新しい朝
よろしくお願いします。
「霧刃、起きてください。朝ですよ。」
その声で俺は目を覚ます。目を開けると病院の天井と似た天井がある。
「ここは…そうか昨日ここに来たんだ。」
「はい。そうですよ。それと、おはようございます。」
窓の方を見るとそこに透蜜が立っている。服は昨日と殆ど同じだった。俺を起こしに来てくれたようだ。
「透蜜もおはよう。」
起き上がろうとすると体になにかが引っかかる。下を見ると真白がいつものように抱き着いていた。
「やはり一緒にいましたか。起こしに行く手間が省けました。」
「自分の部屋に行けって言ったのに…真白、起きて。」
真白の体を揺する。目を擦りながら真白が起きて、伸びをする。そして、俺の顔を見て頷くと背中に掴まってくる。最初は戸惑ったがこれももう慣れた。だが、いつもと違って真白も俺も紺色の綺麗な服を着ている。
「二人が着ているの甚平っていうんですよ。着心地はどうですか?」
これは甚平というらしい。風通しの良い服で俺は気に入った。
「動きやすくて好き。」
真白も頷いている。
「まあ!嬉しいです。その服、私が作ったんです。」
昨日のパンケーキといい、透蜜は色んなものを作れるようだ。どうやって作っているのか少し気になった。
「ありがとう。服がもうボロボロだったから助かった。」
「いいんですよ。さあ、もうすぐ朝食ができるので行きましょう。」
俺は部屋を出て洗面所で顔を洗う。近くにはタオルがいくつか置いてある。透蜜に聞いたら好きに使っていいそうだ。汚れたら脱衣所にある洗濯機に入れておけば勝手に綺麗になるらしい。すごい便利だ。
俺は廊下に続く扉の前に青い靴が置いてあるのを見つける。大きさからして俺用の靴だ。
「霧刃は今日からこれを履いてください。靴下はこれです。」
「いいのか?こんなに何んでもかんでももらって…」
俺は少し罪悪感を覚える。まだ透蜜達のことを完全に信じてはいないからだ。
「いいんですよ。まだ子供なんだからなんでも言ってください。大抵のものなら用意しますよ。」
「…わかった。助かる。」
「玄関の外で待ってますね。」
そう言って透蜜が靴を履き、扉を開けて外に出ていく。
(ここはやっぱり玄関だったのか。ていうことはここ俺の部屋じゃなくて俺の家ってことか?ここどんだけでかいんだよ…)
呆然としていると後ろから頬っぺたを真白につつかれる。
「ごめん。考え事してた。もう大丈夫。」
俺は靴下と靴を履いて廊下に出る。扉のすぐそばで透蜜が待っててくれていた。俺は透蜜に付いて行き、食堂に案内される。そこには30人近くは座れる席と机が置いてある。そこの一角に綾女がいくつもの電子モニターを広げて忙しそうになにかの作業をしている。
「おはよう綾女。何してるの?」
「二人ともおはよう。只の情報収集よ。めぼしいものは何もなかったけどね。」
綾女は首につけた情報デバイスに触れて、電子モニターを全て閉じる。昨日のドレスと違って、今日はゆったりとした黒いズボンにパーカーを着ている。
「さあ、ご飯にしましょう。今日はトーストよ。好きなジャムや蜂蜜をかけて食べていいわよ。」
俺と真白は綾女達の向かい側に座る。テーブルの上には大きなお皿にサラダが盛り付けられている。ガラスで出来ているティーポットには昨日飲んだのと同じ紅茶があった。サラダの近くに様々な色の瓶がある。あれがジャムだろうか。その中に蜂蜜もあった。
「それで、昨日はよく眠れたかしら?」
暇つぶしなのか綾女が話しかけてくる。透蜜を見るとまだキッチンカウンターで何かしていた。俺も暇つぶしに雑談をしようと思い昨日の夢の話をする。
「昨日は夢を見た。」
「どんな夢だったの?」
「魂喰に力を貸してもらう夢。」
「そう?変わった夢ね。まあ昨日は色々あったからぐっすり寝れないのも無理はないわ。」
綾女は不思議そうな顔をしながら答える。
「変な夢だった。俺は真白を守るってすごい強い気持ちを持ってた。」
「その気持ちは今もある?」
綾女が笑いながら問いかけてくる。俺は自信をもって答える。
「ああ。俺は真白を守りたい。そのために強くならなくちゃいけない。」
真白の方を見ると何故か顔を手で顔を覆っていた。何か気に障ることを言っただろうか。
「そう。でも、」
綾女が何かを言いかけたときに透蜜が4つのトーストの乗った皿と、中に紅茶が入った4つのコップを背中の脚も使って起用に持ってくる。
「できましたよ。さあ朝食にしましょうか。」
「…そうね。また後でいいわ。今は暖かい内に朝食をいただきましょ。」
透蜜が席に着き、全員で手を合わせる。俺は目を閉じて食べ物に感謝する。
「「「いただきます。」」」
にぎやかな雰囲気で食事が進む。
「霧刃ー。そのいちごジャム次貸して。」
「はい。」
「ん。ありがと。やっぱトーストにはこれね。」
「綾女は相変わらずイチゴが好きですね。蜂蜜もたまにはかけてください。」
「嫌よ。お菓子でいつもかけてあるから飽きるのよ。もう少し程度を抑えてほしいくらいよ。」
「ひどい言い方。聞きましたか霧刃。あんな大人になってはいけませんよ?」
「ちょっと、なに自分に一切の非が無いみたいに話してるのよ。毎日蜂蜜のお菓子で飽きるって言ったのよ。」
「飽きないですよ。蜂蜜よりおいしいものなんて無いんですから。」
「その考えが当てはまるのは地球上であんただけよ。全くもう。あんたはいつも────」
とても賑やかな朝だ。こんなにも大人数で朝食を食べられる日がくるなんて夢にも思ってなかった。みんなで食べる食事がこんなに楽しいなんて。でも、そんな中でも考えてしまうことがある。
(ここに、おばあちゃんも居てくれたら…)
俺はかなわない光景を思い浮かべる。いつも俺と一緒に朝食を食べてくれたおばあちゃん。今は誰と食べているんだろうか。一人でさみしくしていないだろうか。
俺はどうかおばあちゃんがさみしい思いをしていないようにと心の中で願って、トーストを口に運ぶのだった。
読んでいただきありがとうございました。




