死ぬ女
彼女と子供を失った僕はその傷を埋めようと毎日毎日遊びまくった。
二度と本気の恋愛などする気にはなれず、誰ともきちんと向き合おうとしなかった。僕にとって都合のいいように動いてくれさえすればそれでよかった。アホな僕にはそうすることでしかこの埋まることのない孤独感を一時でも忘れる方法は見つからなかった。
僕のことを何も知らないのに「好き好き」と群がってくる女をどこか見下すことで自分を保っていた。そんな生活が半年程続いたある日だった、あの女が現れたのは・・・。
僕の働いていた店に友人と二人でやってきたその女の最初の印象は“軽そうでいて気が強く生意気そう”だった。
だが、かわいそうにあと数ヶ月の命だった。病気だとかそんなではない。いたって健康そうだ。
この女は交通事故で死ぬ運命にあった。
そして心は普通の人間より黒かった。死んだ後はまず地獄行きだろう。死ぬまでの数ヶ月間、僕はこの女も遊んでやろうと考えた。まず間違いなく放っておいても僕に言い寄ってくるタイプだ。僕は待った。・・・ところがこの女は僕のことなど無視して連れとばかりしゃべっていやがった。
僕は女に自分から声を掛けることに抵抗があった。それだけ自信があったのだが、この女は一向に声を掛けてくる気配がない。腹が立った僕は自分から声を掛けてしまった。だが声を掛けた後は実に簡単だった。すぐに二人で会い、その後も会い続けた。
会う度に今回で捨ててやろうと思うのだが、気づくとまた会っている。僕は自分の心が動かされつつあることに気づいた。しかし彼女はもうすぐ死ぬ人間。僕は彼女にこれ以上先に二人が進むべきかどうかを決めさせることにした。
少々卑怯かもしれないが僕は自分で答えを出すことができなかった。これ以上先に進むということは彼女の命を救わなくてはならなくなるからだ。
通常、人の人生をいじることは禁じられていて、もし死ぬはずの人間を意図的に救ってしまった場合、それはそれは重い罰が与えられる。へたすれば自分が死んでしまうほどの罰だ。しかし僕たち鬼の子供は一人だけ命を救うことが許されている。その一人とは自分のパートナーにする女。命を救った時点でその女は生涯のパートナーとなるのだ。
どんな人間にもいわゆる“運命の赤い糸”の相手がいるのだが、まずそのパートナーと出会うことは難しい。そのため皆自分で選んだ相手と一緒になるのだが、僕たち鬼の子供の場合はその赤い糸のパートナーと一緒になるか、彼女のように死ぬ人間をパートナーとして選ぶかの二択しかない。
兄貴の場合は決められたパートナーと一緒になった。だが普通の人間と決定的に違う点がひとつ。普通の人間は理由は様々あれど離婚し、再婚する場合があるが俺たちにそれはない。仮に別れてしまった場合次はないのだ。まあ、普通の人間でも再婚はいい選択ではないのだが・・・。だが、このときの僕はこれがそんなでかい賭けになるなどまだ知らなかった。知らないまま彼女に選択させてしまった。
まず僕は兄貴の妻と子供のことを彼女に話した。もちろん自分の妻子として。この頃、兄貴の子供の数は二人とお腹に八ヶ月の子が一人。僕たちは身体がなくても子供を作ることができるのだが、いつ身体に戻れるのかもわからないこの時期によくここまで作ったものだと少々呆れてしまう・・・。だが、そんな兄貴の子供達もこの世界では僕の子となってしまう。
さすがに彼女もかなりショックを受けていたようで、
「少し考えさせて・・・。」
と言った。僕はもうこれで終わりだと感じた。むしろそれでいい。今なら傷も浅くて済む・・・。
そうはいってもやはり落ち込まずにはいられなかった。もう二度と本気にはならないと決めていたのに・・・。そして彼女からさよならを告げる電話が・・・。
そう、別れの電話のはずだった。しかし、俺の予想に反して彼女は別れを選ばなかった。何度聞き返しても答えが変わることはなく、この瞬間が二人にとって最初の分岐点となった。




