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死神人間

作者: 雨守霽

この作品は、連載しようとして2話まで書いたものの、構成不足で3話以降が書けなくなってしまったものです。2話まで掲載してしまうとキリが悪いので、短編として一話だけ掲載することにしました。

世界観、味わってください。

―――眼がひらいた。いつも通り、ソファーで横になって寝ていた。眼がひらいて、最初に映ったものは、灰色のソファーの背もたれだった。体をゆっくりと起こして、

次に映ったものは、ぐちゃぐちゃに散らかったリビング。瞼を右手の人差し指で無気力にこすった。

目脂がボロボロと人差し指に落ちてきたので、その指を今度はソファーにこすり付ける。そして俺はソファーから立ち上がって、

キッチンにある箱からカップラーメンを取りに行った。

 ソファーの正面にある真っ黒の大きなテレビなど、見向きもしない。

 「あ。」

 思わず声が出た。

 箱買いしてあった非常食のカップラーメンが全てなくなっていたのだ。家に籠って…2週間ぐらいか。一日二食摂っていれば、そろそろなくなるのも無理はないだろう。

 「…買いに出るか。」

 カサカサの声で独り呟いてみた。

 俺はあの日から着替えていないし、風呂にも入っていない。…いや、風呂には一回だけ入ったっけ。

 どちらにしろ俺のこの状態が、不衛生であるという自覚はあるので一度風呂に入ってから買い出しに行こうと思う。

 風呂に入っていなくとも、俺自身は別に不快ではない。ただ、買い出し先にいる他の客が俺を見ると不快に思うだろうから、気を遣っているのだ。

他人を気遣えるほどにまで精神状態が落ち着いたのだと思うと、時間には感謝したい反面、ずっと辛いままでよかったのにと思ってしまう、おかしな自分がいる。

 洗面台の前に立つと、その鏡に汚らしい男が映った。俺か。シワだらけになった喪服を着た、鬚がだらしなく生えて、ニキビ面を引っ提げた、

情けない涙目の俺が鏡に映っている。

 風呂に入ろうと思っていたが、先にこの喪服を仕舞ってしまおうと思う。

そこで寝室に移動し、喪服を脱ぎ、ハンガーに引っ掛け、もう二度と出せないのではと思うほどの、クローゼットの奥のほうにしまっておいた。

 そしてようやく、久しぶりの風呂に入った。バズタブにお湯を入れている間に、腹のあたりから先に、石鹸が泡立ったタオルで擦っていくことにした。

タオルには確かに泡が立っているのだが、体に泡が付くや否や、まるで身体に泡が吸われているかのように、ジュウっと音を立てて消えた。

構わず全身を擦ってから一度タオルを洗ってみると、今までに見たことがないくらいの垢が、排水溝へ流れていった。

タオルを少し絞ってから、石鹸をもう一度泡立てながら、タオルを持った左手が気になり、手のひらをこちらに向けた。

左手首に醜い瘡蓋ができている。ああ、そうだった。…死のうとしていたんだ。恐らく一週間と少し前、剃刀で腕の血管をえぐるような深い傷をつけて、

その傷口を、水が張られたバスタブにつけたのだ。血を全部抜き出して、死ぬつもりでいた。

…情けないことに、次々に浴槽の水に流れていく赤黒い血を見て、思い出したように、何か急に恐ろしいものを感じて、死ねなくなってしまった。

その少し後に、大切だった人の言葉を思い出してしまって、もう死ねなくなった。

シャワーから勢いよく出るお湯を、瘡蓋に当てていじめてやった。

 俺は、死ねなかったのか。


*


 

