第五十四小節:水着を買おう!
海翔は既に調布のパムコに来ており、人混みの中、木の下で待機していた。
時間はとっくに1時を過ぎていた。
残念な事にその場には海翔と麗奈しかいなかった。
海翔は深いため息をついた。
「ねぇ、他の4人は?」
「ユウヤは母に捕まって勉強。
ダイゴはめんどいからパス。
カナは連絡なし。
シナは地元のボランティア。」
なにかの陰謀なのか、はたまた悪ふざけなのか。
どっちにとっても、たちのいいものじゃない。
「アンタと2人!」
「しょうがないだろ。」
2人はため息をついた。
「行くぞ。」
「命令しないで。」
2人は肩を並べてパムコに入っていった。
入ると、半袖では寒いくらい冷房がガンガンに効いていた。
「さむ!」
袖無し、パンツの麗奈には少し応えるようだ。
さっさとエスカレーターで三階まで上がると、周りはレディースの服ばかりで、それに伴って多種多様の水着が並んでいた。
「さぁて、なににしようかしら。」
麗奈の言葉が弾む。
足軽に進もうとすると、
「ちょっとまて!」
海翔が肩を掴んで引き戻した。
「オレも行かなきゃダメか?」
「当たり前じゃない。
アンタしかいないんだから選んでよ。」
そこまで言うと、麗奈は海翔から目線を外し顔を赤らめた。
海翔もつられて顔が赤くなる。
「わかった。
さっさと決めるぞ。」
海翔が麗奈の手を取り、足早に店内を歩き回る。
「これなんかどうだ?」
と言って麗奈に合わせてみる。
ヒマワリの模様が入っている、スクミズだったが。
「アンタバカ?
ババ臭いじゃない?」
「世の中のババに謝れ。」
「あ!あれがいい!」
麗奈はそそくさと目的の物の側に行き、自分に合わせて海翔に見せる。
「際どいな。かなり…」
それは白で、大事な所しか隠していないような、紐状のビキニだった。
「これで、全ての男子が私に注目するはずよ!」
「お前は何しにプールに行こうとしてんだよ。
これなんかどうだ?」
「嫌よ。
あ、これもいい。」
「際どいの好きだな。
これは?」
「やよ。
これこれ。」
「それ着て入るつもりか?いろんな意味で注目の的だわな。
これは?」
こんな感じで店内を隈無く回る。
「これなんかは?」
海翔がなんとなく手にしたピンクのフリルつきビキニ。
「いいじゃない。」
麗奈は海翔から受けとり、自分に合わせて鏡で自分を見た。
「これに決めた!」
海翔はふとまわりの商品の値札を見る。
「麗奈、値段平気か?」
麗奈はあっとした表情で値札を見た。
「八千円…!」
学生にとっては触れてはいけない値段だ。
「いくら持ってんだ?」
麗奈は肩を落とし、残念そうにため息をついた。
「五千。」
海翔もため息をついた。
「諦めて安いの探すか?」
「うぅ、」
麗奈はそのビキニを離そうとしなかった。
「どうしてもこれがいい。」
「金無いんだろ。」
「うぅ。」
海翔はまたため息をついた。
そして、ジーパンの後ろポケットから財布を出し、そこから紙を出し、麗奈に突き出した。
「ほら、やるよ。」
麗奈は驚いて頭を上げた。
「いいよ!悪いよ!」
「うるせぇ。後でグジグジ言われる方がめんどいんだよ。
いいから貰え。」
海翔は無理矢理、麗奈の手に紙を渡し、
「四階にいるから。
買ったら来いよ。」
と言って、足早にその場から去っていってしまった。
麗奈は千円札をじっと眺めた。
そして、ゆっくりとレジに向かった。
「一点で、八千円です。」
麗奈は、紙を一枚、レジに渡した。
海翔は、一万円札を麗奈に渡したのだ。
ビキニの入った袋を持って、エスカレーターで四階に上がった。