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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
欠けた者達
11/66

決死の抵抗

よろしくお願いします。

「うわあ!」


 俺は家の前の木に激突して倒れ込んだ。これでもう何回目だろう。


 俺は朝からずっと加速のコントロールの練習をしていた。


「はぁ…はぁ…だが、最初に比べれば大分マシになったか。」


 加速は自分と自分が触れているものの動きを早くすることができるギフトだった。


 ギフトは生まれながらに使い方を理解しているものである。そして誰もが最初からギフトを発動することができる。本人の素質次第では最初からギフトの力を十全に使うことができる場合もある。


 おそらくこれが魂喰のデメリットなんだろう。手に入れたギフトの名前だけはわかるがどんな性能なのかは使ってみなければ詳しくはわからない。更にギフトの出力をコントロールするところから始めなければいけない。つまり最初は100か0かでしか発動できないのだ。


 最初は体に意識が付いていかなくて、全然うまくいかなかった。その場で転びまくって1歩も前に進めなかったぐらいだ。


 今は前に走るぐらいはできるようになった。


 自由に動けることと自分の成長を実感して嬉しくなる。もっと使いこなせるようになるには時間がかかるだろうが、地道にやっていこう。


 俺はゴーグルを装着して今の時間を確認する。時刻は12時に近づこうとしていた。


 魔力の方を見ると60%まで減っている。1度の発動時間は短いが、あれだけ連発すれば当然の消耗だった。


(今日のご飯はどうしよう。何も釣れてなかったら真白と一緒に何か狩りに行くか。)


 今日は5月11日。俺が外に置いてかれて1週間が過ぎていた。


 その間に色々あった。真白と一緒に釣りをしてみたり、魔力銃を少し試したりもした。


 一番やばかったのはサギルに遭遇したことだ。野生の豚を倒して持って帰ろうとしたときそいつがこっちに来るのがわかり、慌てて真白に隠れるように指示を出した。


 そのサギルはなんで豚が落ちているのか不審がっていたが、しばらくするとそのまま豚を持って行った。


 あまりの怖さに心臓が止まるかと思った。今日まで狩ってきたのは白銀鷲を除くと自分たちよりも小さい動物だけだった。


 サギルは普段、集団で行動していると図鑑には書いてあった。あれ以外にも近くにもう何体かいたということだ。


 勝てないのは目に見えているので隠れてやり過ごせたのは運が良かった。


 だが、外で暮らしていく以上いつかは異形種と戦闘を行わなければいけない日も来るだろう。そんな時に備えて俺は少しでも強くなりたかった。


 魔力銃を試していてわかったことが2つあった。


 1つ目は真白と体を合体しているときは真白の許可をもらえば、俺も体を動かせるということだ。これのおかげで俺はすごい速さで体を動かす感覚を覚えることができた。


 そして、魔力銃を使おうとすれば俺の体では発砲の衝撃に耐えることができない。真白は黒い脚だけでは体が安定せず狙いをつけられなかった。


 真白と合体して体が強くなり、俺が銃を撃つ。二人の力を合わせればこの魔力銃も使えそうだった。


 2つ目は戦闘用ゴーグルと銃のデータの接続だ。


 ゴーグルをつけた状態で魔力銃を構えると、視界内に残り魔力で何発撃てるかが表示された。これは最初は便利かと思ったが、練習で使ってみるとそうでもなかった。


 真白との合体中は常に魔力を消費する。戦闘用ゴーグルも僅かだが魔力が必要だ。


 つまり時間が経てば経つ程、表示された撃てる残りの数がどんどん減っていくのだ。これのせいでさっきは5発撃てると思って動いたら1発しか撃てなかった、みたいなことが何回も起きた。


 この残弾数は大体の目安と考えた方が良いだろう。馬鹿正直にこの数字を追い続けると魔力がすぐになくなってしまう。


 (あとはあの刀…そろそろどんな力を持っているのか調べないとな。昼からは川で真白と一緒に試してみるか。)


 俺は家の中から刀を持つと、釣りをして待っているはずの真白のいる川へ走っていく。


「真白ー。なんか釣れたー?」


 少し大きな声を出して川の前まで行くとそこには傷だらけの真白がいた。


「真白!?大丈夫?何がったの?」


 そう聞くとゆっくり頷き俺の体と合体する。そして川の方に顔が向けられる。


 「真白…?っ!なんだ、あれ。」


 そこには図鑑でも見たことない体長5m程の真っ黒な巨大熊がいた。そして既にこちらの方を見ており少しずつ近づいて来る。


(不味い、ここからじゃ家が近すぎる。逃げるのは無理だ。今更隠れるのももう意味が無い。なら、やるしかない…)


 少し遅れて真白から肯定の意思が流れてくる。弱っているがまだ意識はあるようだ。俺は真白と合体したことで再生した左手で鞘を持ち、右手で刀を抜く。そして、戦闘用ゴーグルを付け直す。


 魔力残量を見てみると30%になっていた。これは真白と合体したことで魔力の総量が二人分になったからだろう。つまり今、真白はこいつと戦って魔力をほぼ全て使い切っているということだ。


(真白の意識が弱い。俺が体を動かせるとうことは、真白はもう戦えないのか。)


 これまで俺は真白に助けてもらってばかりだった。特に戦闘面はそうだ。狩りをするときも俺は基本的に体を貸すだけ。俺が倒したのは魔力銃での遠距離からの攻撃のみだった。


だが、今回は違う。もう真白を当てにすることはできない。おまけにさっきの練習で魔力を消耗してるせいで急いで決着を付けないと、刀を振ることもなくなってしまう。


 加速はギリギリ戦闘で使えるレベルのものにはなっている。


(落ち着け。大丈夫だ。こんな時の為に加速の練習をしてきたんだ。今は両目も、両腕もある。絶対に勝つ!)


