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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
欠けた者達
3/66

友達

よろしくお願いします。

 目を開けると目の前に巨大鳥の顔があった。


 そのことについ驚いてしまい。


「……ぅ…ぉ!?」


 という声が出た。


(そうだ、俺もう喋れるんだった。)


 そうはいってもこれまでの5年間一切話してこなかったのだ。しばらくの間は喋る練習がいるだろう。


「……ぁ……ぁあぁぁあー」


 うまく声が安定しない。声自体は何とか出ているようなのでやはり徐々に慣らしていくしかないようだ。


 次に足を動かしてみる。


「…?ぉお…?」

 

 足は声に比べたら全然動くみたいだ。毎日機械で筋肉マッサージというのをしてもらっていたおかげだろうか?


 なんだか行けそうな気がしたので立ち上がろうとしてみた。そして失敗して見事にその場で転んでしまった。

 下は鳥の巣のおかげでそこまで硬くはないが代わりにさっきの戦闘で受けた背中の傷にだいぶ響いた。


「……ぃっぁぁ…ぁ」


(魂喰が居たとこでは走り回れたのになんで?)


 そう思い体を確認してみる。すると箱に入って居た時からつけていた機械が目についた。どうやら既に壊れているようだった。

 痛いのを我慢して体を捻ってなんとか機械を外す。そして立ち上がってみると、さっきより長く立っていれた。


(これはいける!)


 そう思い何度も練習しているとだんだんと安定して立てるようになっていった。


────────────────────────


────数十分後


(よ、よしなんとか歩けるようにはなった)


 そこには千鳥足で危なっかしいが、しっかりと歩いている霧刃がいた。

 ぜいぜいと息を切らせながら楽しそうに歩いていた。


 しばらくすると動き疲れてその場に仰向けに寝転んでいた。


「はぁ…はぁ…ぁは…ぁあ」


 息が切れる音がするだけで喋れているということを実感して、つい嬉しくなってしまう。


「はは……ぁ……………」


 ふと横に顔を動かすとそいつと目が合った。そいつというのはもちろん赤い目をした”奴”である。


「………………」


「………………」


 お互いに物音一つ立てない無音の時間が流れる。実際には風で葉っぱが揺れる音や小鳥の鳴き声など自然音はしていたのだが、二人には聞こえていなかった。


(気まずい…というか今までの見られてたかと思うとちょっと恥ずかしくなってきた。)


 さっきまでの自分は相当はしゃいでいた自覚はある。だが嬉しいのだからしょうがないだろうと心の中で密かに言い訳する。


(なんとか友達になりたいのだが…このままじゃ埒が明かん。)


 そう思った俺はその場に座り恥ずかしさを抑えて、何とか意思疎通を図ろうと、手に入れたばかりの声を発する。


「…ぉんぃちあ……」


「……………!」


 反応があった。


(とりあえず初対面だから挨拶から入ってみたが…大丈夫だよな?)


 おばあちゃん以外の人間と碌に接してこなかったことがここにきて響いていた。


 そう。霧刃は他人とどうすれば仲良くなれるのか、わからないのだ。というか、そもそも喋れるようになったのがついさっきなので、他人とコミュニケーションを取ること自体難易度が高かったのだ。


(おばあちゃんは最初から優しかったしな。)


 などと思い出に浸っていると奴が両腕を使って少しずつこちらににじり寄ってきた。


 こうして改めて見てみると本当に小さい。霧刃の半分程度の身長しかないようだ。赤い瞳に髪の毛は透き通るような白色をしており、左手は普通の人間と同じに見える。

 しかし右手は指の先から肩の付け根まで真っ黒だ。おまけに指は3本しかない。だが、3本とも太く、それでいて鋭いがっしりした指をしている。


 胸のあたりを見ると僅かに膨らんでるようにも見える。髪も長いしもしかしたら女の子なのかもしれない。だが、もしそうだとしても下半身が無いので性別を確かめることはできない。


