試す
何とか仕事に出たものの、まったく手につかず何をしに行ったのかわからない状態で一日が終わってしまった。
頭の中を整理したくても、あまりにぶっ飛んだ話のため半日やそこらでまとまるわけもなく、なんだか妻に限らず誰に話したってバカにされ、笑い飛ばされるような気がしてきて増々憂鬱になってきていた。
家に着くと靴をぬぐ前に早速妻は今朝のことを聞いてきた。
「朝の話したいことって一体なんなの?」
「まあ、とりあえず座って話そう。」
そう言ってリビングに向かうと娘の姿が見えない。どうやら早々と寝かしつけたようだ。ここまで聞く気満々で話さないわけにもいかず、バカにされること覚悟で俺は最初から全てを話しはじめた。
女関係や金絡みではないとわかると妻の表情は和らいだが、話しが進むにつれ頭の上に?が無数に浮かんでいるようだった。
「夢なんじゃないの?」
もっともな意見だ。普通の人間なら誰もが第一声にそう言うであろう。だが俺はなぜだか夢ではなく現実である気がしてならない。
「変なこと言ってごめんな。」
いくら俺が夢なんかじゃないと言ったところで誰がこんな非現実的なことを信じる?それぐらいのこと俺にだってわかる。今までだって霊が見えると言ったって信じてはもらえなかった。それと同じことだ。
「・・・試してみたら?」
思いがけず妻がそう言った。
「試すって・・・何を?」
「だって、その鬼の話しではあなたは色々なことができるんでしょ?だったら、やってみればいいじゃない?」
どうやら妻はこの話に興味を持ったらしい。俺自身、今日は一日とても正常とは言えなかったため、普通に夢なのか現実なのか疑ったのならば言われたことを実行してみればよいのだという事すら考えつかなかった・・・・。
恥ずかしいことだが今の俺には妻のこの一言は目からウロコだった。
さっそく次の日会社で俺は初めて“力”を使った。
 




