戦闘準備
よろしくお願いします。
俺は今日は早朝から真白と融合し、訓練室で刀を振っていた。仮想戦闘で相手にしているのはサギルだ。正面から何体も出現する敵を片っ端から切り飛ばしていく。後ろからは針理が訓練室の端からサギルを狙撃していく。
あの話をされた日から6日が経った。期限まであと2日だ。俺達は襲う相手をサギルに決めた。探すのに大分時間が掛かってしまったが、乗鞍岳の周辺にまだできたばかりな感じの小さいサギルの街を見つけたのだ。
遠くで見た感じだがまだ50匹くらいしか居なかった。これぐらいならなんとか勝てる筈だ。
「あらかじめ設定された55体を討伐しました。次の設定をしてください。」
リンクから音声が流れる。時間を見るともう6時になっていた。俺は自分のリンクに指示を出す。
「仮想戦闘を終了してくれ。」
「了解しました。」
俺は床に座り、一息つく。仮想戦闘なので体は疲れてないが頭に疲労感が溜まっている。ずっと集中していたせいだろう。
「お疲れ様。いよいよだね。」
「ああ…とりあえず、お風呂に入って一回リラックスしようか。」
立ち上がると融合が解除されて真白が背中側に掴まる。俺達は訓練室を出てお風呂場に向かう。
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今日は8月20日。透蜜達から出された街落としを実行する日だった。あれから念入りに調査をした。作戦も俺の足りない頭で必死に案を出して三人で考えた。なんとか俺達の実力でも勝てる筈だ。
温泉に入って心を落ち着けてる筈なのに心臓がドクドクいっている。なんとなく嫌な感じだ。そうしていると針理が横に並んでくる。
「霧刃、緊張してる?」
図星だった。そんなに顔に出ていただろうか。
「少し。でも、もう大丈夫。今日は絶対に勝つ。ぶっちゃけ、針理の火力をかなり当てにしてるから。よろしくね。」
「任せて。」
針理が少し笑う。表情が乏しいように感じるが一緒に居れば普通に感情豊かで、それでいて優しい。俺は今までずっと聞きたいと思っていたことを聞く。
「針理はなんでそんなに俺に協力してくれるの?」
針理が空を見上げる。日が出たばかりで朝日がとてもまぶしい。空が赤くなっており、澄んだ風が僅かに肌を撫でる。とても気持ちが良く、平和な時間だ。人類が都市を守るために必死に戦ってることなど忘れてしまいそうだ。針理がぽつりぽつりと話だす。
「私は、人類の希望だった。でも、今はただの一人の人として、生きてる。だから霧刃との出会いを、大切にしたい。私をこの世界に、解き放ってくれたから。私も、霧刃と一緒に生きたい。それに霧刃は優しいから。一緒に居て安心する。将来が楽しみ。」
そう言って俺の頭を撫でてくる。なんだか不思議な気分だ。いつも真白の頭をよく撫でているがこんな気分なんだろうか。変な感じだが、心地いい。
「将来ってどうゆうこと?」
針理が濡れた人差し指を口元に持っていく。朝日を背中に受けて黒い髪が輝いている。なんだか今までに無いような妙な艶めかしい感じがする。
「…秘密。」
その言葉に俺の心臓は再びドキッとする。だが、さっきのとは違い嫌な気分ではない。今まで感じたことが無い気持ちだ。
俺が針理に見とれているとほっぺを引っ張られる。
「いたたた。何真白?」
真白はすごく怒っている顔をしていた。そんなに怒らせるようなことをしただろうか。
「ごめん真白。ちょっと、からかっただけ。」
針理が真白にそう言ってる。よく意味は分からないが真白の怒りは収まったようだ。一体なんだったのか。
(それにしても、さっきの針理綺麗だったな。)
俺はお風呂を上がり食堂に着くまでの間ずっと針理の顔が頭の中を漂っていた。
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食堂に着いた俺達は先に来ている二人に挨拶する。
「二人ともおはよう。」
「おはようございます。」
透蜜が椅子に座りながらこちらを見る。綾女はキッチンからひょこっと顔を見せる。そういえば今日の食事当番は綾女だった。
「おはようございます。」
「三人共おはよう。もうすぐできるわよ。」
俺達は席に着いて料理ができるまで待つ。透蜜が電子モニターをしまって話しかけてくる。
「…霧刃、なんだか顔が赤くないですか?」
「え!?さっきお風呂に入ったからかな…」
なんか透蜜が俺達三人の顔を順番に見ていく。
「ふーん…そうゆうことですか。青春ですね~。霧刃にはちょっと早すぎるかもしれませんが。」
(だから一体何の話なんだ…)
困惑している俺を無視して透蜜が話を進める。
「まあそれはそれとして、いよいよ今日ですね。私はついて行くだけで助力は一切しませんから、頑張ってくださいね。」
「移動はクイちゃんに乗せてもらえるんだから、それだけで十分だよ。」
