第五十一小節:ギター
一学期最後のテストが間近に迫っていた。
ほとんどの人がやれテスト勉強だ、やれ赤点脱出だとせっせと勉強しているのだが…
「ねぇ、海翔、Gってどこ?」
「2フレーンのここと、3のこことここと。」
「あっっ、ツル…」
「あんまり無理するな。」
海翔と麗奈は部室で2人っきりでギターを触っていた。
ダイゴもユウヤも勉強と言って帰っている。
「覚えたら、C、Am、F、G、C、の順番にやってみろ。」
海翔のギターを馴れない手つきでゆっくりと鳴らす麗奈。
「一個ズレてるぞ。」
「あ!もう一回!」
「オレも弾きたいからあっちの使えよ。」
部室には予備のギターとベースが置いてある。
それをダルそうに指差して言う。
「嫌よ。あんなボロっちいの。」
と言ってまたゆっくりと弦を弾き始める。
「そんな感じだな。
まだやんのか?」
「当たり前じゃない!
暇なんだから。」
「暇って、勉強は?」
「んな詰まんないことやってらんないわよ!」
海翔は溜め息を吐く。
「たく、次はさっきのコードで8ビート刻んでみろ。」
海翔はそれだけ言って部室にあるギターを取りに行く。
「こうやって、」
ピックを指でつまみそのギタースラッと弾いてみせる。
「うわ、難しそう。」
「馴れりゃ簡単だよ。」
麗奈はゆっくりと海翔と同じことを弾く。
「まず、それをスラッと弾けるようにしな。
次はそれが出来てからだ。」
そこでチャイムが鳴った。
放送で生徒は下校しなさいと流れた。
「帰るぞ。」
「もうちょい、」
「つべこべ言わずさっさと終らす。」
海翔はギターを元あった場所に戻す。
「まって!もうちょっと」
「ダメだ。」
麗奈の持っているギターを取り上げる。
「なによ!良いじゃない!」
「うるせぇ、帰る準備でもしとけ。」
「わかったわよ。」
海翔は自分のギターをソフトケースに入れた。
そして2人は並んで下駄箱まで話ながら歩く。
上履きからローファに履き替え、外に出ようとする。
その時だった。
「雨だ、」
ポツポツと降ってきた。
「傘あるのか?」
「ない。」
「ドンマイだな。まだ平気だろ。」
海翔はビニール傘を片手に外に出た。
「走って帰れば間に合うだろ。」
と言い、麗奈の手を取った。
麗奈は不意をつかれた。
そして走り出す。
まだポツポツだった。
だが次第に強さが変わる。
海翔はビニール傘をさす。
なんとなく麗奈を見ると髪の毛がすでにビッショリだった。
「おい、させよ。」
海翔は傘を麗奈に投げつける。
麗奈は驚いたが上手く受けとる。
「べ、別に平気よ!
それに、あんた、濡れちゃうじゃない。」
「あとこれも頼む。」
背負っていたギターも麗奈に渡す。
「ちょっと!」
「練習するんだろ。持って帰って良いからな。
先帰るぞ。」
海翔はそのまま走りさってしまった。
麗奈は立ち止まったまま、動けなくなった。
雨と言ったら…
と行きたいですが、お互い照れ屋ですから。