強制的な始まり
初投稿です。
よろしくお願いします。
視界が霞む。体中が痛みで悲鳴を上げている。
うつ伏せの状態で首を動かし、重い瞼を上げて周りを見渡す。
周囲には小さな鳥が3羽、巨大な鳥が2羽、計5羽の死体が転がっている。
そして、自分のすぐ横に下半身がない人のようなものが気を失っている。
(やった…生き残ったぞ…)
できることなら全力でそう叫びたい。だが、声が出ない俺には口角を上げるくらいしか、喜びを表現することができない。
体だけでなく意識ももう限界だ。しかし、とりあえず目の前の危機は脱したのだ。
(少し休もう。)
そう思うと同時に再び瞼が落ち俺は気を失った。
────────────
目覚ましの音と共に窓の向こうから低い男の人の声と何人か子供の声が聞こえてくる。
「 ──こうして絶滅の危機に瀕した人類は、新たに手に入れた”ギフト”を駆使して今日まで生き延びてきたのだ。
凄まじい炎を操る者、自身の何倍もの剣を恐ろしい速さで振り回す者、全ての虫を支配した者。彼らは後に人類の守護者と呼ばれるようになる英雄達だった。
君達も彼らのような英雄を目指すんだ。そして!ギフトを使いこなし!異形種(いぎょうしゅ)と対等に渡り合えるような力を手に入れるんだ!」
「「「「「はい!」」」」」
「よし、じゃあ今日は基礎トレーニングの後、仮想訓練室でチームでの連携の訓練をやるからな。
まずはダッシュからだ。始め!」
「「「「「はい!」」」」」
外から元気な声が聞こえてくる。
(これはいつもの天井…?あれ?俺は外に出て…はぁ夢か…)
病室の換気用の窓から聞こえてくる楽しそうな声。何度そこに混ざりたいと思ったことか。
横の時計が2250年5月4日07:01分を表示している。
(今日も学校には行けなかったな。)
そうしていると窓と反対側の扉が開き、白衣を着た俺のおばあちゃんがこっちに来る。
「霧刃(きりは)くんおはよう。調子はどう?何か体に異常はない?」
俺は笑顔を作り異常がないことを伝える。
「そう。よかったわ。さあ、冷めてしまう前に朝食をおあがりなさい。」
そう言うとおかゆをスプーンに乗せ、寝たきりの俺に少しずつ食べさせてくれる。
俺は今年で5歳になる。俺の体は四肢が動かない。おまけに左目と左肘から先は無い。更には喋ることもできない。
「せめて話すことができれば良かったんだけどねぇ。」
もはや何度聞いたのかわからないおばあちゃんの独白だ。
俺は苦笑いの表情を浮かべる。
「ああ、ごめんなさいね。そんなこと、あなたが一番望んでいるわよね。」
おばあちゃんは俺が物心ついたときから俺の世話をしてくれている。とても優しくてよく笑顔を浮かべる人で、俺に毎日昨日あったことを楽しそうに話してくれる。
母親は俺を生んだ時に死んでしまったらしい。父親は昔はよく来てくれたが最近はその回数も減っていた。俺の事なんて忘れてしまったのだろうか。
朝食を食べ終わり、日課の検査を済ませる。するとだんだんと睡魔が襲ってくる。
(あれ?昨日はよく寝たはずなのにまた眠くなってきた。なんで…だ…?)
俺は必死に頭を回すが眠気に勝てず、視界が再び暗くなる。
「ごめんなさいね。あなたのことは絶対に忘れないわ。」
そのおばあちゃんの声が聞こえたのを最後に俺は眠りについた。
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ガタガタと音が聞こえる。どうやら俺は何かの箱の中に入っているようだ。
「それで最後か?」
「ああ。でもいったい、何が入ってるんだろうな?このポイントに置いてくるだけで良いという命令だったが…」
「大方、偵察機とか探査機とかだろ。さっさと戻るぞ。」
「了解。」
そう言うと何人かの足音が離れていく。そして、しばらくすると箱の上が開いた。
上から眩い光が降り注ぐ。太陽の光だ。
(ここは外?…初めて見た。あれが本物の太陽。暖かい。じゃなくて、なんで俺外に置いてかれてるんだ?さっきの人たちは?)
体を見ると服の上に何かの機械が巻き付けられている。首を動かし何の機械か確認しようと動いてみる。
そうしていると上空から大きな影がこちらに向かって降りてくるのが見えた。
(何か、何かが来る。早く逃げないと!)
なんとか逃げるために体を動そうとするが、箱から出ることすらできない。
この状況は非常に不味い。
(俺のギフトじゃ戦えないし。そもそも走って逃げることもできない。)
「ピギャァァァァァア!!」
甲高い鳴き声と共に急降下してきた巨大な白い鳥に体を鷲掴みにされる。
(ぐああああ痛い痛い痛い痛いぃ!!)
爪が皮膚に食い込み血が出ている。四肢の痛みは感じないが胴体自体を掴まれている為、激痛が走り続ける。
上空から見てみると自分が入っていた箱以外にもいくつか箱が置かれているのがわかる。
(…あ!あいつあのままじゃ危ない!)