乗鞍岳までの移動はクイちゃんがやってくれる。どうやら戦闘の実力を記録したいらしく、移動に関しては綾女から許しが出たのだ。頼んだ時は「戦闘には貸さないわよ」と念押しされた。
「霧刃来てー。」
キッチンの方から綾女に呼ばれる。料理ができたのだろう。
「わかった。」
席を立ち、いつも通り料理を綾女と二人で運んでいく。今日の主食はイワナの塩焼きだった。全ての料理を運び終わって綾女がエプロンを脱ぐ。
「今日もありがとう。さあ、席に着きましょ。」
「うん。」
俺達は席に着いて手を合わせる。
「「「「いただきます。」」」」
お風呂に入ったおかげか今朝よりは緊張が和らいでいた。いつもの雰囲気で朝食が進む。
「今日のご飯もおいしいわね。イワナも大きくて食べ応えがあるし最高ね。」
「毎日しっかり管理していますからね。今年も大きく育ってくれてよかったです。」
「これ、養殖エリアのやつなんだ。川にいたやつと比べてもおいしいよ。」
真白が頷く。
「そう言ってもらえると嬉しいです。ね、綾女。」
「そうね。最高の褒め言葉だわ。ありがとう。」
「養殖エリアって、なに?」
「針理はまだ行ったことなかったわわね。その内連れて行ってあげるわ。水族館みたいで楽しいわよ。」
「水族館…楽しみにしておく。」
そんな他愛もない話をしながら、俺は米の一粒まで綺麗に食べきった。
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朝食を食べた俺は自分の部屋に戻って来た。二人にもそれぞれ自分の部屋に戻って準備をしてもらっている。
戦闘服を着てベルトを締める。まずはエスカを手に取り、刃こぼれなどがないか念入りにチェックする。異常が無いことを確認し、ベルトに付いている鞘に納める。カイナにも同じように確認をして鞘に納める。次にアリアに魔力を通す。銃身部分が赤く光る。ちゃんと魔力が通っている証拠だ。
(異常なし、と。)
俺はアリアをベルトに付いているホルスターに収める。最後にあのレガシィの刀だ。鞘から抜き放ち、刀身を確認する。赤い刃に背の部分は若干黒くなっている。相変わらず刃こぼれ一つない綺麗な刀だ。こいつには随分と助けられてきた。今日ももしかしたら頼ることになるだろう。
「今日まで本当に助かった。これからも頼む。」
小さくそう言って刀を鞘にしまう。パチンといういい音を立て刀が鞘に収まる。最後に魔力回復薬が入った金属製の試験管のようなものを胸元のポケットにしまう。これを飲めば一瞬で魔力が一定量回復する優れモノだ。これは昨日透蜜がくれたものだ。
「ただの贈り物ですよ。贈り物なのでいつ使うかも霧刃にお任せします。」
そう言ってはいたが今回の戦いに対する透蜜なりの優しさだろう。あの二人は本当に優しい。戦闘には手を貸さないと言ったが、戦闘準備から移動まで二人に頼り切りだ。二人だけじゃない。真白と針理もだ。真白には外に出た日からずっと頼りっぱなしだ。針理もまだ出会って日が浅いのに今回の危険な戦闘に参加してくれた。みんなに感謝してもしきれない。俺一人では到底ここまで来れなかった。だが、まだ止まるわけにはいかない。
家族にもう一度会うために。そして、みんなとこれからも一緒にいる為に。
(中央都市の人達に俺達の力を認めてもらう。)
俺は決意を固めて自分の部屋を後にした。
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俺達は装備を整えてゲートA-3に集合する。最後に超大型の銃を二つロボットが持ってくる。横にいる針理が俺に聞いてくる。
「本当に、ガスパレードとデスペラードだけでいい?」
これは何回も針理に聞かれたことだ。
「問題ない。あの二つは俺と真白も直に威力を見てるし、狙撃との連携も十分練習した。それじゃあ作戦の最終確認をするぞ。」
俺はリンクから用意しておいた電子モニターを出す。針理も前に戦闘用ゴーグルと一緒に透蜜からもらっていた。操作についてももう慣れたようだ。
「サギル達がいるのは乗鞍岳バスターミナル跡。周りを山が囲んでいて要塞みたいになっている。でも。サギル達の数がまだ少ないから見張りに関しては常駐していない。今回は巡回の合間の時間を狙って攻撃を仕掛ける。最初に針理はデスペラードによる狙撃でギフト持ちのサギルを狙撃。その後、あらかじめ起動準備をしておいたガスパレードで敵を一掃。残っている敵を真白と融合した俺が全て倒す。針理はデスペラードを持って移動して、魔力が回復させてもう一度狙撃で援護してくれ。東側にはテクノの要塞があるから一応頭に入れておくこと。」
「了解。」
真白も頷く。
「それじゃあ、移動開始。」
俺達5人はクイちゃんに乗り込んで目標地点に向けて出発した。
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