 風呂から上がり、適等にクローゼットから手に取ったTシャツとズボンが、喪服と同じような黒色をしていて、思わずわらってしまった。

手に取った服を着て、財布を捜した。泥棒が入った後みたいになってしまった俺一人だけの家のうち、まだ散らかっていない玄関の靴棚の上に捨ててあった。

その理由は当然、あの日、二週間前からずっと、外に出ていないからである。

そのまま靴を履き、相変わらず建て付けの悪い引き戸を、ギギギと引き開けた。

 時間は夕方のようで、西日がキラキラと道路を照らしていた。スーっと、肺胞がいっぱいになるまで外の空気を吸った。久しぶりに地面を踏んで、歩き出した。

右頬にあたる夕日があたたかい。歩いているのは普通の町並みなのに、久しぶりに外に出て、さらには感傷的な気分でいるものだから、

夕日に照らされてキラキラしているここを見ているだけで、不意に涙が出そうになる。いけないな、これは。

すこし交通量が多い道を横断して少し行くと、商店街に入る。アーケードが頭上に被さっているような、そんな大きなものではなく、ただ古臭い店が連なっている、

名ばかりの商店街。店の多くはもう潰れていて、看板があっても錆付いていて読めないようなところばかりだ。

 そんな商店街の、入り口のような場所には、廃線になった鉄道の駅跡がある。大きな駐車場があったようで、駅の周りだけが変にだだっ広い。

ホーム跡は雨曝しになっていて、コンクリートの亀裂や点字ブロックの割れ目からやれ茎が出ている。

駅が現役のときに使われていたであろう地下道が、ひっそりとホームの脇にある。向かいのホームへ移動するときなんかに使われていたのだろう。

 鉄道という存在を失ったことで、一気にざびれてしまった。どこか懐かしいにおいのする廃駅だ。

 しかし地下道は、いまだに誰かが使っているのだろうか。蛍光灯が点滅しながら、暗い地下を少し、明るく照らしているようだった。

 …地下道に這入っていくことにした。地下道を使っても、近道になるわけではない。…ダジャレではない。

商店街につながる道を、一旦外れることになるので、むしろ遠回りになってしまう。

…だから、なぜあの時、わざわざ地下道に這入って行ったのか、よく分からない。時々こういう時がある。どういう思考回路で行動したのかが分からないこと。

何者かに操られているように…いや、川の流れに流される木の葉のように、自然に、その動きが当たり前かのように行動すること。そして後から妙な気味悪さを覚えるのだ。


*


 一歩、一歩、地下道の階段を下りていく。下に下りれば下りるほどに、コツン、コツンと、俺の靴の音が大きく聞こえるようになる。

階段を下りきって右手に道がある。右折し、歩を進める。薄暗い中灯る、蛍光灯の点滅の仕方がとても不気味で、心臓が厭に脈打つ。

 コツ、コツ、コツ。

 三歩歩いたところ。

 自分の靴の音。

 耳元。

 声。

 「…おやおや、こんなところに、また珍しい。」

 「うわああああああああああああ!!!!!!」

 右耳に流れるように入ってきた!男の声だ。だがこんな場所なもんで、それを不気味に感じて、俺はありったけ叫び散らす!

 「ああああああああああああああ!!!!!!」

 そして地下道の出口に向かって走る走る。

 階段を上る上る。

 カンカンカンカンと駆け上がった。

 走っていてまた男の声が聞こえたが振り向く余地はなく、出口へ走った。

 地下道を出た。

 いやはや恐ろしかった。何だったんだ一体。幽霊かその類か。はたまた不審者か。不審者であってくれよ…恐ろしい。

 …なんだか暗いな。地下道入出口の屋根から出て、空を見上げる。…真っ暗になっているではないか…!待て、どういうことだ?

