第二百九小節:解散
麗奈は、久しぶりに部室に顔を出した。
そこには、ダイゴとユウヤが楽器も触らずに話していた。
2人は麗奈が入ってきたことに驚いていた。
麗奈は2人に近づき、こう告げる。
「……思い出した」
言葉にできない驚き。
「ねぇ、今日海翔来るよね?」
その言葉にユウヤ俯いてしまった。
「まったく来てないんだ。麗奈も海翔も」
「ごめん……」
ダイゴの言葉に頭が上がらない麗奈。
「だからよ。『ペインツ』は解散しようって話をしてたんだ」
「……! それはちょっと待って!」
「だいぶ待ったよ」
今日で、文化祭から1ヶ月が経っていた。
その分、2人は待ったのだ。
「麗奈、もう4人で演奏できることなんてないんだよ」
下された判決は麗奈にとっては急すぎた。
しかし、2人からしてみれば長い戦いがあった。
「もうオレたちは待てない。もう4人集まらないんだから解散だ」
「よ、4人いなきゃ『ペインツ』じゃないんだよ! オレとダイゴと、麗奈と、海翔と」
麗奈はその場に背を向け、走って出てこうとした。
扉を開けて止まり、振り返る。
「4人集まればいいのよね! なら連れてくるわよ! あのバカ野郎!」
その場から去る。
もう校内にいないことは容易にわかった。
なら、行く場所は決まっていた。
走って外に出て、駅に向かう。
電車に乗り、いつも降りる駅より前の駅で降りる。
そしてまた走り出す。
急に雨が降りだした。
あの時のような冷たく強い雨。
気持ちを暗くさせる雨。
でも、もうなにも感じなかった。
記憶が戻った麗奈はあの感じを、本当の記憶を確かめたかった。
来たのは、海翔の家だった。
門の前で立ち尽くす。
息を切らしたまま、インターフォンを押した。
「海翔……、海翔……、」
その声を待った。
しかし、いつまで待ってもインターフォンから声は返って来なかった。