 熊は4本の足で踏ん張るような態勢をとる。そして、後ろ足をたわめたと思ったらすごい速さで突っ込んでくる。


「がるるぐあぁ!!」


(早い!?)


 俺は加速を使用して急いで横方向に移動する。


(だが直線的で避けきれない程じゃない!)


 攻撃を外した熊に向けて、刀で切りかかろうと振り返って構える。だがそこには地面を足で滑らせながら踏ん張ったままで体をこちらに向ける熊がいた。


 そのままこちらに突っ込んでくる。


「はああ!!」


 加速を遣って回避し、直後で刀で切りかかる。しかし、刀を振るタイミングと敵に最も接近するタイミングとがずれて、攻撃が中々当たらない。


(くそっ。刀を振る訓練も一緒にやっておけばよかった。)


 魔力銃を取りに行きたいが、そんな隙をくれる程甘い相手ではなかった。


 何度か熊と攻防を繰り返し、だんだんと刀のタイミングが合ってくる。そして相手の動きのクセも見えてきた。


 熊が突撃してきたタイミングで右後ろ足に切りかかる。すると熊がよろめくような動きをする。


(なんだ今のは…?)


 すかさず熊が再度こちらに向けて突撃してくる。


(ぐぅ…痛い。少しかすったか。だが戦えないほどの傷じゃない。それに今のはきっと。)


 俺の足からはわずかに出血していた。俺は気にせず刀を構える。


「ぐるぅぅ…」


 何回も攻撃が避けられたことで警戒したのか、熊が再び威嚇するような声を上げる。


 俺は少しずつ熊の左側に回り込む。熊は体を動かさないが顔だけはジッとこちらを見ている。俺は熊の右後ろ足に視線をチラッと見る。そこには何かで切り裂かれたような傷があった。


(やっぱりそうだ。さっき見えたのはこの傷だったんだ。刀で付いた傷じゃない。もしかして合流前に真白が戦った痕か?)


 俺は右後ろ足に狙いを付ける。そして刀を構え、突進しながら勢いよく振り下ろす。


「はああ!!」


 全力で振り下ろすがその攻撃は避けられてしまう。やはり正面からの攻撃は当たりそうになかった。


「ぐらああああ!!」


 こちらの反撃に怒ったのか熊が再び突進してくる。俺は恐怖に耐えながらその突撃をできるだけ真横で回避する。


 そして向かってくる熊の体に刀を突き刺す。


「はあああああ!!」


 傷口からは血が勢いよく吹き出す。


 「がぁあううう!」


 熊は苦痛の声を上げる。致命傷にはならなかったがダメージは与えられたようだ。刀を引き抜き、一旦距離を取る。


(ふー…ふー…落ち着け。こいつの攻撃はあの素早い突進だけだ。タイミングさえ間違えなければ絶対に倒せる。だから焦るな。)


 俺は必死にそう自分に言い聞かせる。刀が震えないように腕の力を深呼吸で整える。


「ぐうううぅ。」


(なんだ?立ち上がって…まさか!?)


 急に後ろ足だけで立ち上がった熊はそのまま後ろ足の力だけで突進して攻撃してきた。それもさっきよりも早くなっている。


「くそっ!」


 急いで回避するが振り下ろされた前足の爪に右腕が少し切り裂かれ出血する。さっきよりも加速を早く使ったつもりだったのに、攻撃をくらってしまった。


(い、痛い……ううぅ…お、おお、落ち着け!突進に加えて腕を振り下ろす速さが合わさって、早く見えるだけだ。突進の速さ自体は変わっていない!)


 ゴーグルに表示された魔力残量が15%になっている。


 少しずつ時間が無くなっていく。魔力が0になれば合体も解除されてしまう。そうなれば確実に死ぬ。その前にこの熊を倒さなければいけない。


「次で、決める。」


 小さくそう声に出し、決意を固める。これ以上加速を使って攻撃を避けていても、いつかは魔力が尽きる。そうなる前に打って出るしかない。


 俺は熊と正面から向き合う。


 そして、加速を全力で使用し熊の懐に突っ込んでいく。


(ううぅ…!!早いけど…ギリギリ動ける…!)


 刀を大きく振りかぶって熊の胸あたりに切りかかる。だが、同じタイミングで熊も右前足を振りかぶり、勢いよく振り下ろしてくる。


(だめ…だ。こっちの方が先にくらう…いや、違う…こんな、ところで、まだ、死ねない!!)


