い、異世界…?
近衛はピクリとも動かない。
場内は騒然としている。
「おい、死んだんじゃないのか」
「んなワケねぇだろ」
「でも、全然動かないよ…」
そうこうしているうちに担架を持った救急隊が現れた。
(うゎ…マジでヤバい…動きたくても動かないじゃん!)
必死で身体を動かそうとするが、指一本すら動かない。
いくらダメージが大きくても、指すら動かないというのはおかしい。
(ホントにこれで死んじゃうのかな)
脳裏に死が過ぎった。
初打席でデッドボールを当てられ死亡なんて。
ある意味、球史の残る選手としてこの先も語られるのかもしれない。
(もう少し活躍してから死にたかったなぁ…)
そんな事を思っていると、何処からか声がする。
(…コッチで活躍すればいいじゃない)
ん?
誰だ?
(女の声だ…救急隊員が女性なのかもしれない)
そうに違いない。
(ブッブー、ざ~んねんでしたぁ!アナタはこの先、異世界で野球をするのよ~)
どこか人をおちょくった様な口調だ。
(誰だっ!?何ワケの分からない事を言ってるんだ)
(フフフ、分からない事じゃないのよ。
地球上でのアナタの人生はここで終了なの。
これからは、異世界で活躍してね)
異世界…何なんだ、それは?
女は更に話を続ける。
(ほら~、マンガやラノベでよくあるでしょ?異世界に行った主人公がチートスキルを身につけて勇者になるってハナシ?)
(エッ、エッ?所謂、異世界転生というヤツ?)
(正解~っ!よく出来ました(^ ^)
その異世界転生ね!あっ、紹介が遅くなってゴメンねぇ。
アタシはアイリーン!一応女神だから、ヨロシクね!)
声の主はどうやら女神らしい。
だが、姿が見えない。
(女神っ?何が何だか、サッパリ分からないぞっ!!)
近衛の頭の中は混乱している。
(まぁ、パニくるのもムリは無いわね~。
でも、そういう事だから、今後は異世界でゆっくりお話しましょ)
(ちょっ、ちょっと、待った!オレ、どうなるの?)
(だから~、異世界に飛ばされるの!分かった?)
(何でこうなるの~っ!!!)
再び意識が飛んだ。
「んっ…ん~」
意識が戻り、視界が広がる。
「ゲッ、ここ何処だ?」
目の前には広大な大地が。周りは何も無く、大きな山がそびえ立つ。
地面は草に覆われ、人が一人通るだけの道が何処までも続いている。
上を見上げると、太陽が燦然と輝く。
しかし、太陽の位置が地球上と比べて少し近い様な感じがする。
「オレ、ホントに異世界へ飛ばされたのか?」
異世界だと言われても、地球とどう違うのか。
パッと見では何が違うのか分からない。
(ここはフィレニア国という地名で、早い話が異世界というワケね)
また声が聞こえる。
アイリーンの声だ。
「おいっ、オレはどうすりゃいいんだっ!」
(声に出さなくてもいいわよ~。心の中で会話しましょ)
アイリーンは近衛の心に語りかけている。
(心か…そんな事より、オレを異世界へ連れてどうするつもりだっ!)
(だから~、この土地で野球をするのよ)
(野球…?野球ったって、こんな何も無い場所で野球なんか出来っこ無いだろ!)
(んも~、ほんっとに鈍いわね!何もこんな場所で野球しろなんて言わないわよっ!ここから少し離れた場所にベスパポネットという町があるから、そこのチームに所属して優勝するのよ)
(べ、ベスパ…何だって?)
(ベスパポネット!とにかく、この道を真っ直ぐ行けば着くから、サッサと行けっ!!)
(ハ、ハイっ!)
アイリーンに言われた通り、近衛はその道をひたすら歩いた。
「こんなんでホントに着くのかな」
不安だらけの異世界転生だ。