乗っ取り
神の左腕である鬼がするべきことは、人間世界を腐らせること。悪の心は鬼の力となる。
ひとつ例をあげれば、煙草を作らせたのは鬼だ。煙草が身体に及ぼす害は誰もが知っているはずなのに、一度覚えてしまうとなかなかやめることができない。禁煙を挫折してしまうのはその人間自身が弱いから。罪の重い軽いは関係なく犯罪を犯す人間は心が弱い。よくアニメなどで使われる表現で、耳元で天使と悪魔がささやくシーンがあるが、まさしくあれと同じでどんな人間にも悪はささやく。そこで弱い人間は悪に負けてしまうが、強い心を持っていればどんな誘惑にだって打ち勝つことができる。
日常生活のどんな場面でも今の人間社会には悪の誘惑があふれている。その全てに鬼が絡んでいる。残念ながら今の特に日本には、そんな強い心の持ち主はほんの一握りしかいないのが現状だ。だからこそ、ここ日本では仕事がしやすいのだ。
初めに鬼がとった行動は“俺”を増やすことだった。つまり分身だ。体の一部から計四人の俺を作り出した。そして全国各地に飛ばせ、悪事を働くよう命じた。
Aは麻薬の売人になり、やがてその筋では有名な売人になっていった。そしてBはヤクザの幹部、Cは派手に女遊びをし女たちを狂わせていた。Dは、これといったことはしていなかったが決して真面目とはほど遠い生活をしていた。四人の“俺”のそんな生活は二年続いた・・・。
その間の妻は、俺の身体に入っている鬼の存在にまったく気付いていなかった。
鬼も俺になりきり、妻だけでなく俺に関わる全ての人間をだまし続けていた。だが、一人だけ鬼の存在を知ることになる。