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魂まで喰らいつくして  作者: 小土 反り
欠けた者達
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見えてきた希望

よろしくお願いします。

 コーヒーが入ったコップを2つ持ち、ソファの前まで章斗がやってくる。


「ほら。」


「ありがとう。」


 俺はマグカップを受け取り章斗が対面に座るのを待つ。


「それで、どうだった。任務の方は。」


 少し言葉に詰まりながら聞かれた。やはり恐れているのだろう。自分の子供がどんな結末を迎えたのか知ることを。



「結論から言わせてもらう。」


 そう切り出して俺は血液が入ったガラス管を2本取り出す。


 それを目にした瞬間明らかに章斗が纏う雰囲気が変わった。


(そりゃ堪えるよな。でも言わせてもらうぜ。)


「霧刃の死体は発見できなかった。」


「…なに?じゃあその血は何なんだ?」


 てっきり死体を確認した報告が来ると思っていたのだろう。どこか間の抜けた声で聞き返してきた。


 そして、俺は外で知った情報を可能な限り話していく。


「────ということだ。俺はこの仮説が一番しっくりくるとその時は思った。」


「ならやっぱり霧刃は死んだのか。」


 暗い顔をして下を向く章斗に俺はわざわざ紙に印刷した1枚の画像データを滑らせる。


 そこには子供の男の子と下半身が無い人のような何かが握手をする光景が写っている。


「こ、これは…霧刃!?この横にいる奴は一体?いや、そんなことよりもこの画像は!」


 俺は興奮する章斗をなだめて席に着かせる。


「その画像は壊れた観測機が最後に記録したものだ。通信回路がやられていたから都市に送信されることが無かった1枚だ。そこに今回の謎が全部あった。」


 俺は一息入れる為にコーヒーを飲む。章斗も少し落ち着いたようでコーヒーを口に含み、小さく息を吐く。


「この霧刃と握手をしている奴が白銀鷲を倒したんだな。」


「俺はそうだと考えている。そして、目的はわからないがそいつは霧刃の四肢の力を復活させて白銀鷲の死体と共に姿ををくらませた。どうやって霧刃を動けるようにしたのかは、わからんがな。」


 章斗は荒い画像を凝視して息子の様子を確認する。そこには間違いなく座っている霧刃がいた。右手を差し出して目の前にいる何かと握手をしている。


「霧刃…無事で…よかったっ…!」


 抑えていた感情が溢れ出したようで目元を抑えながら涙を必死に抑えようとしていた。俺にはその気持ちがよく分かった。このデータを解析班から手渡されたときは俺も目を疑った。


「…まさか本当に生きていたとはな。」


 霧刃が処分されたと聞いた時から、もう死んだと思っていた。これは嬉しい誤算だった。俺もその写真を見たときに、周りに人が居なければ泣きたかったくらいだ。


「霧刃の奴、生きててよかったな。」


「ああ。本当に、本当によかった。」


俺は再びコーヒーを飲み章斗が泣き終わるまで静かに待った。


────────────────────────────────────


 俺は確認の意味を込めて問いかける。


「それで、どうする?」


「決まっているだろう。助けに行く。」


 やっぱりか、と思い俺はそれに待ったをかける。


「待て待て。この写真が撮られたのは昨日で、霧刃はもうあの巣には居なかったんだぞ?どうやって探す?」


「それは…むぅ…」


 章斗の眉間にしわが寄っていく。せっかく息子の生存がわかり、体の回復も分かったのに今どこにいるかがわからない。


 今の霧刃ならば都市での生活許可についても、中央都市の議員共も首を縦に振るだろうと俺は考える。それにこの得体の知れない奴も白銀鷲の特殊個体を相手に勝利したのだと仮定する。もしこいつが味方になるならその戦闘力の価値は計り知れない。


