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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
欠けた者達
13/66

でかすぎる壁

よろしくお願いします。

「着いたわよ。ほら目を開けてみなさい。」


 俺は綾女の声を聞きゆっくりと目を開ける。


「すごい。」


 目の前には湖の中心に立つ蔦が巻き付いた白い塔があった。周りは球形の空間になっており、木や蔦が生い茂っている。塔の上からは暖かい光が差している。湖の水は透き通るようにきれいで底までよく見える。周りの木を見れば、虫やとかげ等の様々な生き物がいる。


「こっちよ。」


 綾女は木の隙間にある白い扉を開く。よく見ればここの球形の壁には木以外に白い建物の部分がちらほら見える。建物の中は木に浸食されていないようだった。唯一持ってきた刀を握りしめ、警戒しながら綾女の後に続く。


 扉の中は都市の建物の作りによく似ていた。だが、窓のガラスは全て無く、外から風が入ってくる。廊下を歩き、エレベーターを使って上に行く。その後また少し歩き、とある部屋にたどり着く。


「ここよ。ソファにかけて。」


 扉が開き綾女が中に入っていく。そこには外が見える大きな窓と椅子と机が置いてある。左側にあるのはキッチンだろうか。とりあえず外へのルートは覚えた。何かあった時はさっきのルートで外に出られるだろう。もっとも、逃げられるのであればの話だが。


 真白は俺の背中に張り付いて離れようとしない。やはり警戒しているのだろうか。


 俺は言われた通りに部屋に入りソファに座る。もたれかかろうとしたが真白が全然降りようとしなかった。


「真白…?大丈夫か?」


 コクリと頷かれる。後ろだからよくは見えないが、どうやら綾女を見ているようだった。


「あらら。これは相当警戒されてるわね。殺気がすごい伝わってくるもの。」


「あら。もう帰ったんですか?以外に早かったですね。」


 俺は急いで声がした方に振り向く。キッチンの方を見るともう一人女がいた。背丈は綾女よりも高い。


(いや、そんなことどうでもいい!全然気が付かなかった…!なんなんだこいつは!?一体いつからいたんだ!?)


 思わず刀を握る右手に力が走る。


「驚かせちゃったかしら。ごめんなさいね。私は宝院透蜜(ホウイン スキミツ)よ。よろしくね。」


 そう言ってこちらに来て座っている俺に目線を合わせて話かけてくる。


 透蜜と名乗ったその女は黒いレギンスに白いシャツを着ている。綾女と違って、髪は薄い茶色で肩までの長さしかない。だが、背が大きい。2mに届くのではないかと思う。胸も大きく、腰は細くお尻は綾女より大きそうだった。足も太くてとても長い。


 そして、特徴的なのは両腕に加えて腰の後ろから真白のように虫の脚が6本伸びている。それぞれの脚にはコップや皿などが握られている。


 だが、自信に満ち溢れている低い声の綾女と違い、少し高く落ち着いた声のせいか妙に安心する感覚がある。


(なんだこいつは?まるで絡めとられているいような嫌な感じがする。妙な安心感が逆に不気味だ。)


 それにさっきこっちに歩いてきた時のあの感覚。今日倒した熊のいや、リュウグイヘビトンボ以上のプレッシャーがあった。俺は確信する。


(こいつは俺達よりも圧倒的に強い。)


 観念して俺は名前を言う。


「俺は神楽霧刃だ。こっちの後ろにいるのが真白。宝院さん、はなんて呼べばいいですか?」


 思わずですます口調になってしまった。俺はこの女にそれくらい気圧されているのだろう。


「ふふっ。透蜜って呼んでほしいです。あと綾女と話すときみたいな緩い話し方でいいですよ。」


 こちらに向けて手を差し出してくる。


「…わかった。よろしく、透蜜。」


「ええ。よろしくね。それにしても思ったより怪我をしていませんね。」


「ちゃんと平和的に交渉して連れて来たわよ。」


「脅迫の間違いではないですか?クイちゃんまで連れて行って。」


「失礼ね。────」


 リュウグイヘビトンボ相手では勝ち目が無かったからここまでついてきた。だが、その先に居たのはそれ以上の化け物どもだ。


(一歩間違えれば、確実に死ぬ…)


 俺はなんとか相手を刺激しない言葉を選ぶことしかできなかった。


────────────────────────────


「さあ、食べて頂戴。さっき作ったホットケーキです。蜂蜜には自信があるから期待してもらっていいですよ!」


 俺の前に透蜜が皿を置いてくれる。そこには小さく切り分けられた2段のホットケーキと蜂蜜があった。


「ありがとう透蜜。いただきます。」


 透蜜はニコニコしながらこちらを見ている。綾女は何かのお茶を飲んでいる。


 これが毒の可能性も0ではなかったが、こんなに強い奴らがそんなセコイ手を使ってくるとは思えなかった。俺達程度なら余裕で制圧できるだろう。


 いい匂いがするが二人を前にしては全然気が休まらなかった。俺は意を決してホットケーキを口の中に入れる。


「………美味しい…」


 口の中にはふわふわの雲を食べているような感覚があった。そして生地の甘味がふわっと広がり、噛むたびに幸せな感覚になる。今まで食べたことが無いものだった。俺は自然と笑顔になっていた。


「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいです。綾女以外の人に作ったのはかなり久しぶりだったから、少し心配だったの。さあ、この蜂蜜もかけてみてください。」


 透蜜が横に置いてある蜂蜜をすすめてくる。言われた通りに俺は蜂蜜が入ったガラスの器を手に取る。


「綺麗だ…」


 その言葉は自然と口から出ていた。その器の中には透明で黄色い宝石のような蜂蜜が入っていた。光に当てればその透明度がどれだけ綺麗なのかがよく分かった。


「まあ!そんな風に言ってくれるなんて嬉しいです。」


 透蜜の表情がパァっと明るくなる。


 俺は器を置き、スプーンを使って蜂蜜をかけて口の中にホットケーキを運ぶ。


 その美味しさは俺にとって衝撃だった。ホットケーキの雲のような食感と蜂蜜の透き通るような素直な甘さが口の中に染みわたる。蜂蜜というのは初めて食べたが俺はこれが大好きになった。


「真白、前においで。美味しいよ。」


「……………」


 少し間をおいて真白が膝の上に座る。


「ようやく、警戒をといてくれたみたいね。」


「わあ。真白の髪の毛とっても綺麗ですね。絹のようです。」


 わいわい言っている二人をよそに俺はおばあちゃんにやってもらったように、真白にホットケーキを食べさせる。


「……」


「おいしいよ?ほら、あーん。」


 少し間があったが真白もホットケーキを食べる。すると目に見えて表情が変わった。真白が飲み込んだのを見てからもうひとかけら食べさせる。真白はすっかりホットケーキの虜だった。


 俺はフォークを渡し、残りのホットケーキを真白に譲る。


 透蜜が真白の食べっぷりを見ながらお茶を入れてつぶやく。


「やっぱりいつの時代も子供にはお菓子ですね。準備しておいてよかったです。」


「そうね。おかげで警戒もすっかり解けたようだし、助かったわ。」


「あ、の、」


「どうしたの?」


 俺は二人の会話に割って入る。


「ありがとう。すごくおいしかった。」


 俺のお礼に二人は微笑む。


「お礼なら透蜜に。」


「どういたしまして。私もおいしく食べてくれて嬉しかったです。」


 それを聞いて俺も少し嬉しくなる。


 真白がゆっくりと味わってホットケーキを完食するのを俺達は静かに待った。




読んでいただきありがとうございました。

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