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上書きされた僕の血筋  作者: pipoca
僕の事
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阻止

彼女の命を救うため、まず始めにしなくてはならないことは彼女の死に関する詳しいデータを集めることだった。


現段階では交通事故ということしかわかっていない。いつ、どこで、どんな風にかがわからない限り彼女を外に出すのは危険だった。だが、そうはいっても彼女にだって仕事がある。一日中家の中というわけにもいかなかった。


そんなある日、彼女の職場の前で交通事故が起きた。残された時間はあとわずかだった・・・。


まず人が事故で死ぬ場合、前もって必ず何かしらの警告が発せられる。彼女の場合のように自分の間近で事故が起こることが一番多いパターンだ。


だが、この警告がきたということは同時にその時が近いことを意味する。


しかし、この時点で僕が彼女の死に関することでわかっていたことは車にはねられるということだけで、時と場所はまだ不鮮明だった。


僕はやむをえず彼女に迫りくる自らの死を話すことにした。


彼女はあまりピンときていないようで、どちらかというと自分の死の話より、僕にそんな力があることのほうに関心を示してきた。


まあ無理もない。こっちの世界の知識をまったく持たない彼女に今すぐ信じろと言うこと自体無理がある。しかし、わかっていても何しろ時間がない。


とにかくキツく言って僕のいない時は最低限外を出歩くことを禁じた。


彼女は僕のことを超束縛男だと思ったようで不満をこぼしていたが、事故の詳細がわからない限りはかわいそうだがそうするしかなかった。


それに、この頃から彼女は自らの“死”を連想させることをよく口走るようになっていた。


僕たちはこの頃すでに一緒に生活をしていたのだが、彼女が実家に顔を出しに行った帰り、車に乗った瞬間こう言った。


「お兄ちゃん今日来るって言ってたのに来れなくなったんだって。最後に会いたかったんだけどね・・・。」


彼女はこの時確かに“最後に”と言っていた。すぐに聞き返したのだが、彼女は最後になんて絶対に言っていないと言い張った。他にも出かける際に行きたい場所を聞くと


「最後に○○に行きたい」と言う。


この手の話は一度は聞いたことがあると思うのだが、ある普通の人間が会社に出勤しようと、いつもとなんら変わりなく家を出ようとした。そのとき家族に意味深な言葉を残し出て行った。あれはどういう意味だったのだろうと考えている間に事故の一報が入る。


そう、事故に遭う人間は無意識に自分の死を感じている。もちろん彼女も例外ではない。だが、あくまで無意識に感じていることであって彼女のように本人はまったく気付いていないのがほとんどだ。


となると、実際に死んでしまったときに一番驚くのは本人で、必ずと言っていいほど自分の死を受け入れることができない。


だが、いくら「死にたくない!」と強く願ったところで自分ではどうしたらよいのかわからない。そうなると必ず誰かを探しに行く。親だったり兄弟だったり、恋人や友人。もちろん生きている人間の中で誰かを。


ところが、この行動をとった時点でその者は“さまよえる魂”決定となってしまう。それはその場を動いてしまったから。


死を迎えるにあたって、どんな場合にせよ深く係わってくるある存在がある。それはご存知

“死神”。


一般的に知られているイメージとほぼ変わりはないのだが、実は二種類いる。一つは白の死神。もう一つは黒の死神。黒白それぞれするべき仕事は別れている。


人間は死んですぐに天国へ行くのか地獄へ行くのか決まるわけではなく、簡単に言えば振り分けられるのを待つ“待機所”のような所へまずは行かなくてはならない。そこまでの道案内をするのが白の死神。


ところが、誰でも白の死神の案内を受けられるわけではない。この世界でどんな生き方をしてきたのかでそれは決まる。白の死神の案内を受けられない者は黒の死神が魂を喰らいにやってくる。


黒の死神に遇ってしまったらとにかく逃げるしかない。


生きている人間に霊が憑くのも死神から逃れる手段の一つ。生きている人間に死神は手を出すことはできないから。


一方で死後すぐに死神と会わない者もいる。それは動いてしまった魂。


死後、迎えがくるまでに五秒間かかる。その五秒の間にその場を離れた時点で迷子状態になってしまい、結果さまよってしまうこととなる。さまよえる魂はいずれ黒の死神に追いかけられ喰われることとなる・・・。


