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第百七十三小節:なにがしたいんだろ




 日にちは変わり、翌日の朝。


 海翔は朝食の前に露天風呂に入ることにした。


 なぜ朝なのか。混浴だからだ。去年のこともあり、たぶん誰もいないであろう朝早くに入ることにしているのだ。


 念のため海水パンツを履いている。その状態で髪を洗っていた。


 さほど時間はかからず、すぐに風呂に入る。


 あー、とジジ臭い声をあげる海翔。


 少し熱めのお湯は、朝の目覚めに良い湯加減で、本当だったら夜に入って疲れを取りたいくらいに気持ち良いものである。


 辺りを見回せば、広いお風呂にただ1人。海翔は興味本意で、適当に捜索してみることにした。


 泳げるほど広いお風呂をカエルのようにスイスイと進む海翔。お風呂の真ん中にある、いかにも趣がある、大きな岩を1周しようとして、半分まで来た時だった。


 目の前に人影。むしろ、それに当たってしまい、やけに柔らかいものに、顔が埋め込まれた。


 瞬間、女性の叫び声が響き渡った。









 海翔の頬には、真っ赤な手形がくっきりと残っていた。


 女性の正体は、サラ。どうやら、海翔と同じで、混浴が嫌だから、たぶん誰もいないであろう朝早くに入っていたら、男性の脱衣所の扉が開く音がして、急いで岩影に隠れていたそうだ。そうしたら、見事に、海翔が胸に挟まってきたという状態になったとか。


「ホントすみません」


「わ、私の方こそ、叩いたりしてごめんなさい」


 とても気まずい空気が流れていた。


「先輩って頭スゴく良いんですね」


 海翔が突然、変なことを言い出したから、サラは更に取り乱してしまった。


「べ、別に、頭なんか良くないよ」


 すぐに冷静になったが、あまり、聞いてはいけないことだったようで、落ち込んでしまった。


「ムイみたいに、物事をハッキリ言えないし、センみたいに、的確な判断出来ないし、薫みたいに、みんなを引っ張っていく力ないし」


 海翔もそればかりはなにも言い返せなかった。


 【グランドマイン】の中で、1番地味キャラで、決して話上手じゃなく、それでいてモテるような容姿でもない。普通の、女の子。


 その女の子が、あの個性派揃いのバンドの中にいて、劣等感を感じない訳がない。


「大学も、お父さんが早稲田に行けって言うから、私の意思じゃないんだ」


「じゃぁ、先輩はどうしたいんですか?」


「私、私は、」


 言葉に詰まる。


「小説書きたい」


 意外だった。


「大学行ってもできますよね」


「そうなんだ。だから今は受験がんばる」


 海翔は少しばかし混乱してしまった。


「応援してますよ」


「ありがとう」


 先に、サラがお風呂から上がる。それを感じながら、海翔もお風呂を出た。


「オレは、なにがしたいんだろ」


 海翔の口から漏れる言葉。


 意味深に左手首を右手で押さえながら、動かしていた。

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