第八小節:保健室の方
海翔は大丈夫でしょうか?心配な感じです…
「いてぇな!」
あまりの痛みに保健室に連行された海翔。連れてきたのはもちろん麗奈だ。
「ほらほら、動かない、さけばない、生きない。」
「死ねって意味か!それは死ねって意味なのか!お前はそれでも保健室の先生か!」
ひげ面の親父先生の小村。先生らしからない容貌と口の悪さ。一部の生徒には嫌われているらしい。
「先生にタメ語使う奴に生きる資格ねぇだろ!」
「お前が挑発してきたんだろ!」
「挑発に乗る方が悪い。」
麗奈は見るに見かねて海翔の左腕を人差し指でツンツンと触れる。
「いてっ!」
「じっとしてなさいよ!治らなかったらどうするのよ!」
麗奈が急に立ち上がり、声を荒げて怒鳴る。目は潤み、握られた拳は小刻みに揺れていた。
「大丈夫だよ。このくらい。」
そんな麗奈を凝視出来ずに目を反らした。
「大丈夫なのね。じゃぁ、私教室に戻るから。」
顔を少し俯かせて保健室から出る。閉まるドアを眺めながら海翔は溜め息をつく。
「はい、これ着けて戻れ。」
と言われて渡されたのが冷たいジェルパックだった。
「なにがあったか知らねぇが、女の子を泣かすんじゃねぇぞ。」
「あぁ、」
さっきまでの威勢の良さは消えてまた溜め息をついた。
「なぁ、1限サボっていいか?」
小村は終わったとばかりおもい窓を開けてタバコを取り出していた。
「サボりは良くねぇな。仮眠なら許すが。」
「なんでもいいよ。ベット貸してくれ。」
「あぁ、1限終わったらさっさと出ていけよ。お前がいるとタバコも吸えねぇ。」
海翔はベットに潜る。ジェルパックを左腕に着けてそれを放り投げるように体から離す。
「たく、」
海翔は静かに目をつぶった。
「お前も寝てくか?」
小村は保健室のドアを開けてその向こう側にまだいた麗奈に聞く。海翔に聞こえないほど小さな声で。その小さな頭をゆっくりと横に振る。小村は見えない麗奈の顔を見るためにしゃがみ上を向く。
「泣いてると幸せはどこかに飛んでくぞ。」
小村は白衣のポケットから真っ白なハンカチを出した。
その動作を見てか言葉を聞いてか、麗奈は教室棟とは逆の方に走っていった。
「まったく。最近のガキは他人の親切を踏みにじるのがそんなに楽しいかね。」
正直に悩む小村。腕を組み、溜め息をつく。そのあと息を大きく吸う。
「危ない、幸せが逃げる所だった。」
小村は溜め息をつくと幸せが逃げると信じている。すぐに吸えば平気らしい。
ちなみに他人の溜め息を吸い込むとその人の幸せを吸い込むことが出来るらしいが、小村は気持ち悪いと言ってやらないらしい。
「そういえばトイレ。漏れる漏れる…」
保健室には平和が戻ってきた。
「やっと寝れる。」
小村先生は意外と優しいのですよ。不器用なだけです。