さまよってしまった魂が“待機所”へと行くには、やり残したことや誰かに伝えたいことなど自らの思い残したことをやり遂げなければその道は見えてこない。


死んでしまうと諦めるということができないため、必ず達成されなければ長い長い年月さまよい続けるか、黒の死神に捕まるかのどちらかしかない。


もうひとつ、寿命で死ぬ場合にはすでに死神は待機している。死ぬことがわかっているから。


このとき、思い残すことがないよう死神は死んでゆく者の思いを叶えてくれたりもする。あくまで白の死神の場合のみだが。


ちなみに死んではいないが意識がない状態の人間の場合、すでに魂が身体から離れてしまっている状態にあるため、いわゆる“死にきれない”状態が続いている。あくまで死んでいないのだから迎えも来ない。


となると、さまよっている状態になってしまっているため黒の死神のターゲットとなってしまう。


まれに意識が戻るパターンがあるが、それは黒の死神に追いかけまわされ奇跡的に逃げ切れた場合にのみ起こることであって、まず難しい話だ。僕はここに記すことはできても、実際に家族が同じ状態で悩み苦しんでいる人に治療はやめなさいとは言えない。


だが、ひとつの知識(考え)として頭に置いておいてもいいのではないかと思う。知る自由もあれば選択しない自由もあるということだ。


そして人間の死に関することでもう一つ。


どんな場合であっても僕の彼女のように死が迫っている人間のところには、必ずその血筋の者が危険を伝えにやってくる。


僕たちのように力を持つ人間であればそのメッセージを受け取ることができるのだが、普通の人間では何か嫌な予感がすると感じるのが精一杯だろう。


夢に伝えにくることもあるが、夢を見た本人が信じ、受け取ることができるかどうかはわからない。


僕の彼女の場合、彼女の母方の祖母が伝えにきた。まず本人に伝えに行って伝わらない場合は身近にいる人間に伝えに行く。そして、それでも伝わらない場合はその者の繋がりを辿って伝えに行く。


彼女の場合は近くに僕がいたため、このときすでに彼女が死ぬことは知っていたが彼女の祖母は僕のところまで伝えに来た。


ただ、彼女の祖母は彼女の死を伝えに来ただけではなかった。


彼女の祖母は死後、彼女からずっと嫌われていると感じていたという。なぜなら彼女は祖母の葬儀の日、親族は皆火葬場まで行ったのに彼女一人だけは帰ってしまったのだという。


生前は孫が多すぎて皆の名前を覚えておくのが精一杯だった。そのため、一番最後の孫であった彼女との関係はどちらかというと希薄だったという。生前では気づかなかったが実は嫌われていたのではないかと死後初めて思ったらしい。


そのため彼女の死を知り、なんとか彼女を助けたいと思い、僕のところまで孫をたすけてくれと言いにきた。


普通の魂は消されることを恐れ、自ら僕に近づいてくることはまずないのだが彼女の祖母はグイグイきた。


「わかった」と言っても


「何とか助けてやってほしい」と何度も頼みにきた。


とりあえず僕は彼女にこの話をして彼女の祖母に対する思いを聞いてみた。


すると、彼女は決して自分の祖母を嫌ってなんかいないと言った。葬儀の日に皆より先に帰ったのも胃腸風邪で高熱がでていたためだった。


そこでまずは彼女の祖母の誤解を解くことにした。そうしなければこれから先も何度僕のところへ来るかわからない。


彼女の祖母なだけにあまり無視もできない。そのため僕は彼女に祖母の墓に行くように言った。


彼女が行く時間に合わせて祖母を墓まで行かせるようにして彼女は母親と共に墓に向かい、無事祖母と会えたようだった。彼女に今の祖母が見えなくても、それ以降彼女の祖母が僕の元へ来ることがなくなったということは、彼女の気持ちが伝わったということだろう。


その後、僕は自分の母親にも協力してもらい彼女の死を無事防ぐことができた。


なぜ元々力のない母が協力することができたのかはもう少し後で話すことにし、命を分けた彼女と僕のその後の生活からまずは話すことにしよう。

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