昔の事
よろしくお願いします。
「透蜜ただいま。」
俺は格納庫の中で待っている透蜜に手を振る。向こうも振りかえしてくれた。
「おかえりなさい。たった2時間でよくもまあそんなにボロボロになりましたね。後でお風呂に入ってちゃんと休んでくださいね。」
俺はクイちゃんから足を伝ってゆっくり降りる。乗るときは跳躍を使えばいいが、降りる時はこうするしかない。もしくは真白に降ろしてもらうかだ。全員が降りるとクイちゃんが羽ばたき始める。
「ありがとう。行っていいわよ。」
綾女の言葉を聞いてどこかに飛び去って行った。一体どこに住んでいるのだろうか。横を見ると透蜜と針理が挨拶をしている。
「初めまして。宝院透蜜といいます。よろしくお願いしますね。」
「初めまして。針理です。よろしくお願いします。」
格納庫のゲートが閉じられる。
「じゃあ、客間に行きましょうか。」
透蜜に促されて俺達は移動を始めた。
──────────────────────────
廊下を歩きながら俺は針理に助けてもらったお礼を言う。
「最後のテクノとの戦い本当にありがとう。針理が来くれなかったら確実に死んでた。何か俺にできることがあったら言ってくれ。力になるよ。」
針理に軽く頭を下げる。それを見て針理が僅かに微笑む。
「二人だから逃げきれた。私も置いて行ってごめん。あまりに無警戒だった。」
「それは俺も針理を行かせたんだから同罪だよ。針理は悪くない。」
そう言うと少し困った顔をされる。
「そういうことにしとく。これからもよろしくね。霧刃は私のバディだから。」
「わかった。これからもよろしく。」
俺は足を止め、針理と向き合って改めて握手をした。
──────────────────────────
通路を進んで行き、俺達は客間に着いた。各々が自由に座り、透蜜がお茶の準備をし始める。
「ここ、すごい大きい。研究所より大きいかも。」
ソファにかけたタイミングで針理が話しかけてきた。客間を見渡している。
「俺も最初に来た時に驚いたよ。今は何とか迷わないようになったけどね。」
「何言ってるの。霧刃が今までで行った部屋って、全体の半分くらいよ?」
「え?」
信じられない言葉が綾女から聞こえてきた。あれだけたくさんの部屋の位置をやっと覚えたと思ったのに、まだ半分だったとは。まだまだこの場所のことを把握できてはいないということだ。
そんなことを考えていると、透蜜が両手でティーカップが載ったお盆を持ってくる。背中の腕でお菓子や小皿などを持っている。キッチンからこちらに歩いて来て器用に全ての腕を使い、テーブルにお茶とお菓子を並べていく。
最後に透蜜が自分の分を用意して席に着く。真白も俺の背中から降りて横に来ている。お茶を飲んで一息つく。誰のかはわからないが息をゆっくり吐く音が聞こえる。やっぱり透蜜が淹れるものはおいしい。疲れた体に染みわたる感じがする。針理もゆっくり飲んでいる。
そして、綾女がティーカップを置いて針理に向き直る。
「それじゃあ、あなたの事を聞かせてもらおうかしら。針理は人間なの?」
針理もティーカップを置いて質問に答える。
「私は元人間、です。今は脳の部分だけ人間。体は機械です。体はナノマシンが勝手に直してくれます。脳が無事なら私は死なないです。」
綾女が口元に手を持ってきて何か考えるようなしぐさをする。
「ふーん…なるほどね。なんとなく、話が見えてきたわ。次の質問ね。針理のギフトはどんなもの?元人間ってことは持ってるのよね?」
「持ってます。けど、言いたくない…教えるとしても霧刃だけがいいです。」
「仕方ないわね。霧刃、聞いておいて危険がないか教えてくれる?」
綾女が俺に聞けと言ってくる。確かに周りに危害を及ぼしたり、暴走するようなギフトだとヤバいので、できれば知っておいた方が良いだろう。俺は針理に耳を近づける。針理も顔を近づけて、手で口元を隠す。少しくすぐったいが我慢だ。
「時之番人(トキノバンニン)っていうギフト。今は一日に一度だけ時間を止めれる。」
「凄すぎ…」
思わず口を突いて出てしまった。そんなに強いギフトだったとは思っていなかった。俺は感想と一緒に綾女にぼかして教える。
「めっちゃ強そうなギフト。暴走とかはなさそう。」
「そう。まあ、その内見る機会もあるでしょうし、いいわ。私からの最後の質問よ。あなたの仲間はいないの?」
針理が下を向く。表情が暗いように見える。
「みんな死にました。さっき施設も私が爆破しました。残ってるのは私と装備だけです。」
「…大体わかったわ。いいわよ。霧刃の事よろしく頼むわね。」
綾女からの許しが出た。これで針理も一緒に暮らせるということだろう。追い出されなくて本当によかった。
心理が少し頭を下げる。
「はい。これからお世話になります。」
──────────────────────────
その後は針理の体と装備を調べる為に研究室に移動した。コンテナの中にあった装備は多種多様だった。剣もあればテクノの戦闘型みたいな鎧もあった。最後の銃身が異様に長い銃や、あのガスパレードとかいう超大型銃もあった。銃が得意武器だと思っていたので剣とかがあったのは意外だった。
最初に体を透蜜が調べていく。
「じゃあ、服を脱いであそこの台に寝てください。」
いろんな機械が付いた台を指さす。
「わかりました。」
そう言って針理が服を脱ぎ始める。服の胸元の部分に触れると、ぴったり肌にくっついていた服がぶかぶかになる。服が脱げ落ちて、パンツだけになる。
