第二百十小節:また
雨の中、海翔は傘をさし、駅から自宅まで歩いていた。
珍しく親2人は旅行に出掛け、姉は相変わらず彼氏の家に泊まりだし、妹は友だちの家で誕生日パーティーだそうだ。
尚更楽しくない海翔。
「なんで葵がいない今日なんだよ」
つい愚痴がこぼれてしまった。
溜め息をつき、自宅に着いたのを確認し、門を開けようと視線を上げ立ち止まった。
「麗奈……!?」
もう二度と会うはずのない人が、びしょ濡れになって立っていた。
「かい……と……」
麗奈は海翔の姿を見るなり、倒れてしまった。
「おい! 麗奈!」
海翔は傘を捨て、麗奈の安否を確認する。
外傷はない。
お決まりのように、額に手を当てる。
「あつっ!!」
すぐに手を引いてしまうぐらい熱かった。
海翔は、取り合えず傘を畳んで敷地内に投げ入れ、麗奈を背負う。
そのまま門を開けて入り、玄関の鍵を開けて中に入れた。
靴を脱がせ、そのまま二階の自分の部屋に連れていく。
ビショビショの制服を躊躇しつつ脱がし、妹の服を着せてベットに寝かせた。
水で濡らしたタオルを頭にのせる。
計っていた体温は40を取り、海翔はパニックを起こした。
「かい……と……」
そんな海翔の手を麗奈は掴んだ。
それによって海翔は冷静に戻った。
「麗奈。なんであんなところで?」
海翔は寝ている横に座りそう聞いた。
「はぁ、はぁ、……また……やりたいから」
━━━━また━━━━
それは、記憶が戻ったということであった。
海翔はすぐに問いただしたくなったが、やるせない気持ちの方が強く出てしまった。
━━━━今は葵の方が好きだ━━━━
次がないことなんか、わかっていた。
でも、今だけはいい夢をみさせてやりたかった。
「あぁ、いつかな……」
はぐらかすように言った。
しかし、麗奈にはそれがYESに聞こえた。
にっかりと笑って、そのまま寝てしまった。
罪悪感に等しい感覚。
海翔は掴まれている手をゆっくりとほどいた。
そして立ち上がり、部屋を後にした。