第二十一小節:勉強会
放課後、テスト一週間前になると部活が出来なくなるため暇を持て余す海翔たち。
「なぁ、勉強会しねぇ?」
ユウヤの一言で勉強会をやることになった6人。
6人は6つの机を合わせ、各々勉強道具を出す。
「なにやるんだ?」
海翔はダルそうに頬杖をつき、溜め息を吐くように言う。それを掻き消すような元気が良い声で、
「数学!」
と麗奈は叫んだ。
「数学ですね。」
シナが優しく微笑んで二冊の教科書を机の上に出す。
「Ⅰをやりますか?Aをやりますか?」
「まずは、Ⅰから!」
片手の拳を天井に向けて上げる麗奈。
「なんで、あんなに元気なんだ?」
眠たそうな目の海翔は呟く。
「さぁ?」
ユウヤは首を横に倒した。
「Ⅰの範囲は…多項式から因数分解でしたね。」
シナは教科書を開く。
「教科書は4ページから32ページまで!問題集は第一章全部!」
食い入るように教科書と問題集を見つめ、ノートを開き、ペンを握る。
「麗奈さん、ヤル気満々ですね。」
「意外とコイツ、熱心だな。」
海翔が珍しく麗奈に対して感心した。
「シナちん。なにもわかんないから教えて。」
麗奈は真面目な顔で言ったものだから全員は目を丸くしてぱちくりさせる。
「わかりました。」
シナと麗奈のワンツーマンが始まった。他の4人は各々問題集をやり始める。
「これ、わかんない。」
「やっぱり筋肉バカだな。」
海翔はバカにしたように笑う。いや、バカにしている。カナは勢いよ立ち上がり海翔に指差して、
「なによ!バカじゃないって言ってんのよ!あんたわかるの!?」
と怒鳴り、問題集の応用を指差した。
「それはな、a+bをくくって、中だけを計算すればいいんだよ。そんぐらい簡単だろ。」
そう言ってノートにスラスラと文字の羅列を書いていく。
「答えは、(a+b)(xの2乗+2xy+y)だろ。」
カナは答えを問題集の後ろの方から探し、
「合ってる…」
と負けたような声で呟く。
「やり方わかったか?」
「まぁ、」
「やってみろよ。」
カナは静かにイスに座り、さっきの問題を自分のノートに書いていく。
「違うぞ、ここは、」
海翔の手が一瞬カナに触れ、海翔はノートにやり方を書く。しかし、カナは触れた手がやけに気になり、心臓の鼓動が高鳴るのがわかった。
「だぞ。わかったか?」
相変わらずダルそうな顔でカナを見た。
「バカ?どうした?」
カナは我に帰った。顔を真っ赤にして、海翔の顔を見る。
「なんだよ。」
「なんでもないわよ。」
すぐにノートに目を移しやり方を眺め、書き始める。それをボンヤリと眺める海翔。
「そこ違う。」
人差し指をノートに乗っける。
「うるさいわね!わかってるわよ!」
そこを急いで消す。そして、顔をノートに近づけてカリカリとペンを進める。
「ムカつく。」
その様子を見ていた麗奈はシャーペンの芯を折り、小さく呟く。
「どうしました?」
その声が聞こえた様で、心配をしたシナは顔を机に張り付けて麗奈の顔を見上げた。
「別になんでもない。ここ教えて。」
「はい、ここはですね…」
そして、5時のチャイムが鳴る。
「一般生徒は下校の時間です。」
放送が流れた。
「あ、いつの間に。」
ダイゴは呟く。
「よーし、帰ろう。」
カナが伸びをして、そう元気よく言う。皆は立ち上がり机を元の位置に戻す。
全員で帰る。帰り道、海翔はユウヤとダイゴと話し、麗奈はカナとシナと話す。
いつもの事ながら、海翔と麗奈は一緒の電車り帰る。しかし、この日は麗奈は海翔に顔を見せなかった。一度も。
海翔はその事に疑問をもたなかった。