地下道に這入ったのは、まあ夕方だったが、まだ少し明るさが残っているはず…。地下道に這入ってそんなに時間は経っていないし…。

 なにかが、おかしい。おかしいぞ…

寒気がする。先ほどの男の声に続きこれだから、正直チビりそうだ。

真っ暗な廃駅に光が一つ。それは駅のホームの天井にある蛍光灯で、少し青白く、誘うように光っている。

 やはりおかしい。

駅のホームは雨曝しになっていて、天井はおろか、屋根なんかついていなかったじゃないか…

 「やれやれ、どうしたものかねえ」

 「うわっ!」

 後ろを振り返る。そこにいたのは…190cm近い長身でガタイがよく、どんな時も常に黒っぽいジャージを着ていた、彫が深く日焼けした男性教師、

中学時代の恩師、藤井先生だった。

当時の俺は…ヤンチャばかりしていたので、いろんな先生によく怒られていた。

その中でも藤井先生は(その見た目も俺の叱り方も)群を抜いて恐ろしい先生だったと、よく記憶している。

 「藤井…先生…です…よね…?」

目の前のそれは、やはりあのときの藤井先生そのままだが…違う。何か違和感があるのだ。

藤井先生の中に誰かがいるような…いや、藤井先生のような誰かであるような…。

ああ、そうか。声が違う!藤井先生はもっとこう、厳しそうなオッサン、といった具合のガラガラ声だったが、目の前の藤井先生っぽい何か…藤井先生擬きは、

本物に比べてあまりに声が上品すぎる…。本物の藤井先生がオッサンなら、この藤井先生擬きはおじさまといった感じだ。

低い声が透き通って、流れるように耳に入って、鼓膜を心地よく震わせる。…落ち着く声で言った。

 「ははっ、その藤井先生という人は君にとってよっぽど怖い人なんだろうね。」

 「やっぱり、藤井先生じゃない…?」

 そう俺が言うと藤井先生擬きは深く頷いてから、そのいい声で話しを始めた。

 「ああ、いかにも。私は君たち人間が言うところの、死神だ。おお、目をパチクリさせて、混乱しているみたいだね。まあ無理はないよね。

だって恐怖の対象の知人とこんなよくわからない場所で出会って、それで突然いい声で、死神だ~とか言い出すんだから。仕方ない仕方ない。」

 自分の声がいい声って自覚してんのか…。ナルシスト…とは少し違うのか…?でもどうしてかこういう人種(?)って少し軽蔑してしまうよな。

藤井先生擬きは俺のやや冷たい目線に構わず話を続ける。

 「君みたいに霊(実際の漢字は雨かんむりに神)が見える人間はそういないからね。テンション上がっちゃうなあ。

私くらいの靈が実態として見えるなら大体のものは見えるだろうね。でもまあ一応試しに、あれを見てみてよ。」

 そう言って藤井先生擬きはすぐそこの駅のホームを指さした。ホームにはいつの間にか沢山の人…がいて、電車を待っているようだった。

 しかしこの線路は何年も前に廃線になったはず。そうなると、この場所は…。

 「あれは…電車を待っているんですか?」

 「ああそうだよ。冥界鉄道と言ってね。表の世界にあった線路が廃線になったことで長年あった結界が崩壊して、駅だったこの場所に歪みが生じたんだ。

ほったらかしにしておくのはもったいないってことで、新しい冥界行きの駅を作ってみたんだ。」

 藤井先生擬きは線路が続く東と西をキョロキョロと伺いながら話した。話し終えたそのタイミングで、電車の汽笛のような音が西から聞こえた。

 「おっ、来たよ来たよ~。冥界鉄道、略して冥鉄!赤いボディーが今日もイカしてるねえ~!」

 テンションが急に高くなった藤井先生擬き。藤井先生はこんなこと絶対言わないだろうに。見た目と言動が合ってなさすぎる。

ホームの前に電車がゆっくりと停車し、ガラガラっと自動的にドアが開いた。この電車には…見覚えがある。小さな頃、まだ廃線になる前に乗ったことがある古い車両だ。

谷汲の駅から山を下って、ここ北方を通って岐阜市街まで行くことができた…名鉄!ええっ!?おいおい、冥鉄って、狙ったのか!?それともたまたま!?