 あばら骨の下のあたりには鋭い足のようなものが折りたたまれているように見える。いや、3対6本もあるので、足というより脚の方が正しいかもしれない。脚は下の方になるにつれ黒色の部分が多くなっていく一番下の脚は真っ黒だ。


 そして脚のさらに下に背骨なのかしっぽなのかよくわからない黒く尖ったものが突き出ている。


 少しずつ近寄って来たそいつは座っている俺の目の前で止まった。そして最初に出会った時のようにじっとこちらを見ている。とりあえずあの巨大鳥のように襲ってはこないようだ。


(えっと次は…そうだ!名前だ。名前を聞かないと。)


「あ、あまえ…な、ま、ぇ、は、なん、で、ふ、か?」


 霧刃はさっきの「こんにちは」に比べれば、だいぶ流ちょうに言えた自信があった。


「……………?」


 しかし、相手にはうまく伝わらなかったようだ。首をかしげて困ったような顔をしている。


(ちゃんと言葉はわかるよな?さっきの挨拶には反応あったし。もう一度。)


「なぁまーえぇは、なあぁんーでーふぅーか?」


(どう?さっきよりゆっくりでわかりやすかったと思うけど!)


 自信満々の顔で返事を待つ。その結果は。


「………………」


 ゆらゆらと頭を左右に振っただけであった。


「………………」


 霧刃の顔が何とも言えない表情になる。少し悲しくなりかけたそのとき。


(いや、いやいや、待て待て待て。そういえばこいつは喋れないんだ。なら今の返事はまさか。)


 もう一度よく考えて質問をする。


「なぁまーえぇは、なあい?」


「……………!」


 コクリとその首を縦に振る。


(やったー!伝わったぞ!初めておばあちゃん意外とお話しできたぞ!)


嬉し過ぎてまた自分の世界に入り込みそうになるのをなんとか我慢する。


(…ん?ちょっと待て。ということは、俺はこいつをなんて呼べばいいんだ?)


 再び問題に直面する。


 名前が無いと「おい」とか「お前」とかになってしまう。友達になりたい相手にそんな呼び方はしたくなかった。


(なら…これは賭けだ。失敗すればもう仲良くなれないかもしれない。でも、俺は友達は名前で呼びたい!)


 それは霧刃の決して叶うはずがない夢だった。学校に行き友達を作り、一緒に遊ぶ。病室から一歩も出ることもできず、おばあちゃん以外誰も来てくれないベッドの上にずっといるだけの日々。


 これはそんな霧刃に巡って来た友達を作る唯一無二のチャンスなのだ。


 その夢の前には下半身が無いとか、肌じゃなくて明らかに甲殻のように固い部分があるとか、髪が白いとか、目が赤いなんてことは問題にすらならなかった。


「なぁまーえぇ、きーめぇてー、いぃい?」


 緊張して頬に汗が流れる。返事はどうか。受け入れてくれるか。


「………………」


「………………」


 再び無言の時間が流れる。その間二人がお互いの目から視線を外すことはなかった。


 しばらくするとその赤い目を自分の右手に向け、その後こっちに再び視線を戻す。そして右手をこちらに突き出す。


(…なんだこれは。どうすればいいんだ?触れればいいのか?)


 腕を動かすことはできないので頭を突き出された右腕に近づける。硬いものが当たった感覚が頭に走る。そのままでいると、頭の上を何かが動く感覚がある。どうやら撫でられているようだった。


 一通り撫で終わると右手を戻したのでこっちも頭を上げる。顔を見ると先ほどよりも少し表情が柔らかくなっている。気がする。


 そして、ゆっくりとコクリと頷いた。


「!」


(やったー!成功だ!いや、落ち着け。友達の名前なんだ。慎重に決めないと。髪が長いし女の子っぽい名前にした方がいいか?)