 それに俺も久々に霧刃に会いたかった。彼に会ったのはもう3年前のことだった。


 何より章斗に息子と一緒に人生を送らせてやりたい。


 俺はその為に知恵を絞る。


「こうするのどうだ?長野と岐阜の県境で起きたテクノとサギルの大規模な戦闘があっただろう。あれの調査を本腰を入れてやってみるのは。そうすれば調査班の奴らも大量に投入することができる。」


サギル──動物のように全身を毛で覆われており、長い手足を持つ異形種。顔はどことなく人間に似ているが身長が高く、大きいもので3mの個体も見つかっている。だが知能が低く、簡単な道具しか扱うことができない。文化も発達しておらず、原始的な生活を送っている。地上では1番数が居るとされている。


 以前このサギルとテクノがぶつかって大規模な戦闘が起きたのが観測されていた。


 高火力な兵器で攻撃するテクノに対してサギルは数に物を言わせた突撃を行った。結果はテクノの勝利だった。戦況を支えていたギフト持ちのサギルが狙撃され、撤退に追い込まれたのだ。


 戦闘発生時はこちらが敵を作らないように遠距離からの監視のみを行っていた。その後、敗走したサギルがどうなっているのか、テクノ達はどれだけの兵器を消耗したのか。調べておきたいことは山ほどあった。


「そうか!それならば自然と大勢の隊員の力を借りられる!それにこの観測機が見つかった木も十分に捜索範囲に入る位置だ!」


 徐々に章斗の表情が明るくなっていく。どうやらこれからやるべきことは決まったようだ。


「どれぐらいで実行できそうだ?」


「必要物資がこの都市だけでは賄いきれない。中央都市の協力を仰ぐ必要がある。あっちだって異形種に関する情報は少しでも多くほしいはずだ。ここは問題なく承認されるだろう。ネックになってくるのが…」


 そこで章斗の言葉が止まる。おそらく考えていることは同じだろう。


「時間か。」


「ああ。短くて2か月。長ければ最悪、半年程度かかるかもしれない。」


 半年…5歳の子供が外で生きていくにはあまりにも長い時間だ。今は生きているかもしれないが、半年も時間が経てば死ぬ確率はどんどん上がっていく。


「なんとかするしかないな。」


 俺はそう思いソファから立ち上がる。


「もう行くのか?」


「せっかく久しぶりにやることが見つかったんだ。時間が惜しい。」


 扉の前まで行きドアを開けようとしたとき、再度章斗から声を掛けられる。


「海。本当にありがとう。お前に任せて正解だった。」


「まだはえーよ。その礼は霧刃を保護する時まで取っておくぜ。」


 そう言って俺は章斗の執務室を後にした。


────────────────────────────────────


「霧刃。本当によかった。」


 俺は海が持ってきた息子が写っている写真の表面を撫でる。


 写真の中の息子はとてもいい笑顔をしているように見える。


 先日、息子の処分が最終決定されたとき、自分の妻を失った時と同じくらいつらかった。娘が居なければ俺は生きる意味を失って都市の外に飛び出していたかもしれない。


 それがどうだ。たった1日でこんなに希望が見えてくるとは。


(少なくともまだ生きてる。まだ助けられる可能性がある。)


 それだけでどんなことでもできるような勇気が湧いてくる。霧刃と直接会ったのは2日も前の事だった。


 高山都市防衛部隊の最高指揮官になったことでやらなければいけない仕事が大量にあった。会いに行くときはもう息子は寝ており、最後に直接笑顔を見たのはもう半年も前かもしれない。


 家族の為に仕事をしているのに、最近はそのせいで家族との時間が減っていた。もう指揮官なんてやめようかと思ったこともあった。だが、自分を信頼して命を任せてくれる隊員のことを考えるとやめられなかった。


 だが、今はやめなくてよかったと心からそう思える。この地位に居なければ息子を助け出す計画を立てることはできなかっただろう。


(絶対に助け出す。もう酒を飲んで泣いている暇なんてない。)


 そう硬く決意し、大規模な調査を行うための準備を進めていった。



読んでいただきありがとうございました。

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