救世主となるか
第1試合は6回が終わって、2対0でAチームがリードしている。
近衛はチームメイトと離れて、バックネット裏の客席から観戦している。
「しかしまぁ、ホントにレベルの低い試合だな…」
ピッチャーは力任せに速球を投げて三振を狙い、バッターはブンブン大振りでホームランを狙うスイングをしている。
状況に応じたピッチングやバッティング、守備位置の変更や相手にプレッシャーを与える走塁も稚拙、いや全く出来ていない。
「これでプロになろってんだからなぁ…」
能力云々ではなく、基本から徹底して教えなければならないと思った。
「ところで、自分の能力を見る事が出来るって言ったけど…どんなもんなんだろうな」
先程アイリーンに教えてもらった通り、「ステータス」と唱えた。
すると、ブゥゥン…と目の前に数値を表示してあるパネルが表れた。
【名前】近衛克哉
【年齢】22
【守備】外野手
【投/打】左/左
【打力】76/100 【選球眼】74/100
【長打力】68/100
【走力】82/100
【肩力】84/100
【守備力】93/100
【特殊能力】
得点圏打力 B
満塁時打力 C
アベレージヒッター A
対左投手 B
制球力 A
フェンス際捕球率 S
「な、何だ…これって、スゲー能力値なんじゃ」
まさか、自分がこんなにもステータスが良いとは思ってもみなかった。
「特殊能力って…あのゲームみたいじゃん」
根強い人気のある、某テレビゲームの特殊能力をそのまんまパクったかのようだ。
とはいえ、この数値はあくまでもこの世界に於いての数値であって、元の世界の数値はこれよりはるかに下回る。
「打撃もそうだけど…それ以上に守備と走力が良いんだな」
という事は、元々守備と走力がそこそこ良かったのだろう。
第1試合が終了した。
8回にBチームが1点を返したが、Aチームが守り抜き2対1で逃げ切った。
「次はオレの出番か…不合格にならないよう、真面目にやるか」
客席を立つと三塁側ベンチに向かった。
Dチームはフィッシュバーンというコーチが采配を振るらしい。
近衛は7番レフトでスタメン出場。
1チーム25人という人数の為、何も出来ずに交代させられてしまう可能性だってある。
先行はCチーム、Dチームは守備についた。
Dチームの先発はアシュリーという、右のピッチャーで年齢は近衛よりも少し若く見える。
この国の男は東洋人と同じ肌と、ハーフの様に彫りの深い顔立ちが特徴だ。
頭髪は茶色や金、銀髪が多く、黒髪で一重まぶたに薄い顔立ちの近衛は珍しく映るのだろう。
レフトの守備についた近衛は真後ろのスタンドを見た。
「はぁ~い」
スタンドでミリアが手を振っている。
「とにかく、オレはこのトライアウトを合格するしかないのか」
両チーム無得点のまま、3回の裏へ。
Dチームの攻撃は7番近衛から。
「1打席、1打席が大事になるよな…」
凡退すれば、交代させられる可能性は高い。
ヘルメットを深く被り、素振りを数回行ってから打席に入った。
Cチームのピッチャーは63番のゼッケンを付けた右ピッチャー。
120km/h台のストレートにカーブを混じえたピッチングでノーヒットに抑えている。
(今まで相手にしてきた中で、1番楽なピッチャーじゃん!)
一軍半の選手とは言え、これでも一流の選手を相手にしてきた自負はある。
ややスリークォーター気味のフォームから初球を投げた。
ストレートを投げたのだが、腕の振りが上手く使えてない。
案の定、手前でおじきする棒球だ。
「もらった…」
近衛は上手くボールを捕らえた。
乾いた打球音がグラウンドに響き、打球はグーンと右中間へ。
定位置よりも手前に守っていたセンターとライトが懸命にバックするが、打球は最深部に落ちた。
近衛は快足を飛ばして一塁から二塁へ。
悠々セーフなのだが、二塁打よりもインパクトの強い三塁打を狙った。
「ウソッ、物凄く速いっ…」
スタンドで観戦していたミリアが思わず声を上げた。
ライトがボールを捕って送球するが、既に三塁へ。
「ウォ~っ!スゲーぞ、あのバッター!」
「三塁打じゃん!」
「何モンだ、あいつは?」
バッティングもそうだが、ムダのないベースランニングに驚く。
「スゴい…ひょっとしたら、彼がこのチームを救ってくれるかも…」
ミリアも何かを感じ取ったみたいだ。