 頭の中をぐるぐると色んな単語が駆け巡る。病室で何回も見た図鑑から虫や花、動物の名前を思い出す。しかし、中々いいものが決まらない。


────────────────────────


 そしてそのまま数十分がたった。


(だ、ダメだ。人の名前ってどうやって決めればいいんだ?誰か教えてくれ…)


 そう思って目を開けると目の前で赤い目の奴は眠っていた。


 風が吹くと白い髪がふわりと揺れ、キラキラと日の光を反射している。病室にあったカーテンもキラキラしていたがそれ以上にきれいだった。体には黒が混ざっているのに髪に白以外の色は一切なかった。


(綺麗だなぁ…真っ白な髪の毛…)


 そんなことをぼんやり考えていると思わずポツリと言ってしまった。


「まぁ、し、ろ」


 そのつぶやきに反応して素早く起きてこちらを向く。


 そしてコクリと頷いた。


(…やってしまった……頷いたってことは納得してしまったということだよな。)


 目の前では嬉しそうな顔をしながら脚をわさわさ動かし、お互いに触れるぐらい近づいて来ている奴が居た。


(…ましろ。真白か。まぁ変な名前じゃないし大丈夫だよな。うん。多分、可愛いと思うし。)


 そして唐突に右手でこちらを指さしてくる。そしてその後自分を指さし髪に触れた。


(………ああ。なるほど)


 ましろが何を伝えたいのかをすぐに感じ取る。おそらくこうゆうことだろう、と考え自分自身に再び指がさされたタイミングで話す。


「き、り、は」


 そうするとましろは笑みを浮かべては再びコクリと頷いた。そして、ぶら下がっているだけで感覚が無い俺の右手と握手をした。それを見て俺も笑顔を向け話す。


「よ、ろ、し、く、え!」


こうして俺は人生で初めての友達を手に入れた。


────────────────────────


 変わった奴だ。私のこの体を見ても攻撃してこず、手を差し伸べてきた。実際に差し出されたのは頭だったが。


 でも、あの危機的状況で迷わず私の手を取ってくれた。それがどれだけ嬉しかったか。みんなと散り散りになってからはずっと一人だった。


 彼も一人だった。でも私と同じように一人でいる事が嫌だったのだろう。


 彼の言葉はすごくわかりずらかったが、私の考えていることを機敏に感じ取ってくれた。


(ましろ。漢字にするとおそらく真に白か。)


 彼がくれた私の名前。事務的につけられた番号ではなく私のために悩んでつけてくれた名前。


 私は右手で彼を指さす。そしてその後自分を指さし髪に触れた。


 彼は私が何を言いたいのかすぐに理解したようだ。


 私は再度、右手で彼を指さす。すると彼は言葉を発した。


「き、り、は」


(キリハか。いい名前。)


 それにしても本当に察しがいい。声が変だから彼もこれまでに、身振り手振りでの意思疎通を行っていたのかもしれない。


(でも、もしそうなら上手くやっていけそう。私、話せないし。)


 私は彼の右手を掴み、よろしくの意味を込めて握手をする。


 (手に力が無い?)


 握手を拒否されたのかと思い、キリハの顔を見る。


 すると彼は笑顔で


「よ、ろ、し、く、え!」


 と、言った。


 (良かった。この反応なら握手を嫌がられてる訳ではないみたい。)


 ホッとしてキリハの両腕に視線を戻す。すると両腕に力が全く入っていないのがわかる。


(まぁ、こんなところに居る時点で普通の人間じゃないよね。私もそうだし。)


 先ほどの戦闘は本当に一瞬だったが、キリハは私に全てを託してくれていた。彼の体を私が自由に動かせていたのがその証拠だった。


 白銀鷲を目の前にして会ったばかりの私を信じてくれたのだ。


 なら、私も彼を信じよう。


 今までの戦いで自分一人の戦闘力の限界も感じていた。


(それに、一人より二人、だったよね。)


 ましろは大切な仲間の顔を思い出す。


 そして、彼の顔を見てほほ笑むのだった。





読んでいただきありがとうございました。

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