そして、その胸元に俺は視線を奪われる。そこには何か壊れた歯車のようなものが埋め込まれていた。
「針理、その胸元の部分、もしかして壊れてる?」
俺は気になったので聞いてみた。針理が胸元に手を当てながら教えてくれる。
「これは時計。今は殆ど動かない。これを完成させるのが私の夢の一つ。」
少し悲しい表情をしている。夢の話をしているのになんでそんなに悲しそうなのか。俺は何とか元気付けようとする。
「なら、俺も手伝うよ。一緒に頑張って完成させよう。」
「ありがとう。」
少しだけ表情が明るくなった。針理はそのまま台の上に寝そべる。
「それじゃあ、始めますね。楽にしていてください。なるべく早く終わらせますね。」
周りの機械が形を変えて、台を包む輪っかのような形になる。そのまま光が出て頭から足までスキャンしていく。俺は透蜜と一緒に研究室に備え付けられた電子モニターを見る。
「何かわかった?」
透蜜の手が電子キーボードの上を忙しく動いている。
「そうですね…体の造りはほぼ機械ですね。テクノの魔力融合炉より高出力のものが左胸にあります。ナノマシンが血液のように循環して体をいつでも修復できるようになっています。すごい技術です。今の人類の技術でも作れない代物ですよ。特に脊髄と脳の接続部分がすごいです。神経が綺麗に機械の体に接続されています。血液も無くて、何か別の液体が脳を通っていますね。これは確かに不死身に近いですね。」
透蜜が笑顔で解析を進めていく。ちょっと怖い感じがする。
「絶対に殺さないでよ。」
「大丈夫です。ちゃんと解体はしませんから。」
その後いくつかの機械を使い、針理の解析をしていった。30分くらいで全ての行程が終わった。
「これで終わりです。協力してくれてありがとうございました。このデータはここ以外に流失させないことを約束します。」
針理は服を着て透蜜の方を見る。
「お願いします。この体は研究所の機密情報の塊です。絶対外に漏らさないでください。」
「わかりました。外部に盗まれそうな時はデータを全て消去しますね。」
針理の体ってそんなにすごいのだろうか。確かに力がすごい強いし。銃を使った時の火力も凄かった。俺にはよくわからないが高度な技術で作れれているのだろう。それだけは一応頭に入れておくことにした。
やることが全て終わったようなので俺は真白を持ち上げて立ち上がる。
「終わったならお風呂行って来ていい?」
「いいですよ。私は針理の装備の解析があるのでここに残りますね。」
透蜜はまだやることがあるらしい。俺は真白を背負って、針理の手を取る。
「針理も行こ。ここのお風呂すごい気持ちいいよ。」
針理が手を握り返してくれる。
「わかった。」
透蜜がコンテナから服を取り出し、俺達はお風呂に向かって走り出した。
──────────────────────────
「気持ちいい…こんなの初めて…」
針理は湯舟に浸かりながらそんなことをぼやく。相当気に入ってくれたようだ。俺もこの温泉が大好きなのでよかった。
ちなみにここにはサウナという施設もある。中に入るとクソ暑かった。俺は息ができずに10秒も中に居れなかった。綾女と透蜜は10分以上中に入っていた。あれが大人の余裕というやつだろうか。その後何故か水風呂に飛び込んで「きゃああああっ!冷たい!!」とか言ってた。ならなんで入ったと言いたかったがなんとなくやめておいた。その後二人は風に当たりながら気持ちよさそうに横になっていた。俺にはまだ理解できない世界のようだった。
「ねえ、霧刃って今何歳?」
空を見上げていた針理が唐突に聞いてくる。
「5歳だよ。針理は何歳?」
「私は15。霧刃はまだ子供。なんでそんなに強い?」
針理が真剣な顔をして聞いてくる。俺が強いのはお母さんの成長のおかげなのだが話すべきか迷う。綾女から「二人とも人に自分のギフトをペラペラ喋っちゃだめよ。特に霧刃。」と、前に言われたからだ。
だが、針理は俺に自分のギフトを教えてくれた。俺を信頼してくれているということだろう。俺も針理のことは信じている。まだ知り合って間もないが、俺達は背中を預けた仲だ。
俺も針理の信頼に応えたい。
「俺のギフトのせい。」
「教えてもらっても、いい?」
俺は真白を抱っこしながら答える。危ないので真白の髪は束ねてある。
「俺のギフトは魂喰っていう。俺が殺した相手の魂を喰って自分の力に変えるんだ。俺がテクノの戦闘型と何とか戦えたのは成長っていうギフトを手に入れてたから。」
「すごいギフト…そんなの聞いたことも無い。」
針理がとんでもないものでも見るような目を向けてくる。俺は苦笑いをする。
「そんな便利な力じゃないよ。これのせいで最初はベッドの上から動けなかったし、喋れもしなかった。真白が居てくれたから俺は今ここにいる。」
こっちを見上げてくる真白の頭を撫でる。真白には本当に感謝してもしきれない。
「そうだったんだ…私も昔はそうだったの。体が弱くて動けなかった。お父さんのおかげでこの体になれた。もういないけどね。」
(お父さん、か。)
俺は自分のお父さんの顔を思い出す。元気にしているだろうか。おばあちゃんはどうしているのだろうか。会ったことはないが姉もどうしているのだろうか。少し、会いたい気もする。だが、みんなとの生活もとても楽しい。前と違って強くなること以外にやりたいこともたくさんできた。
「そろそろ出ようか。」
俺はこの生活に満足している。もう父さんたちには会えないだろう。俺は高山都市の事は思い出さないようにしようと心に決めた。
読んでいただきありがとうございました。