 「今乗っていったのは、死んでから49日が経った死霊だよ。見えていたよね?うん。じゃあ、あれは見えるかな?」

 藤井先生擬きは、電車に乗ってしまって誰もいなくなったホームを指さした。俺には何も見えないが…擬きには見えているようだ。

 「なるほど、純粋な魂とか本物の神様みたいなものは見えないってところか。」

 「え、そこに本当にいるんですか、神様?神社にいるもんじゃ…?」

 「こら、そこらの神社にいるやつらと本物を一緒にしちゃいけないよ。普通の神社にいるものの大半は、ただの死霊だ。

どうも魂のご加護をされているらしい。神に選ばれた子っていうのは、ああいうのを言うんだよ。

私もああいう魂を実際に見るのは久しぶりだよ…。ああこっちに来られる。ほら、頭を下げなさい。」

 藤井先生擬きは、俺の首根っこを掴み、勢いよく頭を下げさせた。…こういうところは藤井先生っぽいんだな。

 「いってらっしゃいませ。」

 藤井先生擬きはそう言って、見えない何か達にお辞儀をし、見送った。

 「明治の頃だったなあ、前回は。そのときは鉄道じゃなくて渡し舟なんだけど。死霊になって帰ってきた彼に聞いてみたんだ。現世で何をしたって。

そしたら、難問を解いてきたって一言だけ言って船に乗っていってねえ。あれはさぞ素晴らしい科学者か数学者になったんだろうねえ。

新しいあの魂が現世で何をするのか、楽しみだよ。きっと大物になる。生まれつきあんな神が憑いてるんだから、間違いないね。ああごめんごめん。」

 なんというか、知ってはいけない真実を知ってしまったような気がした。ええ、生まれつきって、そんなんチートじゃん…。ずるいよ…。

 「そうだなあ、神様の相手は君はできないだろうから、死霊の道案内とかかなあ」

 藤井先生擬きは急に脈略のないことを言い出した。短いひげを左手で触りながら、何かを考えている風である。

 「え。な、なんの話です?」

 「なんの、って。君みたいな見える人間が黄泉の國に迷い込んでくるなんて、なかなかないことだからね。仕事をしてもらおうと思って、死神の。」

 当然のような、自然な受け答えをしてきた。そんなノリで頼んでもいいものなのかよそれ!…やっぱり、目の前の藤井先生擬きは…本物の死神なのかな…。

にわかには信じがたい。本物の藤井先生の性格が死神みたいであるのは確かにそうだが…この目の前の藤井先生擬きはそうじゃない。ただのおじさまだ。

まあどうもやはり、目の前のそれが、藤井先生ではない何かであるのは確かなのだろうな。

 「死神の仕事、って…。やっぱり藤井先生じゃ…。」

 「さっき説明したじゃない。はは。ああ、そうだね。君の名前、聞いていなかったね。私は宵っていうんだ。君の名前は?」

 「…晴人。寺井晴人です。」

 本物の藤井先生の常連客。常習犯。中身は違うとはいえ藤井先生に自己紹介をするというのは…全く、変な感じだ。

 「ふうん…。晴人、ね。そうだね、晴人君って呼ぶことにするよ。」

 ちなみに本物の藤井先生には呼び捨てで呼ばれていた。続けて宵と名乗る彼はこう話した。

 「晴人君、私たちは君の力を求めている。」

 …何だ?何を言われているんだ?その言い草はまるで怪しいスカウトみたいで、力を貸したら後からすごく面倒なことになりそうなニオイがする。

 「ええ、突然そんな怪しいことを言われても…。」

 困惑する。しかしそんな俺に構わず、宵は怪しいスカウトを続ける

 「怪しくないよ。スカウトだよ。転職、してみないかい?死神に。」

 「どんな転職だよ!」

 死神って役職名なのかよ。人種みたいな、神様の種類ってわけではないのか…?すると…宵はあからさまにしょんぼりとした表情になって話を続けた。

 「私たち死神は本当に足りていない。最近は死ぬ人が多いからね。本当に、本当にもう無理なんだ、本当に。本当に過労死しちゃう。死神だけど死。」 

 し…。ブラック企業の社員のようなことを言う。表情と言い、リアリティを感じる。少し心配なのでこう尋ねてみた。

 「…死神って死ぬんですか?」

 「何言ってるの。こっちは神なんだよ?」

 宵はキリッとりてそう言った。いやふざけんな!こっちは心配してやったのに!

