料理
よろしくお願いします。
「違うわよ。それは塩。砂糖はこっちよ。」
「同じじゃない?見た目でどうやって確認すればいいの?」
「結晶の形を見ればわかるわよ。」
(滅茶苦茶だ。)
俺は今綾女と一緒にキッチンに立っていた。お昼ご飯のオムライスを作るためだ。だが、これがあまりにも難し過ぎる。
「難しいっ。」
「最初は誰でもそうよ。落ち着いて一つずつ丁寧に進めなさい。」
丁寧にやっているつもりなのに切った玉ねぎの大きさは点でバラバラだ。左手が無いせいで上手く切ることができない。俺は挫けそうになるのを何とか踏みとどまる。動物の皮を試行錯誤で保存した時もこうだった。最初から上手くいくことなんてそうそうない。
俺は切った野菜とご飯、トマトソースを入れて焦げ付かないように炒める。そして今回の最強の壁がやってくる。
「じゃあ最後に卵で包んで完成よ。まずは一緒にやってあげるから体で覚えなさい。」
今回の料理で分かったことだが、綾女は教えるのが大分雑だ。ほとんどの事が「体で覚えろ」か「感覚でやれ」の2択だった。透蜜が丁寧に改善点を指摘してくれていたことがどれだけありがたいことかよくわかった。
綾女がフライパンを持つ俺の手を握る。
「いい?まずはこうよ。そしてこう。で、こうしたら、ホッと。これで完成よ。やってみなさい。」
「無理。全然分かんない。」
「いいからやってみなさい。実践あるのみよ。」
肝心の箸を持つ方の手が全く参考にならない。俺は綾女がやったことを見よう見まねでやってみる。まずはフライパンにバターをひく。卵を溶いて入れて、端から真ん中の方に向けて箸を動かし、半熟の部分を作っていく。
「もっと早くよ。」
「わ、わかった。」
俺は言われた通りに箸を動かす。だが、片手でやるには限界がある。遅すぎたせいなのか卵に穴が開いてしまう。俺は焦らずに残りの手順を小さく口に出しながら進めていく。
「ここから奥に寄せて、焼いた方の面で半熟の方を包んで箸で形を整えて……最後に、こうっ!」
一番最後。空中に卵を浮かすあの大技をやる。だが、穴が開いていたせいでそこから形が崩れてしまった。片手で箸を使ってフライパンを操作するのは限界がある気がした。
「……………」
「まあ、最初はそんなもんよ。焦げてないだけマシよ。」
「…綾女。後の二回お手本見せて。」
「いいわよ。もう一回手を握ってやってあげる。体で覚えるのよ?」
綾女はそう言うと残りの二人分を綺麗に作っていく。悔しかったのでそれを目に焼き付ける。
(だめだ。やってることは理解できるけど自分で再現はできん。)
「いくら霧刃でもさすがに最初にオムライスは難し過ぎたわね。」
「そう思うならメニュー変えてよ…」
そんな愚痴を言いながら机に運んでいく。綾女が作った3つをみんなの前に置き、自分で作った失敗したものを俺の席に置く。
「別にいいわよ。私が食べてあげるから、霧刃は私の食べなさい。」
そう言って綾女が俺の皿と自分のを取り換えようとする。しかし、その前にすかさず真白が俺のオムライスを奪い取る。戦闘体でだ。
「真白、独り占めはだめですよ。私も少し食べてみたいです。」
「私が食べてあげるって言ったはずだけど?」
「やめて。それ失敗作だから人に食べさせたくないの。真白も早く返して。」
だが、真白は一向に手放そうとしない。そんな中、透蜜がある提案をしてくる。
「じゃあ、じゃんけんで決めましょう?勝った人が食べれるということでどうですか?」
「それって普通負けた人じゃないの?」
「今はみんなが欲しがってるから勝った人で合ってますよ。」
そう言って透蜜は何を出すのか考え出す。真白も異論はないようで頷いている。ぶっちゃけなんでこんなことをしなければいけないのか意味が分からなかった。だが、それもこれも勝てば全て解決する。そう、生きることと同じだ。勝てばいいのだ。
「ふぅー。」
俺は何を出すかを決める。そして、綾女の掛け声で勝負の火ぶたが切って落とされる。
「いい?いくわよ!最初はグー。」
「「「ジャンケンポン!!」」」
綾女、パー。透蜜、グー。俺、グー。真白、パー。
「あああああああああ!!最っ悪!!!」
「負けてしまいましたか。」
俺は、自分の膝に手をつき、絶叫する。自分の失敗したものを誰かに食べられるのって超恥ずかしかった。できることなら自分で食べて、この世から消し去りたかったがそれももう叶わない。もう俺以外の人の手に渡ることが決まってしまったので興味がなくなりかけていたが、一応勝負の結末を見届ける。
「真白、いくわよ。」
真白が頷く。
「最初はグー。ジャンケンポン!!」
綾女、グー。真白、パー。
真白が勝ってしまった。俺は出来れば真白にだけは食べさせたくなかった。だって普通美味しいものを食べてほしいと思うではないか。だが、真白を見ると小躍りしながら喜んでいた。
全員で席に着いて真白もいつもの体に戻る。
「食べたかったけど、負けじゃ仕方ないわね。じゃあ、食べるわよ。」
「「「いただきます。」」」
そうは言ったが真白の方が気になって箸が進まない。真白がスプーンにオムライスを乗せて口に運ぶ。
(なんか、すごいドキドキする。なんでだ?真白に名前を付けた時みたいな気分だ。)
胸がざわざわする。美味しくないのがわかっている分ちょっと嫌な気分だ。
真白がよく噛んで飲み込む。そして、こちらを見て笑った。
なんでかわからないが今までに感じたことが無い嬉しさがあった。
「あーあ。いい顔してるわね。私も食べてみたかったわ。」
「そうですね。夕飯は私たち2人分作ってもらいましょうか。」
二人でなにかとんでもないことを話している。さっき一人分を作るのにあれだけ手擦ったのに二人分なんてどれだけ時間がかかるかわかったもんじゃない。
「…簡単なやつね。」
「ふふっ。作ってくれるんですね。ありがとうございます。」
「やったわね。」
今、答えるべき言葉を間違えた気がする。だがもう決まってしまったからやるしかない。
俺は午後の間に何か初心者でも簡単にできるレシピを探すことに決めたのだった。
読んでいただきありがとうございました。




