戦闘体
よろしくお願いします。
「さっきは泣いちゃってごめんなさい。」
俺は訓練室で透蜜に謝っていた。昨日でもう人前で泣くのはやめようと心の中で誓ったのに、また透蜜の腕の中で泣いてしまった。だが、不思議と昨日よりは恥ずかしくなかった。
「いいんですよ。それで、どうしますか?まだ訓練を続けますか?」
透蜜が俺に聞いてくる。当然答えは決まっている。
「やりたい。俺は魂を食べる以外でならどうすれば強くなれる?」
「そうですね。まずは霧刃はやっぱり刀を振るべきです。少し待っていてください。」
そう言って透蜜はリンクを操作する。すると訓練室の入口からロボットが1台入って来た。手には2本の短刀が入ったベルトを持っている。透蜜がそのベルトを受け取ると、ロボットが帰っていく。
「これを振ってください。」
「これは?」
「私が作った短刀です。黒い方は重いですが威力が出ます。銀色の方は軽いですがその分深く切り込むには力が要ります。ベルトはサイズが調整できるので自分に合わせてください。」
俺はベルトを手に取る。付けるのを手こずっていると透蜜が付けてくれた。片手でつけるのは慣れが必要だ。
「黒い方を振ればいいのか?」
「そうです。さっきの攻撃で分かりましたが、霧刃は大きく振りかぶり過ぎです。もっと脇を絞って鋭く切り込むことを覚えるべきです。そのために使うのが霧刃一人でも使えるこの短刀です。間合いを狭くすることで、無駄な動きを減らしていくことを目標にします。間合いが狭いと相手との距離感を掴むことをかなり意識しますから、いい訓練になると思いますよ。」
俺の新しい目標ができた。この短刀を使って刀の根本的な振り方と間合いの掴み方を覚える。今までは大きな刀の攻撃範囲にものを言わせてぶん回していたので俺に必要な訓練だと言える。
「俺はこれを振るとして真白はどうする?」
「そうですね…なら真白には融合を使いこなす為の訓練をしましょうか。」
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私は今すごく機嫌が悪い。
「真白。そろそろ訓練始めない?もう1時間ぐらいたったよ?」
前からキリハの声が聞こえるが私は首を横に振る。私は今霧刃の背中にいる。融合の訓練とか私は絶対にやりたくなかった。だってあの体を作る行程を見られると思ったからだ。
あれだけはキリハに絶対に見せたくない。あれをやってる時の姿は最早人ではない。私を異形種と見なされ、キリハに嫌われるかもしれない。それだけは絶対に避けなければいけない。
「そんなに、訓練が嫌なんでしょうか?さっきの戦闘ではちゃんと力を貸してくれたのですが、何が嫌なんでしょうか…」
何が嫌って融合の訓練そのものだ。今までだって霧刃の前で体を作るところは絶対に見せなかった。見せない為に空を飛ぶ時もわざわざ霧刃と融合していたのだ。その努力をこの訓練でパアにされるのだ。抵抗するなという方が無理があるだろう。
「真白。俺はもう真白を危険な目に合わせたくない。真白と一緒に生きたい。その為には力が要るんだ。真白も協力してくれると嬉しい。大丈夫、どんなことがあっても絶対に真白の側に居るから。」
「……………」
その言葉を聞いて私は顔をキリハの首に寄りかからせる。彼の髪からいい匂いがする。少しチクチクするが、それも心地いい。ずっとこうして頭を寄せていたくなる。
(ずるい…)
そんな言葉を聞いたら、やらない訳にはいかないではないか。私は腕をキリハの肩に回して抱きしめる。さっきも昨日もあのスキミツという女に絶好のチャンスを取られてしまった。
「自分を通すためには力がいる。」
キリハの言葉を噛み締める。私も強くならなくてはいけない。キリハのことを守れるくらい強く。もうみんなと会えないということは、外での霧刃と過ごした1週間でなんとなく分かっていた。これ以上大事な人を失う訳にはいかない。それに、私の夢の為にも力は必要だ。
(お嫁さん…)
私はケージ内で見た綺麗な純白のウェディングドレスを思い出す。できることならキリハの横であれを着たい。
その為には、人間の体を取り込む為には、力が要るんだ。
私は勇気を振り絞ってキリハから下りる。
「真白…」
「やる気になってくれたみたいですね。」
別にお前の為じゃないと心の中で悪態をつく。私は一度深呼吸をして心を落ち着かせる。
そして、体を戦闘体に作り替えた。
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「でかすぎる。」
俺はそうつぶやいた。目の前には2mくらいの巨大になった真白がいた。甚平の紐が解けて胸の肌が見える。手足は先端にいくにつれて黒くなっていき、細いが足も生えている。大きさは透蜜と同じくらいだ。なぜか目があちこちに泳いでいる。
「でも、かっこいい。」
「これはすごいですね。もうここまで使えるなんて思ってもみませんでした。」
こっちに近づいてくる。俺は腕を上げて待機する。すると、察してくれた真白がしゃがんで俺を抱き上げてくれた。真白が見ている景色と同じ高さまで上げてもらう。
「すごい高い!真白、すごい高いよ!」
俺ははしゃいでいた。こんなにも高い視点なんてちょっと羨ましい程だ。真白もまんざらでもないようで少し笑っていた。
「何を嫌がっていたのかはわかりませんが早速訓練を始めましょうか。とりあえず、お昼までです。」
そう言われて真白から下りる。
「じゃあ真白、また後でね。」
俺達は強くなるためにそれぞれの訓練を開始した。
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「はっ、はっ!」
「ほらまた大振りになってきてますよ。もっと体のブレを抑えて、しっかりと形を意識して振ってください。」
「はぁ、はぁ、わかった…」
俺は右手で黒い短刀を持ち、それをひたすら振っていた。ただ振るだけか、なんて最初は考えていたがこれがかなりキツい。振ると言っても闇雲に振るのでは無く、透蜜に言われた通りに振らなければいけない。
(仮想戦闘を切られたせいで、はぁ、体への負担がヤバい。はぁ…)
仮想戦闘がどうゆうものかさっき透蜜から説明があった。仮想戦闘中にあったことは全て訓練室の中での仮想に、つまり仮初の現実になるということだった。馬鹿な俺には詳しくは理解できなかった。
動きを覚えたりギフトの訓練には向いているが、体を鍛えるのには全く効果が無いとのことだった。それだけはなんとか俺の頭でも理解できた。
「キ、キツい。」
俺は息を切らしながら短刀を振る。なにが一番キツいかというとこの短刀の重さだ。俺がいつも使ってる刀程ではないがかなり重いのだ。刃が短いからなんとか片手でも振れているが、スイングはかなり遅い。
体に斬るという動作の基本を叩き込むためにはこれを振れと透蜜が言ってきたのだ。
「早く強くなりたいなら、並行して体も鍛えられる。黒を振りましょうか。」
そう言われては俺には拒否することなどできない。
真白も向こうの部屋で何かと必死に戦っている。俺も仮想戦闘をオンにして何をしているのか見てみたいが今は我慢だ。
俺は早く強くなる為にはこれが必要なんだと自分に言い聞かせて必死に短刀を振った。
読んでいただきありがとうございました。




