は無いと思ってきた。


 全ては俺の体を使って戦闘をする真白のおかげだ。彼女のギフトが何かはまだわからないが俺との相性が抜群なことだけはわかっている。


 真白に会えたのは本当に運が良かった。おばあちゃん以上に人生で最高の出会いだった。


 泣いている俺に真白が心配そうに服を引っ張ってくる。


「だ、い、しょう、ふ。」


 俺は一生懸命笑顔を作り真白を心配させないようにする。だが、体が自由に動くこと、声が出せることが嬉しくて涙が止まらなかった。


 そして使えるようになった右腕を頑張って持ち上げ真白の頭の上に右手を乗せる。


 すると真白が嬉しそうな顔をする。


 俺は感謝の言葉を掛ける。


「あ、い、が、とおぉ!こぉ、れ、か、ぁ、がん、あ、ろぅう、え!!」


 こうして俺はこの1日で5年間ずっと失くしていたものを手に入れたのだった。

 





 

読んでいただきありがとうございました。

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