 「死んでしまえ!!」

 「理不尽だなあ。殺しちゃうよ?」

 ひい。藤井先生の顔が薄ら笑いを浮かべる。…俺を生徒指導室に連行する前、こういう表情してたなあ…。

 「本当に死神ならそんな怖いこと言わないでください…。ていうか、ずっと気になってたんですけど、なんで見た目が藤井先生なんですか?死神って骸骨じゃ…?」

 一番の突っ込みどころだ。

 「いや、骸骨に見えるのが今のところ一般的だよ。でも若い死霊は私たちのことがトラウマレベルで恐怖を感じているものに見えるらしい。

ていうか、本来はそうなんだろうね。昔の人の一般的なトラウマが骸骨なのかな。最近は骸骨なんてなかなか見ないもんね。戦争もないし。

若い人は…火葬場に行ったことがある人も、少ないんじゃないのかな。最近自殺してここに来た死霊は…ハハ。私がピエロに見えるって言ってたよ。」

 火葬…。まあ確かに、行ったことがないな。いや待て、そもそも何で俺は死神が見えてるんだ?自殺した死霊って…。

 「自殺したって…。俺、死んでないんですけど…。」

 「そうだね。肉体的には晴人君は死んでいない。…でも、心は、どうなのかな?」

 心。…死にたくて死にたくて、仕方がなかった。…ああ、またブルーになってきた。

 「…。」

 宵は俺のシャツの袖を捲りあげた。…その手首を診て、なにか合点がいった風だった。

 「その手首は…やっぱり。晴人君。…いや、私としてはありがたいんだ。労働力が増えるんだから。でも、それは正常じゃない。マトモな状態じゃない。

晴人君はいわば、役が抜けていない状態なんだ。死人の役がね。古い用語では生成って言うんだけど…まあいいや。…どうして、自殺をしようとしたの?」

 …そう、俺は死ねなかった。死ねなかったんだ。いや、死なせてもらえなかったのかもしれない。…あいつを、追いかけることができなかった。

あいつが死んで二週間。未だに、現実を受け入れられない。あんなに元気で、あんなにまっすぐで、あんなにいいやつで、あんなに…名前の通り、明るくて…。

初めて、一緒にいたいって、そう想えた。素直にそう想えたんだ。それでも俺は素直じゃなくて、想えただけだった。想えただけで、終わってしまった。

もう少し長く、あいつといられたのなら…素直に、なれたのかな。一緒にいたい。一緒にいたいと想った。そしてそれを伝えたかった。何より伝えたかった。

だから…死のうと思った。死ねば、逢えると、そう思った。もしも俺がそんなことをあいつに打ち明けたら、絶対に許してはもらえないだろう。それでも…。

 「ううっ…。うううっ…。」

 「ああっ!ごめん!ごめんって晴人君!野暮だった!愚問だった!すまなかった!ああ本当に、すまないすまない!」

 謝り倒す宵。これは…間違いなく藤井先生じゃないな…。藤井先生なら謝るどころか、きっと逆ギレしてる。宵はこのままだとずっと謝り倒してきそうだ。

なんとか話をしなくては…。

 「いえいえ、こちらこそ突然泣き出してすみません…。」

 涙をその腕で拭い、鼻水をズズッと啜り、しやっくりを繰り返しながら話した。

 「まあ落ち着いたときにでも話してよ。ああ、うーん。嫌な質問ばかりで申し訳ない。…晴人君、君がもし、かけがえのない大切な誰かを亡くして、

未練があってこうなっているのなら、どうか答えてほしい。その誰かは、何日前に亡くなったんだい?」

 「…14」

 そう俺が言うと、宵は…笑ったように見えた。若干口元が緩み、眉が動いた。不謹慎な奴だなと思ったが、次の宵の言葉で、そんな思いは吹き飛んだ。

 「…私たちと一緒に働けば、もう一度その人に、逢えると言ったら、どうする?」

 「えっ!?逢える…!?」

 思わず藤井先生…宵の肩を掴んだ。藤井先生の肩には、やや腕を斜め上に揚げないと届かない。いや、俺の身長が低いというわけではないと思うのだが…。

藤井先生の肩から手を離すと、宵は話し始めた。

 「ああ。死霊は49日目に冥鉄に乗って冥界に行ってしまうけど、それまでは現世でウロウロしているんだ。現世での人生によるけれど多くの死霊は、

逢いたかった人に会ったりして、未練を消化している。だから絶対に逢える。そして今の君なら逢って話ができる。約束だ。」

そう言って宵は俺に手を差しのべた。ここで握手か…。怪しすぎるし嘘くさい。…だけど、断るなんて選択肢は、もうなくなった。

なんせあいつに、逢えるんだ。…伝え、られるんだ…!。

 「…働かせて、ください…」

 「ありがとう。人間なのに、死神の仕事を買ってくれて。君は…死神人間だね。ハハ。これから、よろしくね。」

 もう一度逢って、伝えるんだ。あいつと過ごした、短い時間では伝えられなかった、素直になれなかったこの想いを。

想いを伝えたところであいつに得があるかは知らない。自己満足だ。だけど、このまま、未練を残したままの…未亡人には、絶対になりたくない。

 ダムが決壊したように、涙が目からあふれ出した。その場に蹲った。決して嬉し涙、というわけではないけれど、哀しさに満ちていた少し前の涙とは決定的に違う。

今度は宵は謝り倒さずに、黙っていた。

 逢って、伝える。入社したての新入社員が、出世してやると誓うように。誰にともなくひとり、そう誓ったのだった。

こんな具合で物語が始まる予定だったのですが、構成不足とそれに伴ってやる気がなくなったのでここでおしまいです。でも折角なので、今後の展開や設定などを書いておこうと思います。

この後、第二話で宵先生の教え子で寺井の先輩に当たる彼岸という死神の女の子と共に、加茂神社に住み着いている悪い死霊の退治に向かいます。彼岸という女の子は鬼から死神に転職していて、とても力をもっています。寺井が死霊に殺されかけたとき、彼岸に助けてもらいます。力持ちな彼岸ですが、異常な性癖をもっていたりします。

3話以降は北方町の曰く付きの場所を回ってそこにいる死霊の頼みごとを聞いたり、悪い死霊と戦ったりします。ここら辺が構成不足だったところです。

そして最終回。あいつこと、額田明という寺井と事実婚をしていた女の子と対峙します。舞台は大井神社で、大雨の中悪霊になってしまった額田と痴話喧嘩します。


こんな感じです。また詳しい設定は別のところに書こうと思います。

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