まだ中に子供が入っている箱があった。そこに鋭い爪をもった灰色の狼が襲い掛かる。
「………………」
言葉が出なかった。目の前で今、一人死んだ。自分よりも小さい背丈の子供が。一瞬で血が噴き出しながら肉を食いちぎられていく。
(嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!まだ死にたくない!!)
なんとか逃げようと必死に胴体と首を動かす。しかし、巨大鳥の握力は強く逃げることができない。
そして、しばらく飛び、大きな木の上にある巨大鳥の巣に運ばれてそこに落とされる。
(ぐはあぁっ!いてぇ…体が動かねぇ…早く逃げないといけないのに…なんだあれは?)
そのすぐ後に目の前にもう一つ、何かが降ってくる。白く長い髪。赤い二つの瞳がこちらを見ている。左手は普通だが、右手は黒く指は3本しかない。胴体にも黒い肌の部分がある。
だが、一番驚いたのはそんなことではない。人間なら誰もがもっているはずの腰から下の部分が一切無いのだ。
(なんだこいつ?人間?なんで体に黒い部分があるの?いや、そもそもこいつの体どうなってる?っていうか人間って体の半分が無くても生きられるの?)
一瞬逃げる事忘れ、いくつもの疑問が頭の中を駆け巡る。そうしているうちに二羽の巨大鳥が下りてくる。
(不味い不味い不味い。なんとか逃げないと。)
目線を上から戻すとあの赤い目がまだこちらを見ている。そしてこちらに右手を伸ばそうとして、直後に降りてきた巨大鳥に踏みつけられる。
「っ!?っっっっ!!!」
赤い目の奴の顔が苦悶の表情に歪む。だが、それでも尚こちらに手を伸ばし続けている。
(なんだ?何かを伝えようとしているのか?…あの手を取ればいいのか!)
そうに違いないと思い必死に首を動かし少しでも手に近づく。
(あいつ踏まれたときに一言も悲鳴を発しなかった。多分俺と同じで喋れないんだ。)
喋れない奴が何を伝えようとしてるのか俺には理解できた。
這いつくばりながら顎を使い少しづつ近づいていく。あと少しでその手に触れれる。
だがそこで、降りてきたもう1羽に体を踏まれてしまう。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいい!!!)
飛んでいるときと違い、鳥の体重が掛かっているせいなのか、さっきよりも更に強い痛みが体中を走る。
だがそれでもあの手を掴もうと藻掻く。
(もう俺一人ではここから逃げることもできない…!なら可能性が少しでもある方に…!)
口の端から血が流れ顔は涙と鼻水でベッタベタになっている。おそらく他人から見ればすごいみっともない状態だったのだが命の危機にある俺には知ったことではなかった。
(あと少し!)
必死に体を捩って少しずつ距離を縮めていく。
体を捻ろうとしたとき背中に更に激痛が走る。
(ぐああああああ!!)
何が起きたと思い振り返ると、そこには俺の背中をつつく3羽の小さな鳥がいた。小さいといっても巨大鳥と比べた時の話で、背丈は俺の腰くらいはある。なので俺からすれば普通に大きい。
3羽の攻撃によって少しずつであるが皮膚に傷がつき、出血する箇所もできてきている。
それでも必死に体を動かし、あの手を目指す。
(あと少しぃぃい…!!)
そしてついに髪の毛の先端が手に触れる。
次の瞬間、目の前に居たはずの赤い目の奴が消え、視点が一気に高くなる。
(は?)
俺は今まで激痛が走っていたことも忘れて呆然としていた。そして、動くはずがない俺の腕と足がすごい速さで動き、3羽いた小さい鳥を一気になぎ倒していく。
そしてその死体に向かって俺のギフトが発動する。
その名前は「魂喰(こんじき)」
文字通り自分が殺した相手の魂を食べることができる能力。3羽の魂に黒い霧のようなものが纏わりつきこちらに戻ってくる。
その直後小さい鳥がやられて怒ったのか巨大鳥が2羽同時に迫ってくる。
「「ピギャァァァァァアッ!!」」
(もう無理だ、死んだ…)
そう思った直後に腕が4本に増えてそれぞれ2本ずつ巨大鳥に襲い掛かっていく。そしてそのまま勢いよく喉元を貫きあっという間に2羽とも倒してしまった。
(なんかよくわかんないけど…倒したのか…?)
再び魂喰が発動し2羽の魂に黒い霧が纏わりつきさっきと同じように戻ってくる。
そうして倒したことに安心していると体から黒い塵のようなものが落ち始め、視点が急に低くなり顔が地面と激突する。
(いったい…)
自分の体を確認してみる。
傷だらけだがどうやらいつもの俺の体に戻ったらしい。
視界が霞む。体中が痛みで悲鳴を上げている。
うつ伏せの状態で首を動かし、重い瞼を上げて周りを見渡す。
周囲には小さな鳥が3羽、巨大な鳥が2羽、計5羽の死体が転がっている。
そして、自分のすぐ横に下半身がない人のようなものが気を失っている。
(やった…生き残ったぞ…)
できることなら全力でそう叫びたい。だが、声が出ない俺には口角を上げるくらいしか、喜びを表現することができない。
体だけでなく意識ももう限界だ。しかし、とりあえず目の前の危機は脱したのだ。
(少し休もう。)
そう思うと同時に再び瞼が落ち俺は気を失った。
読んでいただきありがとうございました。
やる気があれば続きを書きます。




