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第百八十八小節:不協和音



 閉会式。


 部活賞は2位ダンス部、1位軽音楽部。


 文化祭大賞は、2年生である海翔たちのクラスの焼きそば。


 そう発表し、表彰して終わり、


 そして後夜祭。


 毎年のように、サッカー部の漫才、ダンス部、先生バンド、そして軽音。


 軽音の1番は【ラブラドール】。


 舞台に上がり演奏を始める。


 緊張している由梨だが、どうやら恐怖は克服していた。


 それを袖で見ていた海翔はほっと息を吐いた。


 そんな海翔を横目で見る麗奈は暗い顔をしていた。


 【ラブラドール】の演奏が終わる。


 次の【ペインツ】と交代する。


「お疲れ。良かったぞ」


 由梨の肩をポンと叩きそう呟く海翔。


「ありがとうございます!」


 演奏を終えた安堵感と憧れの先輩からの言葉で、由梨の笑顔は華やかに、汗と共に輝いた。


 いつもの様子なのだが、麗奈はイライラしていた。


 【ペインツ】が演奏を始めた。


 ドラムのリムショット一撃。


 爆裂音が鳴り響き、全員が一斉に入る。


 音の波が会場を圧倒させる。


 麗奈は歌う。


 悲しみの歌を。


 その曲は葵を、薫を、絶句させた。


 音の波を貫き、一線の凍てつく槍を放つ麗奈。


 その曲を歌うには、苦しすぎた。


 【ペインツ】の番が終わり、麗奈だけが退場する。


 次は葵こと、胡桃が歌うのだ。


 2人のすれ違い際に、麗奈は呟いた。


「海翔のこと、お願いね」


 葵は意味がわからず返事できなかった。


 麗奈はそのまま袖に姿を消した。


 葵はそれを不安そうに見つめて、振り返り舞台の中央に向かった。


「はーい! クルミでーす!」


 胡桃のライブが始まった。


 麗奈はその音を背中に感じながら、体育館から出ていった。


 そのまま教室棟に入り、真っ暗な廊下を歩く。


 階段をゆっくりと上る。


 そして、立入禁止の場所に入り、ほこりっぽい階段を1階分上る。


 そして、普段は使われない扉を開け、外に出た。


 屋上だ。


 雨が冷たく降り注ぐその場に、麗奈は足を踏み入れる。


 長い髪は雨を弾く。


 その中を歩いていき、安全のための柵に手を置く。


 意を決したかのようにその柵を乗り越えて、足場ギリギリの場所に立つ。




――モウ、ツカレタ――










 その時、葵のライブが終了し、海翔は逃げるように舞台を降りた。


 そして麗奈を探すが、どこにも見当たらない。


「麗奈ちゃんなら体育館出ていったわよ」


 そんな海翔に近寄ってそう言う薫。


「どこに行ったかわからないけど」


「ありがとうございます。大体想像つきますから大丈夫です」


 海翔は笑顔を見せて、走って体育館を後にした。




――ワタシガイルト、カイトガフコウニナル――




 海翔は片手に紅の蝶のペンダントを持ち、鼻歌を歌いながら、ゆっくりと教室棟に入り、階段を上っていく。




――コレイジョウ、メイワクカケチャイケナイヨネ――




 立入禁止の場所に入る。


「何て言って渡しゃぁいいんだ? そんなことどうでもいいか」




――イチドクライ、イイタカッタナ――




 ほこりっぽい階段を上り、扉に手をかけ、開けた。




「大好きだよ、大好きだよ海翔」




 海翔の視界からゆっくり消える人。


 雨の中、華やかに咲く花火。


「れ……いな?」


 どん。鈍く鳴り響く。


「な……んで……」


 海翔は走って柵に近寄る。


「どうしてだよ……」


 そこから出来るだけ下を見た。


 ちょうど、下にいた人たちが麗奈に近寄る。


「麗奈ぁぁァァァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 花火が豪快に鳴り響く。


 それを聞いて喜ぶ声。


 麗奈を見て残酷に叫ぶ声。


 救急車の音。


 雨が優しく落ちる音。






――今鳴っている


 全ての音が


 混じり合わずに


 不協和音を奏でていた――

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