 絶望しかけたその時、力を入れ過ぎて手から溢れた魔力が刀に吸い込まれる。加速によって腕を振りぬく速度が更に上がり、刀が魔力に反応する。


 次の瞬間、刀が赤く光り、刃が一気に2倍程の長さになりそのまま熊の体を両断した。


「……え?」


 てっきりこっちも切り裂かれると思った俺は振りぬいた後のことを考えておらず、勢い余って地面に激突してしまう。顔を地面と打ち付けて痛みが走る。


(い、痛い……生きてる…)


「は、はははっ。痛い。痛いんだ。やった!勝ったぞおお!!はぁ、はぁ、はは。」


 俺は起き上がって熊の方を見てみる。熊の体は斜めに両断されている。こちらに振り下ろした右前足も切断されていた。


 俺はハッとして急いで魂喰を発動する。黒い霧が出てきて熊の魂を回収して戻ってくる。発動するのが間に合って一安心する。


(あれ、なんか加速以外に何かがある?跳躍ってなんだ…?)


 俺は回収した魂から新しいギフトを手に入れたのを感じる。だが、今は後回しだ。


 俺は熊の死体に刀を向け、魔力を流し込む。すると刃の部分が再び伸びて熊の死体に突き刺さる。


「これがこのレガシィの能力なのか。」


 俺は魔力を流し込むのを止めて刀身を顔の近くに持ってくる。


(ん?なんで血が付いていないんだ?さっき死体に刺さったよな。)


 俺はもう一度死体に刀を突き刺す。先端の部分をよく見ると刀が血を吸っていた。


(なんだこれ…刃が伸びるのが能力じゃないのか?もっと別の複雑な能力なのか?)


 俺は刀をよく見る。


(さっきの戦闘ではこんなに血を吸ってなかったはず。死体だからだろうか?)


 なんとなく俺は刀に血を吸わせて熊の死体を家の前まで運ぶ。運ぶのが楽になるし血抜きの手間も省けるので一石二鳥だ。


 家の中に入ると同時に真白と体が分かれる。


「真白。大丈夫か?肉、食べるか?」


 真白は左右に少し首を振る。どうやら意識はあるようだ。


 俺は真白を布団のところに運んでいく。真白はすぐに眠りについた。


「遅れてごめんね。一緒に戦ってくれてありがとう。」


 俺は真白にお礼言って刀を立てかける。今回はこの刀に助けられた。


 (この刀はなんて名前なんだろう。まあ、何でもいいか。)


「今日は助かった。」


 そう刀に声をかけて俺は痛みで悲鳴を上げている体を動かし、ヒートナイフを使い熊の解体をしていく。


 解体の仕方は真白に教えてもらった。肉に草をまぶして腐敗を遅らせる為に塩に入れる。皮は湖で洗うために横に置いておく。


 以前真白が採って来た岩の正体は塩だった。ピンクの塩は見たことが無かったので最初は驚いた。


 塩に漬けておいた肉はすごく腐りにくかった。俺はそれを真似して今日食べる分を除き肉を全部塩に漬けていく。


 そして剝ぎとった皮を湖で洗って、皮の裏の肉を丁寧に剥がしていく。そしてハンマーで叩いて干しておく。後でもう何回か洗わなければいけない。


 これは真白と一緒に考えたやり方だ。最初は洗って置いておいたが皮についていた肉が腐り、虫が群がって来た。次に肉を剥いで置いておいたらカッチカチになっていた。


 そうして、何回も試行錯誤をしてこの方法にたどり着いた。


「ふー。」


 熊の解体が終わり一息つく。かなりの量の肉を手に入れることができた。空を見るとまだ日が落ちるまでは時間があった。


 真白も寝ているし、俺も少し寝ることにした。魔力を使い過ぎてもうフラフラだった。


 俺は布団に寝転がり少し休むため眠りについた。


────────────────────────────


 霧刃が熊を両断する光景をはるか遠くから見ている一人の女がいた。


「これも倒すなんて。」


 熊の命を貪る霧刃を見て、より一層興味を増していく。


「やっぱりこの子供達は…なら異形種に取られる訳にはいかないわね。透蜜(スキミツ)、今いいかしら。」


 そう声をかけるともう一人部屋の奥から女が現れる。


「どうしたの?」


「ここに連れてくることに決めたわ。あの子達は十分に生きる意志を持っている。磨けば更に化けるかもしれない。それに多分、器よ。」


「そう。でも、あんまりやりすぎると心が折れちゃうから程々にしてあげてね。」


「わかってる。じゃあ、行ってくるわね。」


「はい。いってらっしゃい。」


 そう言って女の一人は窓から飛び降りる。そして巨大なヘビトンボのような虫の化け物に乗って森を突き進んでいった。


「部屋を2つとベッドも整えておいた方が良いわね。あとは、治療の準備もかしら?」


 残った女はそう言いながら大量の蜂を従え、別の部屋に歩いていくのだった。





 



読んでいただきありがとうございました。

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