見えた
さっそく次の日会社で俺は初めて“力”を使った。
まずは同僚の生い立ちを見てみた。自分の頭の中に同僚の人生がはっきりと写しだされ、なんとも言えず不思議な感覚。まるで映画を見ているかのようだった。さらに人生の中の喜怒哀楽までもが感じとれた。
「なあ、確かお前って二人兄弟だよな?兄貴とは・・・五つ離れてたっけ?」
「・・・そうだけど何で知ってるんだ?前に話したっけ?」
「おう、今なんとなく思い出してさ。」
「そうだっけ?で、兄貴がどうかしたか?」
「いや、五歳離れた兄貴がいたのはお前だったよな~って確かめただけだ。」
もちろん一度だって兄貴がいるなんて聞いたことはない。ただ、これ以上のことを本人に確認することはできなかった。うっかり誰にも話したことがないようなことまで聞いてしまうかもしれないからだ。だが、力を証明するにはこれだけでも十分だった。
昨日とはうって変わって俺は足早に家路を急いだ。
帰宅途中も夢ではなかったことを確認するために道行く人の人生を見たり、少し先の未来を見たりしながら帰った。
「ただいま!聞いてくれよ!やっぱり夢なんかじゃなかったんだよ!」
帰宅するなり興奮して話す俺に、妻は少し驚いた様子だった。
「何を見たの?」
「同僚の人生を見てみた。いい奴だとずっと思ってたが、意外な一面もあることが見れたよ。それに未来も見てみた。いつ死ぬのかも。」
「・・・なんかこわいわね。」
妻はその一言だけ言って夕飯の支度にとりかかった。あきらかに半信半疑な様子だった。そんな妻を見て、俺の興奮も一気に冷めてしまった。
まあ冷静に考えれば俺にしか見えないことであって、「見えた!見えた!」と騒いだところで信憑性には欠ける。なんとか信じてもらえる方法はないものだろうか・・・。
妻の生い立ちを見たところで子供のときからお互いを知っているし、親兄弟に聞いたと思われるのがオチだ。そこで俺は思いついた。
「次の休みはどこかに行こう。」
「どこかってどこ?」
「どこでもいいんだ、とにかく外に出よう。見せたいことがある。」
「いいけど・・・なに?」
「休みになればわかるさ。」
また何か言ってるといわんばかりに「はいはい」と流された。
そして日曜がやってきた。