第七十二小節:計略
【ペインツ】の合わせが始まる。
ライブステージを借りて、アンプなども設置し、マイクも入れ、ボリュームマックス。
麗奈がマイクテストをすると、爆音でハウリングする。
「バカ野郎!
誰だ!マックスにしたの!?」
全員が顔を見合わせる。
誰もしてない。
まさか。
そんな空気が流れる。
「ごめん。オレだったわ。」
海翔が素直に謝る。
さっきまで泣き顔で、目を赤くただらせていた麗奈に笑顔が戻った。
海翔はボリュームを下げ、
「さぁ、ちゃちゃっと始めるぞ!」
やる気のない、おー、が飛び交う。
「全部通してみよう。」
と言うことで通した。
海翔は息を荒くして地面に這いつくばり、ダイゴはドラムに突っ込み、ユウヤは気絶し、麗奈は再び泣き目だった。
「今になってサボりのツケが回ってきたな。」
ダイゴがフロアタムをどけながら言う。
「誰がサボってんだ?」
海翔は井戸から這い上がるように立ち上がる。
「ぼくちゃんとやったよ。」
ユウヤの口だけが動く。
「わたしのせい……。」
麗奈がすすり泣く音が聞こえた。
「大丈夫だ!
まだ間に合う!」
「晩飯まで後3時間だぞ。」
「間に合わせるしかない!」
「今日は珍しくやる気だな。」
「あっちに負けたら、オレの自由がなくなる。」
「お前ならいいか。」
「よくないわ!」
「いくぞ!」
ダイゴが無理やりスティックを叩く。
そしてまた曲の合わせが始まる。
それを見ていた【グランドマイン】。
「麗奈ちゃんきてるわね。」
「捻れば潰れそうだな。」
「つ、潰すのは可哀想です……。」
「サラちゃん。
潰した後に立ち直れなきゃ、ただの弱い人間よ。」
「キシシ。そうだ。」
「で、でも。殴るのは……。」
「誰が殴るっつった?」
「そう。私たちは普通に演奏すれば良いのよ。」
「普通に?」
「そう。たぶん、私たちの完璧な曲を聞かせれば、」
「戦意喪失。」
「わかったか!」
「は、はい……。」
「てかムイがわかってる?」
「全然わからん!」
「バカ。」
「セン!てめぇ!」
「暴力反対。キシシ。」
「ほら、ケンカしない。
私たちも練習始めるわよ。」
【グランドマイン】は抜け足差し足で自分たちの練習場所に行った。