異世界トライアウト
アイリーンに言われた通り、ひたすら道を歩いた。
しばらくすると、中世ヨーロッパ風の高い外壁が見えてきた。
「あれがベスパポネットって町か?」
まるで要塞みたいな町だ。
「ったく、何でこんな世界に飛ばされたんだか…」
ブツブツと文句を言いながらも入口の門までたどり着いた。
門の両端には甲冑を纏った兵士が槍を手にしている。
どうやら不審者の侵入を防ごうと門番の役割をしているのだろう。
「オレ、この中に入れるのか?」
近衛は恐る恐る入口に近づいた。
「む?おい、そこのお前!通行許可証はどうした?」
右側に立つ兵士が行く手を塞いだ。
「きょ、許可証?」
勿論、そんな物はある筈が無い。
「キサマ、許可証無しに中へ入ろうとするのか!」
「い、いや、オレはただインチキ臭い女神にここへ行けって言われただけで…」
「何、ワケのわからん事を言ってるんだ!怪しいヤツだな、何処の国から来たんだ、アァ?」
(おい、マジかよ…返答次第じゃ、あの槍で突かれて死ぬんじゃないのか)
そうなると、また別の異世界へ転生する事になるのか。
すると、再びアイリーンの声が聞こえた。
(コラァ、何がインチキ臭い女神よっ!!アタシはれっきとした女神、アイリーンよ!)
(うるせぇっ!さっきから声ばかりで、肝心の姿が見えないじゃねぇか!)
アイリーンは姿を見せようとしない。
(ん~、ゴメンね!この美しくて、超絶可愛い姿を見せてあげたいけど、見たら死ぬ事になるから見せられないの)
アイリーンの姿を見た者は死ぬ運命らしい。
(…ウソつけ!どうせ、ブサイクだから見せられないんだろうが!)
(何ですって~っ!!このアタシがブサイクですって?じゃあ、これならどう?)
そう言うと、近衛の目の前に画像が浮かび上がった。
「な…何だ、これ?」
如何にも的な露出の高いボンテージファッションに身を包んだ女性が、指でハートを作る【キュンです】のポーズをしている。
(何って、これがアタシの姿よ)
確かにスレンダーなボディでモデル並みのプロポーションだが、肝心の顔が横を向いてるせいで見えない。
(顔が見えねぇじゃんかよ!)
(あぁ~、その写真はスッピンで急いで撮ったから顔は敢えて隠したのよ)
女神がスッピンなんて気にすんじゃねぇよ…
(あぁ、もういい!とにかく、この状況を何とかしてくれよ!)
顔は期待できないな、と思った。
(それなら簡単よ。目の前の兵士に、これからトライアウトを受けるんだけど、許可証をウッカリ忘れてきちゃったって言えば、すんなり通してくれるわよ)
トライアウトって、あのトライアウトの事だろうか。
(何だ、そのトライアウトって?)
(何言ってんのよ、アナタの住む世界でもやってるじゃない!)
トライアウトと言えば、戦力外通告を受けた選手が現役続行の為に受けるテストの事だ。
(あのトライアウトかよ?)
(そういう事。今日はこの町を本拠地にしている、ベスパネット・ワイズスがトライアウトを開催してるの。
この世界では、野球は国技として熱狂的な人気があるのよ)
野球が国技。
という事は、日本よりもレベルの高いプレーをする選手が多いハズ…
近衛はトライアウトに興味を示した。