表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/216

第百九十八小節:突然




 その日の放課後はやけに賑やかだった。


 ただ単に部活が一斉活動しているだけなのだが。


 そのなか、【ペインツ】は部室にいなかった。


 麗奈がまだ、戻らないからだ。


 否、戻れるはずがなかった。


 葵が海翔を捕まえて、彼と話すならばまず彼女の了承を得なければならないほど、葵は束縛を強めていたのだ。


 ダイゴさえも、ユウヤさえも。


 2人は学校から早々と抜け、校門の前に停まっている黒い車に入っていった。


 どうやら次のライブの打ち合わせに行くようだった。




 その頃、教室では、1人机に突っ伏す麗奈がいた。


 寝ている。海翔が起こせない。他の人はなるべく関わりを断とうとしている。


 誰も起こしにいかないのだ。


 気付いたら1人。


 それが、どれだか寂しいものか、誰も知らないのだ。


「あの…、大丈夫ですか?」


 そんな麗奈にゆっくりと近付いてくる人がいた。


「あのー…」


 その子は麗奈の肩を優しく叩く。


「んー…」


 うなり声を上げ、ゆっくりと頭を上げる麗奈。目は細く、まだ眠たそうであった。


「起きました?」


 麗奈は聞き覚えのない声の方にゆっくりと顔を向けた。


「あ、」


 2人は互いを指差し一様に言う。


「朝の…」


 男の子は海翔の席に座った。


 ユニフォームを着ていて、どうやらサッカー部の人らしかった。


「朝はすいませんでした」


 男の子は深々と頭を下げた。


 麗奈は目を擦りながら、可愛らしいその子の仕草を見て素直に笑顔を見せた。


「いいよいいよ。遅刻した私も悪いし」


 男の子は頭を上げて、それでも申し訳なさそうな顔をしていた。


「てか、なんでこんなとこにいんの?」


 麗奈はふと思った疑問を投げ掛けた。


「あの、それは……」


 頭を掻き、目をそらす。


「大切なもの落としちゃって……」


「どんなもの?」


「え、」


 男の子は答えるか否かを悩む。その様子を不思議そうに眺める麗奈。


「腕輪です。皮製の」


 麗奈は頭を傾げた。


「ごめん、見てないわ」


「で……すよね」


 かなり残念そうに肩を下ろすその子を見て、


「見つけたら教えてあげるから」


 そう笑顔で言い放つ。


「ありがとうございます」


 溜め息混じりの言葉。


 辛気臭い感じに麗奈はイヤになり、男の子をどつく。


「ほら、男が暗い顔してたらモテないわよ! ほら、笑って」


「え!」


「いいから笑いなさい」


 男の子は下がっていた頬を無理矢理上げる。


 歪な笑顔だった。


 お決まりのように、その顔を見て腹抱えて笑う麗奈。


「笑わないで下さいよ!」


「だって……ハハハ!」


「やめてくださいって!」


「しょうがないじゃん……カワイイんだもん」


 麗奈は男の子の鼻をピンッと指で弾いた。


 男の子におかしな感覚が襲った。


「私、麗奈。美島麗奈2年。君は?」


「オレ、オレは……弘太郎。上條(かみじょう)弘太郎(こうたろう)1年」


「こうたろう……、長いからコウ君でいい? 良いわね。決定!」


 相変わらずの感じに、弘太郎は着いていけるはずもなく、ただただタジタジとしていた。


 2人の出会いは不思議と突然すぎた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